スイスでは「子育ては母親の仕事」という価値観が根強い。スイス人女性は外国人女性よりも昇進が少ないーという調査結果もある。伝統的な家族観がスイス人女性のキャリアアップを阻んでいるのだろうか。
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キャリアアップの面では、スイス人女性は男性ほど成功していない。これは外国人女性と比べても同じことが言える。その理由の1つが、パートタイムで働く割合の高さだ。
スイスでは正社員でもパートタイム勤務が可能。ここでいうパートタイム勤務とは、日本のアルバイトとは性質が異なる。スイスでは勤務時間はパーセンテージで表され、100%のフルタイムなら一般的に週40時間の週5日、パートタイムの80%なら週4日、60%なら3日働くというようなイメージ。
外国人女性が昇進しやすい
男女平等を目指すスイスの企業連盟アドバンス外部リンクとザンクト・ガレン大学が昨年9月に発表した調査「ジェンダー・インテリジェンス・レポート2019」では、フルタイムで働く人ほど昇進していることが分かった。国内55企業(従業員100人以上~3万人未満)、計26万3千人分のデータを分析した結果、非管理職だと男女比が同じなのに対し、管理職に上がると男性71%、女性29%に分かれた。
調査では「(スイスの)女性はキャリアアップで重要な31~50歳の間、男性よりも労働時間を減らして働いている」とし、伝統的価値観とフルタイム勤務文化が女性の昇進を妨げていると指摘する。
さらにスイス在住外国人女性とスイス人女性を比べた場合、非管理職ではスイス人約7割、外国人約3割なのに対し、上級管理職ではそれぞれ6割、4割と差が縮まる。
スイスの伝統的家族観
調査担当者は、スイス社会の伝統的な家族観が、女性のキャリアアップを阻む1つの理由だと分析する。ザンクト・ガレン大学のグドルン・ザンダー教授は「異文化圏出身の女性は、子供の世話を第三者に任せることへの抵抗が薄い」と語った。
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一方、スイスでは女性だけが子育てのため労働時間を減らすことが多い。それが理由で昇進から遠ざかってしまうという。
調査では、女性の平均労働時間は約85%(週40時間をフルタイムとすると34時間)だ。昇進を望むなら少なくとも5〜10%上げる必要がある。ザンダー教授は「どの企業も、管理職に就く女性にはフルタイム勤務を求める」と言い、その風習を変えるには仕事と家庭を両立できる柔軟な勤務体制を企業が整えなければならないと強調する。
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1997年に全日本空輸(ANA)のジュネーブ支店を立ち上げ、以来約23年間、支店のトップとしてスイス市場を開拓してきたアベル美穂さん(57)。子育てとの両立は「家族の支えがなければここまで来られなかった」と振り返る。
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政治がイニシアチブを
デンマーク出身のアニータ・エッカードさんは、スイス最大の建設会社インプレニアの幹部に昇進したばかり。フルタイムで働く母親だ。SRFのインタビューで子育てとキャリアの両立を問われると「デンマークでは誰もそんな質問をしない。夫がとても協力的で、家事を分担している。だからフルタイムで働ける」と語った。
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エッカードさんは、女性にも仕事のチャンスが与えられているということを、外国人女性もスイス人女性も認識すべきだと考える。「管理職に就く女性が増えれば、若い人たちの手本になる。女性だってキャリアを積むことはできるし、必ずしも自身の母親や義理の母親が望むように、家で子育てだけしている必要はないということも示せる」と話す。だが最も大事なのは政策で「家族をサポートし、共働きの2人が仕事と家庭を両立できるような政策をスイス政府が講じるべきだ」と話す。
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