スイスの視点を10言語で

「外国人労働者は現地の低賃金雇用奪う」はウソ スイス調査

オフィスで働く女性
スイスで働く外国人女性は移住した時点でスイス人女性の平均より収入が高い。5年後には2割以上多く稼ぐようになる Keystone

スイスの外国人労働者は、移住してから5年後にはスイス人の収入を上回ることが最新の調査で分かった。「外国人労働者の賃金は低い水準に張り付き、潜在的にスイス人から低賃金雇用を奪っている」という社会通念を覆す結果だ。移民の入国を制限しようとする議論に影響を与えそうだ。

調査外部リンクはスイス連邦経済省経済管轄局(SECO)がチューリヒ大学とザンクト・ガレン大学と共同で実施。2003年~13年にスイスに移住し、5年以上スイスで労働した25~55歳の外国人労働者(難民を除く)の就業率や収入の変化を追跡。同じ期間を通して会社勤めをした同年齢層のスイス人を比べた。年齢や学歴、働く地域などの要素は同じものとして分析した。

男性の就業率ギャップは急速に縮まる

調査によると、外国人男性は労働市場に定着しやすい。外国人男性の移住当初の就業率はスイス人男性の平均に比べ16ポイント低いが、その差は5年後には3ポイントに縮まる。また移住当初の収入はスイス人男性より6.4%少ないが、1年でスイス人を追い越し、5年後には1.9%多くなる。
その原因は明らかではないが、調査チームは言語能力の向上や人間関係の広がり、地域の労働市場に対する理解の深まりが一因ではないかとみている。

賃金の高さは、高額報酬を得る一部の企業幹部が押し上げている面もあるが、未熟練労働者であってもスイス人との収入の差は縮まる傾向がある。

女性は移住当初から高収入

一方、外国人女性については異なる実態が浮かび上がる。女性は男性に比べ高スキルを持った状態で入国する場合が多く、移住時点でスイス人女性の収入を上回る。5年目には2割以上多く稼ぐようになる。

だが移住当初の就業率はスイス人女性を27ポイント下回り、その差は5年後でも12ポイントまでにしか縮まらない。

移民神話の崩壊

調査からは、外国人労働者は移住当初の収入こそスイス人に比べ低いものの、その差は5年間で急速に縮まることが分かった。スイスでは「外国人労働者は低い賃金で満足し、潜在的にスイス人労働者の雇用を失わせている」として、外国人労働者の入国を規制するべきという政治的な議論が起きている。だが調査はこうした社会通念を否定する結果となった。

≫スイス要人に聞く 労働力不足の処方箋

≫「働きたい国」順位落ちた背景は?

調査によると、欧州連合(EU)や欧州自由貿易連合(EFTA)加盟国からの移民は、それ以外の国からの移民に比べ就業率や収入が高い傾向がある。

人気の記事

世界の読者と意見交換

ニュース

笑顔で握手を交わす閣僚

おすすめの記事

2025年のスイス連邦大統領はカリン・ケラー・ズッター氏

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦議会は11日、カリン・ケラー・ズッター副大統領兼財務相(急進民主党、60歳)を新大統領に選出した。新副大統領にはギー・パルムラン経済・教育・研究相(国民党、65歳)が選ばれた。

もっと読む 2025年のスイス連邦大統領はカリン・ケラー・ズッター氏
健康保険カード

おすすめの記事

医療費の高騰、依然としてスイス国民の最大の関心事 調査

このコンテンツが公開されたのは、 大手金融機関UBSが12日発表した調査「心配事バロメーター」によると、依然として医療費と健康保険料の高騰が最大の懸念事項だったことが分かった。環境と年金も懸念事項にあがっている。

もっと読む 医療費の高騰、依然としてスイス国民の最大の関心事 調査
連邦工科大学の校舎

おすすめの記事

スイス連邦工科大、留学生の授業料3倍引き上げ決定 25年秋学期から

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)と同ローザンヌ校(EPFL)が、留学生の授業料をスイス人学生の3倍に引き上げ、2025年秋学期から1学期当たり2190フランにすることを決めた。

もっと読む スイス連邦工科大、留学生の授業料3倍引き上げ決定 25年秋学期から
ベツナウ原発

おすすめの記事

世界最古の原子力発電所、2033年に稼働終了

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの電力会社アクスポは5日、世界で最も古いベツナウ原子力発電所の稼働を2033年に終了すると発表した。33年までの運転継続にかかる追加事業費は3億5000万フラン(約600億円)を予定している。

もっと読む 世界最古の原子力発電所、2033年に稼働終了
アルコール検査

おすすめの記事

スイスのドライバー、2割が飲酒運転

このコンテンツが公開されたのは、 欧州など39カ国のドライバーを対象にした調査で、スイスでは2割超が飲酒運転をしたことがあると回答した。

もっと読む スイスのドライバー、2割が飲酒運転
銃口

おすすめの記事

狩猟中の事故で男性死亡 スイス西部

このコンテンツが公開されたのは、 先月29日午後、スイス西部ヴォー州で64歳の男性が狩猟中に死亡した。イノシシを撃とうとした 猟友会のメンバーに射たれた。

もっと読む 狩猟中の事故で男性死亡 スイス西部
サルコ

おすすめの記事

自殺カプセル「サルコ」運営団体代表が釈放 70日拘束

このコンテンツが公開されたのは、 今年9月にスイスで初めて使われた自殺カプセル「サルコ」について、連邦内閣は、当分の間、立法措置は必要ないとの見解を示した。サルコ運営団体は2日、身柄を拘束されていたフロリアン・ヴィレ代表が釈放されたと発表した。

もっと読む 自殺カプセル「サルコ」運営団体代表が釈放 70日拘束
金塊

おすすめの記事

スイス在住長者番付2024 トップはシャネルのオーナー

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの金融誌ビランツがまとめた長者番付2024年版によると、スイス在住の富豪トップに輝いたのは、仏高級ブランド・シャネルのオーナー家族の1人、ジェラール・ヴェルテメール氏だった。上位の顔ぶれはほぼ前年と同じだが、香料メーカーのフィルメニッヒ(Firmenich)創業家が初のトップ10入りを果たした。

もっと読む スイス在住長者番付2024 トップはシャネルのオーナー
ポイ捨てされた空き缶と小鳥

おすすめの記事

スイス、ポイ捨て「少ない」8割 アンケート調査

このコンテンツが公開されたのは、 スイス・ポイ捨て防止コンピテンスセンター(IGSU)の年次アンケート調査によると、「スイスでは多くのゴミが適切に処理されていない」と考える人は16%にとどまった。

もっと読む スイス、ポイ捨て「少ない」8割 アンケート調査

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部