追い詰められるスイスの中産階級
中産階級の10家庭のうち4家庭が、家計の収支を釣り合わせるのがやっとで、月の終わりに一銭も貯蓄ができない状態にあることが判明した。
この調査を行ったのは、月2回発刊のドイツ語圏の雑誌「ベオバッハター ( Beobachter ) 」。特に経済的に追い詰められているのは、中産階級のより下層の家庭約5割だ。
38% が追い詰められている
スイスの中産階級はスイス全体で60%を占めるが、そのうち38% が経済的に追い詰められている。ベオバッハター誌は、中産階級を家庭の中で最も稼ぎの多い人の1人当たりの月給を2450フラン ( 約20万円 ) から5250フラン( 約43万円 ) だと規定している。
「スイスの中産階級のかなりが困窮してきている。過去数年間で健康保険料などを含む家庭の経費が値上がりし、その値上がり率は給料の上昇率よりスピードが早いからだ」
とローザンヌ大学のドミニック・ジョワ氏は解説する。スイス労働組合の会長でエコノミストのダニエル・ランパール氏も「中産階級は月の終わりには何も残らず、1カ月間の収支を合わせるのがやっとだ」と同意する。
健康保険料と税制
ベオバッハター誌によれば、過去15年間で給料は平均で約12%上昇したが、家賃は16%上昇。都市部ではこの家賃の上昇率はさらに高い。また最近の健康保険料の値上がりで、平均家庭は月1500フラン ( 約12万5000円 ) を払い、4人家族ではさらに高額を払っている。
問題は税制度にもあり、現行の税制度は家族を持つ家庭にはまったく適合していないと同誌は分析する。ザンクトガレン大学が昨年発表した調査によれば、夫婦のうちの1人の給料が高ければ高いほど、もう1人の給料は有効に働かない。なぜなら夫婦の給料の合計に税金がかかるため、税率が不当に跳ね上がるためだ。
連邦政府は中産階級の税金救済を先決問題だとし、昨年5月に子どものいる家庭に対し6億フラン ( 約500億円 ) を支給する改正案を提示した。
子どもは?
さらにベオバッハター誌は、若い夫婦が子どもより車を優先するという考えを持っていることも明らかにしている。夫婦の50%が車をあきらめるのは「非常に難しい」、29%が「かなり難しい」と答え、また、70%がもし今より経済状態が悪くなれば、子どもをもう1人持つのを断念する方が、車をあきらめるより簡単だと答えている。
一方、困窮状態にもかかわらず、多くの中産階級が子どもの教育費を減らすことは考えていない。49%が子どもの家庭教師代は節約しないし、また音楽教育は47%が重要だと考え、33%が子ども部屋にコンピューターを備え付ける必要があると答えている。
下からも上からも押される
中産階級の最大の懸念事は、仕事のポストの安全性と外国からの労働者の流入だと調査は結論している。およそ31%の人が外国からの労働者に自分の仕事が奪われるのではないかという心配を「切実に」感じている。
こうした表面的には出てこない中産階級の懸念やフラストレーションが最近の国民投票の結果になり、外国人嫌いを示す「イスラム寺院の尖塔ミナレット建設禁止」や「高額のボーナスへの反対」などに表れている。またこうした感情は、政党が利用してある運動に導きやすいものでもあると、ジュネーブ大学の社会学者サンドロ・カタチーン氏は言う。
「ほかのヨーロッパの国々と同様、スイスの中産階級は上からも下からも押されている。貧困層がより裕福になり、裕福層はさらに裕福になっている。中産階級は現在非常に追い詰められ、不愉快な状況に追いやられている。そして社会の今ある中産の階級からずり落ちるのではと深い懸念を抱いている」
とカタチーン氏は結論する。
サイモン・ブラッドレー 、swissinfo.ch
( 英語からの翻訳、里信邦子 )
経済協力開発機構 ( OECD ) によれば、スイスの子どもの9.3%がかなり貧困な状況で生活している。
年金生活者の12%が家計の収支を合わせるのに何らかの支援を受けており、その3分の1にあたる、4万5000人はこうした援助にもかかわらず、生活が困窮している。
片親家庭の10%が「ワーキングプア」の状況で、即ち1週間40時間働いていても、かなりの貧困状況にある。2006年には片親家庭の18%が生活保護を受けた。
今年3月末に、スイス連邦政府はスイスにおける貧困状況のレポートを出版した。レポートは教育における機会均等、労働市場への再適合、家族を持つ家庭の貧困との闘いへの援助などを挙げている。
政府はまた、州や市町村に対しても家族を持つ家庭への支援を増やすよう呼びかけている。
カトリック系の人道援助団体「カリタス ( Caritas ) 」は今年初めに出したレポートで、スイスでは人口の12%にあたる90万人が生活保護の必要な状態にあると発表している。しかしこの数字はほかの援助団体や機関から正確ではないと非難されている。
カリタスはまた、2020年までに貧困者数を約半分にする対策を立てた。これはヨーロッパの「貧困および社会的排除撲滅年間」の一環として行われた。
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