スイスでは、才能豊かな10代の生徒の多くが教職を希望するー。経済協力開発機構(OECD)の調査でこんな傾向が明らかになった。他の加盟国よりも顕著だという。
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OECDは生徒の学習到達度調査(PISA)の一環で、15歳を対象に「30歳になったらどのような仕事に就きたいか」と聞いた。するとスイスでは、全体の6%が「教師」と答えた。OECD加盟国の平均は4.2%で、労働力全体に占める教師の割合(OECD平均2.4%)より高かった。
またフィンランド(4.6%)やシンガポール(4.4%)など、PISAでトップランクの成績を誇る国も上回った。
男女別では女子が9%、男子が3%と女子の方が高かった。これは他のOECD諸国と同じ傾向だ。
優秀な生徒
教職を希望するのは成績の良い生徒が目立った。OECDのアナリスト、フランチェスコ・アヴィサティ氏はスイスインフォの取材に対し「スイスの教職は比較的賃金が高く、社会的地位も良い。キャリアを高めるチャンスも豊富だ。(成績の良い生徒が教職を目指すのは)その表れではないか」と分析する。
昨年、スイスの中学校教師の初年度の年収は6万7483フラン(約710万円)だった。一方、仕事量やストレスの多さなどが問題になっている。
>>スイスでバーンアウトする教師が急増
OECDはさらに、質の高い指導法と生徒の学習到達度、国の教育政策などについて調べた。
指導法と生徒の学習到達度
アヴィサティ氏は「スイスがPISAで高い効果を出しているのは、この国には教師の育成や選抜、キャリア形成を行う優れたシステムがあるからだ。PISAで好成績を出した国々には違いこそあれど、生涯学習と専門研究が教師の職務の一部だという点では一致している」と話す。
各国の教育システムを調べた2015年のPISA報告書はスイスについて、親の教育や職業、裕福さといった社会経済的地位が成功を左右する国だと指摘している。
アヴィサティ氏はまた、教師の資質形成と生徒の学習到達度に関連があると指摘。「スイスでは、資質に恵まれない生徒に注力する学校は、教師の人数を増やしたり質を向上させたりしても目立った効果が出ていない。そういう学校の半分(44%)は資質に恵まれた学校(3%)と比べ、教員不足のせいで指導力に影響が出ている」と話す。
「そうした学校に資源を追加配分すれば、あらゆる子供に対し、彼らの社会的背景に関係なく公平なチャンスを与えることが出来る」とアヴィサティ氏は話す。
反応
スイス教職員連盟のフランツィスカ・ペーターハンス副代表は、教師に求められる資質や義務が増えている現状に触れ、教師の資質向上にもっと力を入れるべきだと指摘。その例として個別学習やコンピュータサイエンス、プログラミングなどの習得を挙げた。スイスドイツ語圏、フランス語圏の教職員連盟はいずれも、小学校教師に大学の修士号が必要だと感じている。
ペーターハンス氏は「社会的平等」も重要な要素だと指摘する。教師が自分のレベルよりも高いクラスや科目を担当するなど、質のミスマッチも実際に存在する。
教員不足の事情は州ごとに異なるが、特別支援学校の教員不足解消は急務だ。それにはより多くの投資と努力が必要だとピーターハンス氏は指摘する。雇用者は教師が必要な資格の取得やトレーニングを受けられる環境を整備し、新任教師の採用拡充を図らなければならない。
ペーターハンス氏は政府の教育予算削減を問題視。「近年、教師の労働条件は悪化し、残念なことに社会的地位も低下している。教師のキャリア形成の視点が欠落していることも問題だ」と話した。
(英語からの翻訳・宇田薫)
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真面目に働いても大富豪になれるとは限らない
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スイスは億万長者が人口に占める割合が世界で最も高い。人口は大阪府よりわずかに少ない約800万人だが、英国の不動産コンサルタント大手ナイト・フランクの資産調査では3000万ドル(約33億円)以上の資産を所有する人が約7千人いるという。これだけ富豪が集中する国はほかにはない。一方、富の格差を長年研究するバーゼル大学のウエリ・メーダー教授(社会学)は「誇るべきことではない」と警鐘を鳴らす。
メーダー教授は社会格差が生まれる原因を長年研究。10億フラン以上の資産を持つ大富豪に関して「コツコツと自分の力で上り詰めた人はいない」と指摘する。
スイスインフォ: 調査によれば、スイスには莫大な富が集まっています。大富豪をこれだけ魅了する理由は何でしょうか?
