難民申請
迫害からの庇護(ひご)を求める人はスイスで難民認定を申請できる。ただし、申請者が難民の地位を証明するか、少なくとも信頼できる形で説明しなければならない。
スイス難民法外部リンクは「難民」の定義や、難民認定できる条件、不認定になり得る条件を定める。
同法は「特に本質的な点で十分な根拠がない、根本的な矛盾がある、事実に即していない、虚偽または偽造の証拠に基づく案件は信頼性があるとはいえない」とする。
2019年3月1日、スイスの新しい難民認定制度が施行された。手続きの迅速化をはかり、制度を抜本的に見直し、主に難民収容施設、法的支援、不服申し立て期間が大きく変更された。
スイス到着時
難民認定の申請方法は次のとおり。
- スイスの国境検問所または空港の出入国管理事務所にて口頭または書面で申請
- 連邦移民事務局(SEM)の難民センターにて直接申請
原則として、スイスでの難民認定を国外から申請することはできない。ただし、やむを得ない理由で本国を離れなければならない場合、スイスの在外公館にスイスへの入国ビザ(査証)を申請できる。生命や身体の安全が直接的、重大かつ具体的な脅威にさらされている場合、人道ビザが発給される可能性がある。
既に本国を離れ第三国に滞在している人は、重大な危険にさらされているとはみなされず、庇護の対象にはならない。
スイスは欧州連合(EU)の「ダブリン規則」の締約国だ。同規則は、難民申請者が欧州で最初に到着した国が申請者の指紋を採取し、申請の審問を行うと定める。申請者がその後、その他のEU・EFTA(欧州自由貿易連合)加盟国に移動し、再申請した場合、申請者は原則として最初に申請した国に送り返される。
なお、EUでは現在、難民・移民受け入れの新協定の合意を目指して、ダブリン規則の見直し交渉が行われている。
事前審査
スイスへの入国方法にかかわらず、申請者は難民申請手続きを開始するため、国内6カ所ある連邦の難民センターのいずれかに出頭しなければならない。約3週間続く事前審査の間、申請者は難民センターに収容され、法的支援を無料で受ける権利が与えられる。
SEMは申請者の身元を確認し、スイスが(ダブリン規則上)難民認定手続きの責任を負うかどうか決定するため、申請者と複数の面談を行う。申請者は個人情報やスイスまでの経路、難民申請の動機について質問を受ける。難民センターは指紋を採取し、EUの庇護申請者の指紋データベースEurodacに申請者の指紋が登録されていないか確認する。また、健康診断を行い、必要があれば、申請者の年齢を確認するための検査やDNA分析を行う。
手続きの割り振り
SEMは難民申請に関する基本的な情報を収集した後、3つの手続きのいずれかに申請者を割り振る。その際、申請者の本国の状況、申請の信頼性、申請者の態度が考慮される。
- ダブリン手続き(難民申請の却下):申請者がダブリン規則の他の締約国で既に登録されている場合、SEMは申請者を登録国へ送還する手続きに入る。ただし、特定の国で申請者の取り扱いにシステム上の欠陥がある場合は例外。手続きは連邦の難民センターで行われ、140日以内に処理される。
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迅速審査:事前審査で取得した情報から申請の信頼性を十分だと判断する場合、SEMは迅速審査に進む。更に審問を行い、8営業日以内に決定を下す。手続きは連邦の難民センターで行われ、不服申し立てや強制退去の場合も100日以内に処理される。
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延長審査:事前審査で得た情報が難民認定を行うには不十分で、追加的な調査が必要な場合、SEMは延長審査に進む。この場合、申請者は1つの州に割り当てられ、その州の収容施設に移送される。延長審査は1年以内に処理される。
決定を待つ間、申請者にはN(庇護申請者)タイプの滞在許可証が発行される。申請者は最初の3~6カ月は就労できないが、その後は許可があれば就労できる。家族の呼び寄せや外国旅行は認められない。
スイスの新しい難民認定制度は施行以来、法律専門家や移民支援団体から数多くの批判を浴びている。特に、申請者の健康状態を考慮せず決定を急ぎ過ぎている、不服申し立て期間が短すぎる、連邦の収容施設の安全管理体制に問題がある、などの非難がある。
難民認定
SEMは申請者が難民としての条件を満たすと判断する場合、難民に認定する。申請者は州に移送され、スイスでの統合プロセスに進む。
申請者にはB(一時滞在)許可証が発行される。申請者は就労、家族の呼び寄せ、本国を除く外国への旅行ができる。
不認定
SEMは申請者が難民としての条件を満たさないと判断する場合、不認定にする。申請者は一定期間内にスイスを退去しなければならない。自発的に退去しない場合、本国に強制送還される恐れがある。難民と認定されなかった者(子供を含む)は国外退去までの間、収監されることがある。
本国が再入国を許可しない場合、不認定者は強制送還されないが、自発的にスイスを退去するよう求められる。不認定者がスイスに残る場合、就労、就学、家族の呼び寄せはできない。また、緊急支援を除き、社会保障を受ける権利はない。
本国が概して深刻な状況(戦争や武力紛争)にあり、スイスによる強制送還が国際法上の義務に違反する場合、不認定者に暫定的な滞在許可が与えられることがある。このような場合に発行されるFタイプ(暫定受け入れ外国人)の許可証では、就労はできるが、家族の呼び寄せは3年経過した後に一定の条件下でしか許可されない。
不服申し立て
SEMによる難民申請の却下や難民不認定の決定に対して、申請者は連邦行政裁判所に不服申し立てができる。
申し立て期間は手続きの種類によって異なる。ダブリン手続きでは5営業日以内、迅速審査では7営業日以内、延長審査では30日以内だ。連邦行政裁判所は控訴審かつ終審として決定を下す。つまり、申請者は1回しか不服を申し立てることができない。
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