スイスの銃規制法と銃の所持率の高さは、この国が銃を所持する権利や国民軍の必要性を深く信じていることと関係している。しかし、最近の国民投票や欧州連合(EU)との合意によって、誰がどんな銃を所持していいのか、そしてそのリスクについて議論されるようになってきている。
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1999年まで、スイスの州にはそれぞれ独自の銃規制法があった。ある州は他の州より規制に対して自由度が高いなど、内容にも差があった。スイスが長い間、欧州で最も寛容な銃規制法を持っていたのは、こうした経緯が背景にある。
何世紀も前には、一部の州で、男性は銃を持っていないと結婚が出来ないと定めた法律もあったほどだ。
1999年、スイスは連邦レベルで銃規制法を制定。一部の銃器の保持を禁じたほか、所持する銃器によっては許可を必要とする全国一律の制度を新設した。
今日では、スイスは欧米諸国の中でも一人当たりの銃の所持率が最も高い国の一つだ。
しかし、ローザンヌ大の犯罪学の専門家、マルティン・キリアス氏はフランス語圏の日刊紙ル・タンで、銃による暴力と銃の保持は必ずしもつながらないと指摘した。
キリアス氏は「はっきりしているのは武器の数というよりむしろ武器にアクセスできる人の数だ」と指摘。「本格的な武器庫を持っている人もいるが、ここで重要なのは最低1丁の武器へのアクセスがあること」だという。
同氏によれば、スイスは米国に比べて最低1丁の武器にアクセスできる人の数が少ない。
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統計では、スイスは西欧諸国の中でも銃による死亡率が極めて高い。しかし、乱射事件はまれで、過去20年間で2件だけ。銃による死亡率が高いのは拳銃自殺の増加が大きく起因している。最新の統計によれば、10万人あたりの拳銃自殺者の割合は2.74。10万人当たりの銃による死亡者の割合は3.01だから、それに匹敵する高さだ。
スイスの銃規制法は?
全国民が、法律の下で銃を保持する基本的な権利を有している。ただ保持には許可が必要な場合がある。例えば拳銃を取得したい場合は、最大9カ月の有効期限付きの許可が要る。しかし、狩猟やスポーツ目的であれば必要ない。
国内の全26州は、州内の銃、弾薬を常時追跡している。猟銃の販売者は、銃を売ったことと購入者の氏名を州に届け出なければならない。
弾薬と銃は、別々の場所に分けて安全に保管することが義務付けられている。
公共の場所で銃を携帯する場合はライセンスが必要で、それも申請者にその資格があると認められた場合でないと発行されない。申請者は、現存する危険から自分の身を守る必要があることを証明しなければならず、暴力犯罪取締法、銃の適正な扱い方についての試験をパスする必要がある。
このライセンスがあれば、拳銃を他人に見えないように携帯することが出来る。弾丸の装てんされていない銃器を射撃場や狩猟エリアまで運ぶ場合は、ライセンスは必要ない。
国民皆兵制度を持つスイスでは、軍に所属する国民は、弾丸が装てんされていない銃器を自宅に保管しておくことができる。しかし、弾薬は軍が厳しく管理する。2011年、軍用ライフルの自宅保管をやめるよう求めた国民投票が行われたが、否決された。しかし、この習慣は以前ほど見られなくなってきている。
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何が禁止されているのか?
狩猟、スポーツ目的の銃器を運搬する際は、弾が入っていてはいけない。装てんするのは使用の直前であること。
全自動(フルオート)の銃器所持は軍用目的以外禁止。フルオートを半自動に改造した銃器のほとんどもこれに該当。
重機関銃、レーザー照準器、暗視スコープ付き、サイレンサー付き、グレネードランチャーも民間人の使用は禁止。
スイス政府は、個人の悪用による明白な危険が存在する場合、または国際社会の決定、スイス連邦外務省が必要と認めた場合、一部の国の国籍保有者の武器取得、所持、取引を禁止することが出来る。現在、アルバニア、アルジェリア、スリランカ、コソボ、マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、トルコの国籍保有者は、スイス国内で武器の取得、所持、携帯、発砲はできない。
一方で、州が当事者の代わりに介入し、狩猟やスポーツイベントに参加する特別な許可を要請できるなど、救済策も残されている。
欧州はどうか
スイスは、シェンゲン協定加盟国にしている。同協定は加盟国間の人の移動の自由を認めるもので、スイスは最近、銃規制法の一部について協定が定める規制と足並みをそろえるよう要請を受けたばかりだ。これがきっかけで、国内ではスイスの自治と銃火器の慣習をめぐる激しい議論が起こり、規制強化に反対する銃器のロビー団体は、国民投票を強行すると息巻く。
今年9月、連邦内閣はEUの規制の「簡素」版を審議会に提出。例えば半自動銃(弾丸20発以上を搭載できるマガジン付き)や、大容量で肩に乗せて撃つタイプの銃の保持を一部禁止するという内容だ。ただ、EUの新規制に盛り込まれた銃保有者に対する医師の診断と心理学検査の実施、銃器登録制度への参加などは除外された。
(英語からの翻訳・宇田薫)
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欧州議会が可決した新規則は、武器登録の導入や半自動銃のカードリッジ(薬包)の上限を20発から10発に制限するなど、銃器の所持をより制限する内容となっている。
スイス国内で同規則を適用するには議会の承認が必要となる。スイススポーツ射撃協会(FST-SSV)は、議会がこれを承認した場合、レファレンダムを視野に入れていると話す。
同協会のドラ・アンドレス会長は「新銃規制はテロ攻撃を阻止することはできないし、スイスの現行法は武器の違法取引に十分対応している」と話す。さらに同氏は、「スイスは銃器の所持において、とりわけ猟師、射手、コレクターの間で長い歴史がある」と付け加えた。
右派・国民党のヴェルナー・ザルツマン議員も同じく、新規制の導入に異議を唱えている。
しかし、左派・社会民主党のシャンタル・ガラデ議員は、「射手も警察官も、従来どおり銃器を使用できる」とドイツ語圏のスイス公共ラジオに対して話した。
スイス、適用外となるか?