ウエリ・メーダー: 安定した政治と(大富豪にとっての)有利な税制だ。とりわけ資産と遺産関連の税制が魅力で、海外から多くの資金が集まっている。優れた投資コンサルティングもある。一部の経済界では、非常に高額の給料がもらえることも一因だ。
スイスインフォ: 大富豪はどのようにしてこれだけの富を得たのでしょうか?
メーダー: 裕福な家庭の生まれか、その一族と結婚して資産を相続するなどのケースが多い。2016年に1年間連邦大統領を務めたヨハン・シュナイダー・アマン経済相や元閣僚のクリストフ・ブロッハー氏の子孫などが有名な例だろう。
スイス国内全体の遺産相続関連資産の4分の3を、相続者全体のわずか1割が独占している。この国である人の資産が急激に増加した場合、例えば国内の億万長者上位300人が資産を1千億ドルから6千億ドルに増やしたとすると、それはだいたいが遺産相続によるものだと想像できる。
また、特定の経済界で法外な給与が支払われていることも、億万長者を生んでいる理由の一つ。働き者で斬新なアイデアを持つことも確かにその理由に挙げられるが、過大評価されている面が否めない。大富豪の多くは斬新なアイデアなど持っていない。地価の上昇で利ザヤを得るなどのマネーゲームをしているだけだ。
スイスインフォ: 億万長者は外国人とスイス人のどちらが多いのでしょうか?
メーダー: 億万長者の約半数が国外から移住してきた人だ。彼らにとってスイスが魅力なのは、スイスの納税額には上限があり、一定のラインを超えるとその額が変わらないこと。過去には銀行の秘密主義も外国人を魅了した。現在では、大企業関連の富も多く集まっている。
スイスインフォ: 良い学校を出てまじめに働き、運にも恵まれて巨万の富を得た人はいないのでしょうか?
メーダー: 資産家の大半は何もしなかったのではなく、何かしら自ら努力している。しかし、金融ビジネスなどでここ10年の間で急激に資産を増やしたケースを見ると、自ら汗を流してきたとは言えない。
スイスインフォ: 例えば皿洗いから大金持ちにのし上がる人もいます。まじめに働いて大富豪になれるのでしょうか?
メーダー: そのようなまじめな人はいない。これらの富は常に他の人の犠牲の上に成り立っている。大富豪の多くは、あたかも自分の力で苦労して富を増やしたかのような感情を抱いているが、それはまやかしだ。
バーゼルで私は時折、経営者に会う機会がある。一人がこんなことを言った。「メーダーさんは、助けを必要としている人に常に手を差し伸べるのですね」と。そういう彼自身が経営する会社は親から受け継いだもので、資産だって自分が稼ぎ出したものでないことに、彼自身全く気付いていない。
スイスインフォ: しかし「幸福は自らの手で築くもの」「努力なくして成功なし」ということわざがあります。これは間違いなのでしょうか?
メーダー: スイスにはフルタイムで働いているのに成功していない人はたくさんいる。給料が少ない業界にいるからだ。まじめに働いたら富を築けるという保証はどこにもない。
スイスインフォ: この国では資産家は歓迎されています。多くの地方政治家が、資産家に有利な施策を打って富裕層を呼び込もうとしています。これは地元社会にとって良いことなのか、それとも悪いことなのでしょうか?
