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武漢に帰ったスイス・中国人一家

The Wuhan checkpoint
武漢に帰着したエマニュエル・マティアス・ジーベレンさんが車内から撮った写真 Emmanuel Mathias Geebelen

中国で新型コロナウイルスによる肺炎が広がり、震源地の武漢市は世界から隔離されつつある。春節(旧正月)に香港に旅行していたスイス・中国人家族が、武漢に帰宅するまでの道のりは困難を極めた。

中国湖北省の省都・武漢市を中心に広がるコロナウイルスは、全世界を震撼させている。周仙王市長は先月26日、新型ウイルス発生以降、市民1100万人のうち最大500万人が市を脱出したとの推計を発表した外部リンク

だが武漢市在住のあるスイス人男性とその家族は、その流れに逆行して地元に舞い戻った。

ジュネーブ出身のエマニュエル・マティアス・ジーベレンさん(42)は2児を育てる主夫だ。妻のコニーさん(28)は湖北省出身で、幼稚園の園長を務める。2人は2019年4月に長男のニコラ君を連れて武漢市に移住。その後まもなく長女のニキータちゃんが生まれた。

Emmanuel Mathias Geebelen and his family
エマニュエル・マティアス・ジーベレンさんとその家族 Dennis Lindbom

北京にあるスイス大使館によると、感染拡大の前は武漢市内にスイス国籍者が8人住んでいたが、その半数ほどが留まることを選んだ。ジーベレンさんは在留届を出していないため、この8人には含まれていないと話す。

ジーベレン家は旧正月の間、香港を旅行した。他の多くの中国人家庭と同じように、何カ月も前から予定していた旅だ。

一家は香港の離島・ラマ島に泊まることを決めた。日常生活を抜け出し、都会とは別の世界に浸れる場所だ。島には車が走らず、風変りなレストランやバーが密集するエリアがある。ジーベレン一家は13年にスイスを離れたあとここに住んでいた期間があり、そこでの生活が気に入っていた。エマニュエルさんは大の登山好きで、香港のあちこちのハイキングコースを歩いた。もっと若い頃はバックパックで世界を回った。

封鎖された街

中国政府は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、武漢市と湖北省の大部分を封鎖した。

ジーベレン家は香港に留まることを検討した。エマニュエルさんはスイスのパスポートで香港に滞在することもできたが、コニーさんと2人の子供は中国籍で、査証は期限が迫っていた。武漢市民の受け入れを拒否する都市が増え、他の行き先は限られていた。

一家は武漢市への帰宅にはさらなる困難が待ち受けていることを分かっていた。武漢に近い襄陽空港へのフライトは、感染拡大を受けてキャンセルになっていた。

飛行機代は払い戻されたが、一家は他の交通手段も利用できなくなる前に計画を変更しなければならなかった。電車に乗り込み、武漢で下車できるか試すことにした。

「それは賭けのようなものでしたが、他に選択肢はありませんでした」とコニーさんは話す。「バックアップの計画もない。誰も助けてくれないし、差し迫った状況でした」

コニーさんが心配していたのは子供のことだった。「子供を守るためにあらゆる手を尽くしましたし、2人は大丈夫だという自信もありました」

1月28日、ついに4人は武漢にたどり着いた。この日、新型コロナウイルス感染が認められた患者は6081人、死者は132人だった。

一家が鉄道の乗車券をネットで購入した時、武漢行きのチケットは買えなかった。問い合わせてみると、担当者は列車が武漢市内に停まるかどうかも分からないと答えた。 そこで武漢の一つ手前の駅、岳陽までの切符を買った。

予約したのはビジネスクラス。乗り込んだコンパートメント(個室)は満席だったが、他は不気味なほど空いていた。エマニュエルさんは他のコンパートメントを見に行ったが、乗客は誰も見つからなかったと語る。

幸いにも岳陽から先に旅を続けることができた。「電車の中で武漢までの切符を譲ってくれないか他の乗客たちに尋ねてみると、売ってくれる人がいたんです」

幽霊列車

それは4時間を超える長旅だった。幽霊列車のように車両はほぼ空っぽだった。一家が武漢に着いた時、街は別物のように変わっていた。

「そこには人っ子一人いなくて、全てが戸を閉ざしていました」――いつもは賑やかな武漢の中央駅に降り立った瞬間を、エマニュエルさんはこう振り返る。

「パンデミックの中心地に行くと、誰も何も気にしなくなります」とジーベレンさんは笑う。「戦争に行くようなもので、いったん足を踏み入れればそれで終わりなんです」。他の駅や幹線道で、人々が健康診断を受けているのも見たという。

武漢駅の外にいる旅行者はほぼ皆無だった。本来なら今は旧正月の旅行者が帰宅ラッシュを迎え、駅はごった返している時期だ。

だが今年は例外だ。コニーさんは「職場の同僚は99%が旅行をキャンセルしなければなりませんでした」と話す。「お正月の間、ずっと家にこもっていなければなりませんでした」。当局が自宅から出ないよう勧告したからだ。商店は閉まり、バスや地下鉄は運休した。

友人が一家を車で迎えに来て、アパートへ送ってくれた。ジーベレンさんによると、道路には何カ所か検問があったが、ほとんどガラガラだった。普段通りの生活をいつ再開できるのか、誰にも見通しが立たない。

隔離に備え

家に着くと、一家はまず近所で唯一営業しているスーパーに向かった。当局に営業を命じられている店だった。エマニュエルさんは、他の店は全て閉まっていたと話す。今後数週間、隔離状態になると考え、冷凍庫に入るだけの野菜と肉を買った。

家では手を洗ってアルコール消毒し、食事のデリバリーには特段注意を払った。「子供たちは2人とも元気ですが、1日中家にいるのを退屈に感じています」(コニーさん)。省政府が少なくとも2月13日まで全ての事業活動を止めるよう命じたため、コニーさんも直に退屈することになるだろう。

だがエマニュエルさんは「不安かって?いいえ!何も変わっていませんよ」ときっぱり。そして政府は病気を封じ込めるため、必要な措置を講じていると確信する。

スイス当局は、武漢に留まっているスイス国籍者を避難させることを検討しているが、ジーベレン家は武漢に残るつもりだ。だがスイスに向かう道も閉ざされつつある。スイスインターナショナルエアラインズと親会社のルフトハンザは、中国発着便の運航を見合わせている

エマニュエルさんは「ここに残る」と明言した。「自ら再び危険にさらすことはない」

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(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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