シモネッタ・ソマルガ司法警察相は昨年3月、EUが計画する銃規制は、軍隊で使う武器を家庭で保管するという、スイスの伝統には影響しないだろうと話していた。
スイスでは1割以上の徴集兵が公務を終えた後、軍隊で使用した銃器を家庭に持ち帰っている。そのため、EUの半自動銃に関する規制案は当時から、スイスで大きな議論を引き起こしていた。
今回の新規制の導入に対する反対派は、銃登録データの統括を求める案件が2011年の国民投票で否決されたことを反対理由の一つに挙げている。
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1914年12月25日、第1次世界大戦が始まって初めてのクリスマス。国境を守るスイス兵の士気は低かった。兵士たちは平和と、特に家族の愛情を求めていた。
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「1914年8月に戦争が始まり、数千人の兵士と馬が動員された。あまり組織だった動員ではなかった。政府も少し不意を突かれていたからだ」と、バーゼル民族文化博物館で2015年1月11日まで開催中の「Sad Christmas(悲しいクリスマス)」展のキュレーター、ドミニク・ヴンデルリンさんは話す。これは主にスイスと近隣国の第1次世界大戦に焦点を当てた展覧会だ。
「そのせいでスイスの兵士はすぐに影響を受けた。冬が近づくにつれて、彼らの士気はひどく低下した」
兵士はしばしば劣悪な環境で生活することを余儀なくされた。事実、ドイツ占領下のアルザス地方と国境を接するジュラ山脈の村々に到着した兵士たちは、泥をのけたり害虫を駆除したりしてからでなければ寝泊まりできなかったという。
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連邦経済省経済管轄局(SECO)は21日、スイスが2016年、拳銃などの小型武器を輸出した最大の相手国はフランス、次いで米国だったとの統計結果を発表した。輸出総量は減少したものの、輸出相手国は70カ国に上る。
小型武器はSALWと呼ばれ、一人で携帯や使用が可能な拳銃などの「小火器(Small Arms)」と、数人で運搬や使用が可能な重機関銃などの「軽兵器(Light Weapons)」、弾薬及び爆発物の3種類があるとされる。昨年は、国際安全保障上の理由で国から輸出許可が出ないケースが増えたにも関わらず、輸出量は前年比28%増だった。
フランスへの輸出額は450万フランで、その大半がグレネードランチャー。輸出総数は約5千超で、うち3626の武器がフランスの警察当局へと輸出された。警察関係への輸出に占めるフランスの割合は前年に比べ2割超の伸び。
米国は430万フランで主に回転式拳銃、自動装てん式拳銃など。他には機関銃、カービン銃となった。その他の主要輸出先はスロバキアとドイツだった。
昨年、連邦政府が出したSALWの輸出許可件数では、申請者の6割が武器の販売業者だった。警察は26%、軍は4.6%、市民は3.2%だった。前年は業者が79%、警察当局はわずか4.3%だった。
SECOがまとめた昨年の武器
輸出統計によると、輸出総額は4億1190万フラン(約462億円)で、前年比7.8%減少。06年以来で最小値だった。
輸出先の半数超を欧州諸国が占め、4分の1がアジア、米国は11.2%だった。アフリカ諸国は前年比207%の伸び。南アフリカ共和国への輸出が5130万フランに上ったのが理由で、輸出額では2番目に多い。
輸出先の上位5カ国には、政治的な対立が続くインド、パキスタンが入る。インドはミサイル射撃指揮装置とミサイル誘導システムで3450万フラン、パキスタンは銃器で2550万フランだった。
輸出が認められなかったのは26件
昨年、輸出の許可が認められなかったケースは26件に上った。前年はゼロ。相手国はロシア、バーレーン、アラブ首長国連邦、サウジアラビアで、安全保障上の理由のほか、人権問題や国際的な経済制裁によるものもあった。
スイスは人権侵害に悪用される恐れがある国への武器輸出を禁じている。また、個別の事情に応じて国が可否を決める。
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