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拷問とは、消滅させにくいもの

Tim Hetherington/Magnum

拷問。それをアルゼンチンの軍事独裁政権下で自ら体験したフアン・メンデス氏は、生涯を拷問の撲滅に捧げる決心をした。

現在、国連人権理事会(UNHRC)の拷問に関する特別報告者として活躍るするメンデス氏に、6月26日の「拷問の犠牲者支援国際デー」にインタビューした。

swissinfo.ch : シリアの状況をどう思われますか。

メンデス : ひどい状況だ。非合法的に死刑が実行され、行方不明者も続出している。拷問も当然のように行われている。一般市民に対する抑圧もあまりにも野蛮な方法でなされており、拷問だと言ってもよいくらいだ。

現在、我々の働きかけに対し、シリア政府は何の反応も返してこない。

swissinfo.ch : 「アラブの春」以降、こうした国々の中で特に指摘すべきことがありますか。

メンデス : リビアは心配だ。なぜならリビアには国家指揮下にない多くの義勇兵がおり、こうした兵士が非公式の刑務所で拷問を行使している疑いがあるからだ。国際社会はリビア政府に厳しい態度で臨み、対策を講じるよう要求すべきだ。

エジプトに関しては、正式に私を招待するよう要請しているが、現在のところ返事がない。ただ人権は向上しているように思える。しかし、情勢がかなり不安定なため安心はできない。現在、エジプトの軍部は法治国家の諸制度に沿って統制されなければならないと思う。

swissinfo.ch : 恒常的に行われる拷問に終止符を打つ動きが、こうした地域に現れてはいませんか。

メンデス : チュニジアでは、ゆっくりだが確実に変化が起きている。革命後の政権は拷問廃止に向け努力する意図を持つ。しかし、拷問は単に一つの政権の命令で簡単に撲滅されるようなものではない。

ベン・アリ政権時代に行使された拷問は、今までに我々が見聞きしてきた拷問の種類をはるかに超える、言語に絶するようなものだった。従って、すぐに(その慣習)は消えず、まだ行われていると考えられる。ただし前ほどひどくはない。警察などセキュリティ関係当局は新しい変化にまだ慣れていないというのが現状だ。

現在大切なことは、前政権が行った犯罪の責任を追及し、犠牲者に補償を与えることだ。たとえ20年もの歳月が過ぎてしまったとしてもだ。

swissinfo.ch : あなたの任期が終了する前に、こうした「アラブの春」が起こった国々に対して期待されることは。

メンデス : 国際的な規範を実行すること。つまり、入獄者は全員登録されること。刑務所のすべての所在地が公表されていること。また定期的に検査が入ることなどだ。

拷問とは、なかなか消滅せず、すぐにぶり返してくる性質のもの。それを南米で経験している。(南米の)国の治安部隊は、市民社会が監視していないと感じるや否や、ただちに古い慣習に戻ろうとした。なぜなら拷問を行う方が結果が早く出るからだ。

swissinfo.ch : ところで、(拷問に関して)現在最も心配な国はどこでしょうか。

メンデス : 私を招待しない国が一番心配だ。たとえばバーレーンのような国だ。我々のような「拷問に関する特別報告者」の招待を18年前に要請したが、拒否し続けている国々が存在する。

swissinfo.ch : 招待された場合、現地でどういったことをなさるのですか。

メンデス : 訪問の許可を得た場合、独自に自由に、あらゆる刑務所や拘束所を訪ねる。私が一人で自由にいつどこの刑務所を訪ねるかを決める。招待した国が行うことは、「拷問に関する特別報告者」が現在国内にいることや、もし彼が来たらすべてにアクセスできるように前もって全国に知らせておくことだけだ。

また、囚人たちと面談もする。もう一つ大切なことは、一般市民の誰からもいつどこででも話が聞けることだ。また話をしてくれる人もその後の報復を心配せずに自由に話せることだ。

swissinfo.ch : 拷問といえば途上国のできごとと考えがちですが、西欧の先進国でも存在するのですか。

メンデス : 9・11米同時多発テロ以来の対テロ戦争の動きの中で、アメリカのように拷問が再び出現した先進国がある。それは「溺死のシミュレーション(ウォーター・ボーディング・water boarding)」のような、非常に残酷な形のもの。この拷問を軽く見なす人もいるが、窒息死を引き起こすこともある、残忍なものだ。

忘れてならないことは、対テロ戦争の流れの中で心理的拷問が使われ始めたことだ。それは髪の毛1本さえ損じないが、後遺症が残るものだ。たとえば、1日に23時間4平方メートルの部屋に閉じ込めておくことは、実際行われている、この種の拷問だ。

我々は、身体的な拷問に対してと同時にこうした心理的拷問の撲滅に対しても戦っていかなければならない。

swissinfo.ch : ブッシュ政権時代のグアンタナモ収容所の話をされているのだと思いますが、その後変わりましたか。

メンデス : バラク・オバマ米大統領は、大統領就任の翌日には拷問を禁止する命令を下した。実際、この過去3年間、アメリカから拷問に関する密告がないのは驚くべきことだ。我々が聞くのは、すべて前大統領の時代のものだ。

しかし、アメリカは拷問を禁止したことだけに満足していてはならない。前大統領時代の拷問の真相を追及し、それを罰する必要がある。

残念ながら、オバマ政権はブッシュ政権時代に行われた拷問の調査を全面的に禁止している。国家機密と安全を盾にしてだ。

swissinfo.ch : 最後に、こうした任務に就かれていると絶えず拷問の例を見聞きされます。若いときご自身も拷問を受けた経験を思い出し、辛く感じることはありませんか。

メンデス : 多くの犠牲者の証言を何年間も聞きながら、(経験のせいか)その人たちの苦痛やトラウマをよく理解できる。それは良いことだ。一方、拷問の話の中で、より強く心を揺さぶられるものと、さほどでもないものとがある。

だが、最も危険なのは、拷問の苦痛や拷問を受けた犠牲者の家族の苦悩を(社会が)忘れてしまいがちなことだ。よく思い出すのは、キルギスタンの夫婦のこと。息子が拷問を受け6カ月後に解放された。この夫婦はあらゆる回復の努力をしたが、拷問のせいで結局息子は亡くなってしまう。これは夫婦も家族全体をも崩壊させた。つまり拷問は、息子だけを死なせたのではないということだ。

1944年、アルゼンチンのマル・デル・プラタ(Mal del Plata)に生まれる。1970年に弁護士の資格を取得。

1973~1983年の軍事革命政権による弾圧下、政治犯を弁護したメンデス氏は、18カ月間刑務所に収容され拷問を受けた。NGOのアムネスティー・インターナショナル(Amnesty International)が圧力をかけたお蔭で釈放され、また同NGOの援助によりアメリカに亡命。

アメリカでは、移民労働者の権利の擁護と市民権擁護に力を注ぐ。6年間、NGOのヒューマン・ライツ・ウオッチで働く。インディアナ州のノートルダム大学の市民権・人権センターの所長であると同時に教授職も務めた。

2004~2007年に、コフィ・アナン前国連事務総長にジェノサイドの犯罪責任追及とその予防のための特別補佐官に任命される。

2010年、現在の国連人権理事会(UNHRC)から拷問に関する特別報告者に任命された。

( 仏語からの翻訳・編集、里信邦子 )

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