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地球から命の灯が消える日は近い?

夕闇に浮かぶ枯れ木の影
私たちは今、かつてない規模で「種の絶滅」に直面している。陸と海の資源や動植物の行き過ぎた搾取、気候変動、環境汚染、侵略的外来種などがその理由だ Reuters / Nacho Doce

現存する8種のうち1種は近い将来、絶滅の危機に瀕するだろう。政府間機関「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学・政策プラットフォーム(IPBES)」はそう警鐘を鳴らす。初めて地球規模で生物多様性の現状をまとめた同機関の報告書の作成に携わったスイス人専門家に聞いた。 

「人類史上、前例のないペースで自然が衰退している。種の絶滅が進み、既に世界中の人類に深刻な影響を及ぼしている」。そう指摘するのは「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学・政策プラットフォーム(IPBES)」外部リンクだ。5月4日、パリの総会で地球規模の生物多様性及び生態系サービスを評価した報告書が受理され、政策決定者向け要約外部リンクが承認・公表された。

この報告書には400人以上の科学者が携わった。そこから導き出された結論は衝撃的だ。現在、地球上に存在する800万種の動植物のうち、100万を超える種が人間の活動のせいで姿を消す恐れがあるという。世界の主要な生息地の大半で、その地にもともと生息していた在来種の個体数は1900年と比べ少なくとも平均2割減少している。 

種の絶滅が世界規模で進んでいる背景には、生態系の急速な悪化がある。1992年以来、都市部は2倍に拡大した。また、1980~2000年の間に熱帯林は1億ヘクタール伐採された。これはフランス、イタリア、イギリスを合わせた面積とほぼ同じだ。他にも生態系に影響を及ぼす原因を列挙したらきりがない。

生物多様性を守れ!

「生物多様性」とは、地球上の生命が持つさまざまな側面、動植物の種の豊富さ、遺伝的多様性(ある種の中での遺伝子の多様性)、そして生息地の多様性を指す。 

5月22日は国際生物多様性の日外部リンクだ。スイスインフォの親会社であるスイス公共放送協会(SRG SSR)は、生物多様性を促進する独自のプロジェクト「ミッションB」外部リンクの一環で、庭やベランダに新しい自然空間を作り出すよう一般の人々に呼びかけている。

陸の4分の3と海の3分の2は、人間の介入によって大きく変貌した。生物多様性が崩壊すれば、人類が自然から享受しているメリットにも深刻な影響が出る。それは受粉に始まり、海岸浸食の防止、医薬品に利用される天然成分から空気の質まで多岐に渡る。 

この報告書の執筆に携わった専門家の一人、アンドレアス・ハイニマン氏は、「持続可能な開発と環境のための学際センター」の所長代理と、ベルン大学の地理学研究所で講師を務める。 

swissinfo.ch: 科学者が種の絶滅を危惧するようになって既に40年近く経ちます。今回「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学・政策プラットフォーム(IPBES)」が出した報告書の新しい点は何ですか? 

アンドレアス・ハイニマン: まず、報告書が作成されたプロセスが全く異なる点だ。様々な国と分野から集まった何百人もの科学者らが協力し、各国の政府に提言することを前提に報告書をまとめた。そのため、得られた知識が具体的な政策に結びつく可能性が大きいと言える。 

この報告書はまた、単に「自然には掛け替えのない価値がある」と強調するだけでなく、自然が人間にもたらすもの、つまり我々の生活の質がどれだけ自然に頼っているかについても具体的に考察している。 

swissinfo.ch: この報告書は、地球規模の生物多様性の状態とその原因、そして保全対策に関する情報が豊富です。その中で最も重要なメッセージは何だと思いますか? 

ハイニマン: 私の意見としては、現存のシステムを少し調整するだけではもう不十分だ。そのため、これまで当然と考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などを劇的に変えるパラダイムシフトが必要だ。報告書が訴えているのはそこだ。しかしこのような根本的な変化は、現存のシステムを享受する多くの関係者の立場と相反するのがネックだ。

Andreas Heinimann
アンドレアス・ハイニマン氏 © Manu Friederich

swissinfo.ch: 問題を指摘するだけではなく、解決に必要な対策も求めるハイニマンさんのアプローチ法は、科学者としては珍しいやり方です。それが問題になることはありませんか? 

ハイニマン: 個人的な意見だが、科学は明確な立場を示すべきだと考えている。地下室に隠れているような学問ではいけない。持続可能な開発を行うためには、社会的な問題を扱い、社会と向き合っていく「変革的科学」が必要だ。そして私の仕事のやり方はこの考えを反映している。 

これは政治的な立場を決めることではない。科学は、根拠のある事実に基づかなければならない。しかし利害関係者がからむと事実の方向性が曲げられる恐れがある。 

swissinfo.ch: 今なら対処の余地があると報告書は強調していますが、その内容は衝撃的です。まだ手遅れではないと考えてよいのでしょうか? 

ハイニマン: まだ希望は残されている。政治には物事を動かす力がある。1990年代のスイスの水域保全の例では、当時、比較的単純な手段で水質を大幅に改善することができた。 

今日、環境問題に取り組む意識が一般社会でも高まっている。温暖化対策を求めデモ行進を行う若者の波が先ごろ世界中で広がったのがそのよい例だ。市民の動員は不可欠だ。また、消費が環境に与える影響を透明化するなど、デジタル化も重要な役割を果たすことができる。 

swissinfo.ch: 具体的な対策はありますか? 

ハイニマン: 例えば、環境に有害な活動への補助金を廃止し、全く新しい動機づけを生み出すシステムを構築すべきだ。人類の生活の基盤がかかっているのだから、現存のシステムを享受する人々の私的利益よりも社会全体の利益が優先されるべきだ。 

経済界では、前向きな取り組みが始まっている。例えば、社会的事業を行う企業、組織、ファンドへ投資することによって、社会的成果と財務的リターンの両立を目指す「インパクト投資」や、できる限り新たな天然資源の使用と廃棄物を減らす経済システムである「循環型経済」などがある。もちろん個人レベルでも、消費を減らし、意識を高める努力をしなければならない。 

swissinfo.ch: 生物多様性に関するスイスの現状は? 

ハイニマン: スイスでは、絶滅危惧種の割合が世界平均を上回っている。インフラと農業がその主な原因であることも分かっている。だがこれは矛盾する話だ。農業では、社会に貢献する実績に対し連邦政府が農民へ補助金を出すシステム外部リンクが持続可能な生産を促進すると分かっているのに、それを実行する政治的な意思がないのだから。 

スイスは海外における生物多様性にも大きな影響を与えている。たとえば、スイスで消費される物資の供給に必要な土地の7割以上が海外にある。スイスの責任は重大だ。そのため、透明性と行動の指針が必要だ。しかし社会からの圧力がなければ、それらが実現することはないだろう。

絶命危惧種の数を占める棒グラフ
スイスで確認される種の35%は絶滅の危機にある。欧州で最も高い比率だ Kai Reusser / swissinfo.ch
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(独語からの翻訳・シュミット一恵)

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