メーダー: 私たちに利益は生じない。確かに、資産家が支払う多額の税金は小さな自治体においては影響が大きい。だが第一に、彼らに自治体が依存するようになってしまう。さらに自治体と州の間で税率の引き下げ競争が始まり、結果税収が減って不動産価格と地価が上昇してしまう。第二に、例えばある富を複数の人間が少しずつ分け合っていたとする。この場合、各個人の所得税などの税額は上昇する。一人が同じ富を独占し多額の税金を払うのと全体の税収額は結果的に変わらない。
社会の連帯と平和な労使関係を重要視する民主主義国家にとって、富がより良く分配される方が確かに好ましい。
私は裕福な人を非難しているのではない。ただ、お金持ちが地元に住んでいるからといって感謝する必要はない。一方では生計を立てるのに身を粉にして働いている人がいて、他方では裕福な家庭に生まれ苦労を知らない人がいる。そんな格差を目の当たりにするとやりきれなくなるが、それでもお金持ちが地元にいることに感謝してしまう、そういう気持ちは残念ながら文化的に根付いてしまっている。
スイスインフォ: スイスでは第二次世界大戦後、コツコツ働いてそれなりの富を蓄えた中流階級がかなり増えました。
メーダー: 1950~70年代、幅広い層が経済的に豊かになった。72年の国内の失業者はわずか106人だったという。社会的補償というリベラルな概念が根付いたのはその時だ。勤労と資産はバランスのとれた関係であるべきだ。ここ数年、あるパラダイムシフトが起きている。今日では、仕事よりお金の方がはるかに重要になってきているのだ。お金が物事のすべてになってしまっている。多くの人は社会的な格差を問題視することなく、それを社会の活性化のしるしだととらえている。
スイスインフォ: スイスの状況はそれほど悪いのでしょうか?
メーダー: 最後に一つ肯定的なことを言うならば、私は資産家を何人か知っているが、彼らは現在の状況に批判的で、そこに潜む危険性をよく分かっており、抑制的になるよう呼びかけている。富の格差
経済協力開発機構(OECD)の2015年調査によれば、億万長者が人口に占める割合はスイスが世界で最も高い。スイス国内の大富豪上位300人は、3人に1人が10億フラン以上の資産を保有。これは世界の大富豪の14人に1人がスイスに住んでいる計算になる。
スイス労働組合連合の16年の報告によると、スイス国内の高額納税者の2.1%が持つ純資産は、残りの97.9%が持つすべての純資産と同じ。約4分の1の納税者については、純資産が非課税。
資産の配分を示すジニ係数は、0~1の数値を取り、1だとすべての資産を1人が独占している状態で、0だと資産が均等に分配されている状態。つまり、1に近いほど格差が大きく不平等になる。公式な統計では、スイスのジニ係数は0.8で、世界で最低ランク。
自分の力で大富豪になれるのか?
「コツコツ働いているだけでは莫大な財産は得られない」という説には、研究者の間でも異論が出ている。社会奉仕活動に詳しいバーゼル大のゲオルグ・シュヌルバイン教授は「経営者家族の下に生まれた人が優れたアイデアを考案し、それがビジネスとして成功した場合、それは間違いではない」と指摘。「ビジネスの発展には、ある種の徹底した厳しさが背景にあったということは否定できない。しかし、裕福になった人が必ず悪いことをしたと考えるのは間違いだ。貧しい人自身にも責任はない。裕福になるのはその時の社会環境も理由の一つだ」
同教授によれば、スイスは多くの大富豪から恩恵を受けているという。例えば同教授は社会、文化、環境団体は「金持ちの慈善行為に依存している」と指摘する。
国内にいる大富豪の大半は経済界で財を成した人たちだ。海外からの移住者が多いのは、魅力的な税制、地理的な利点、治安の良さと安定した政治、金融の中心地があることなどのスイスの特性が大きな理由となっている。
自治体が富裕層をうまく呼び込めるかについて、シュヌルバイン教授は「内的矛盾をはらんだ戦略と言える。少数の人間が予算を支えている場合、リスクは極めて大きい。この少数の人間はいずれ別の場所に移住するかもしれない。それまで潤沢な財政を背景に予算を組んでいた自治体は窮地に陥る」と話す。
また同教授は、私有財産が非常に増加してきたとし、「一部の人間は巨万の富を得た。グローバリゼーションの影響で、富があるところにさらなる富が集まるようになった。ある一定のレベルに達すると、富を得るために何もしなくてもよくなる」と話す。
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