プラスチックごみ問題、企業も消費者もプラスチックに頼らない未来を
膨大な量のプラスチックごみによる環境汚染が世間の関心を集めている。スイス・ダボスでの世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)でも議論されているが、本当の取り組みはまだこれからだ。
年間800万トンを超えるプラスチックごみが海に流れ込んでいる。毎分、ごみ収集車1台分のプラスチックごみが捨てられていることになる。日本などの海洋国にとって深刻な問題だ。日本の安倍晋三首相は23日、ダボス会議で講演し、6月に大阪で開催される主要20カ国・地域(G20)首脳会議で、マイクロプラスチック汚染対策を参加国首脳陣に呼び掛けるとの意欲を示した。マイクロプラスチックは、海に流出したプラスチックごみが劣化してできる微小な粒だ。
安倍首相はダボスで満場の聴衆にこう話した。「太平洋の最も深いところで今、とんでもないことが起きている。海底にいる小さな甲殻類の体内から、非常に高い濃度の有毒汚染物質PCB(ポリ塩化ビフェニル)が見つかっている。マイクロプラスチックが原因だという意見がある」
海が直接汚染されているわけではない。米国の科学雑誌「サイエンティフィック・アメリカン外部リンク」のレポートによれば、プラスチックごみの大半が10の河川に集まっており、その多くは東南アジアにあることが分かった。
スイスでも、河川や湖に影響が出ている。例えばジュネーブ大などが実施した調査で、レマン湖から危険な量の汚染物質が検出された。
企業約200社のCEO(最高経営責任者)の連合体である持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)外部リンクのピーター・バッカ―会長兼CEOは、企業30社から成るプラスチックごみ撲滅同盟外部リンクの立ち上げに加わった。バッカ―氏によれば、プラスチックごみによる環境汚染の問題はずいぶん前からあったが、英国の著名な動物学者デイビッド・アッテンボロー氏のドキュメンタリー映画「ブルー・プラネット」が2017年に公開されて以来、注目を集めるようになった。
「(映画公開の)数カ月後、1頭のクジラがタイの海岸に打ち上げられるという出来事があった。人々はクジラを助けようとしたが、結局死んでしまった。クジラを解体したところ、8キロものビニール袋が出てきた。この出来事は、アッテンボロー氏の映画が訴えていたことの明らかな証拠になった」とダボス会議でアッテンボロー氏の講演を聞いたバッカ―氏は説明する。
地球規模のプラスチックごみ問題に関する嫌な真実は、スイスでも「過剰プラスチック包装反対運動」に火を付けた。しかし、プラスチックごみ問題に関して、スイスはヨーロッパ最悪の違反国の1つだ。
スイスは、他の欧州諸国に比べて、3倍の量のプラスチックを消費するが、リサイクル率は3割も低い。スイスは毎年、1人当たり100キロ近いプラスチックごみを出している。欧州平均の3倍以上に相当する量だ。
世界的な流れ
スイスのように海の無い国は、プラスチックごみによる環境汚染の影響を、日本と同じようには感じないかもしれない。しかし、この問題は1カ国や1企業が解決できるものではない。
バッカ―氏は、バリューチェーン(価値連鎖)全体が協力一致する必要があると指摘する。「包装材として一番良いのは何か?もし、それがプラスチックならば、ごみを減らすために何ができるか、出たごみを回収・再資源化・再利用することで価値を与えることができるか?」
プラスチックごみ撲滅同盟には、世界最大規模の化学品メーカー、米ダウ・ケミカルのようなプラスチックを生産する企業から、世界最大の一般消費財メーカー、米プロクター・アンド・ギャンブルのようなプラスチックを消費する企業まで参加している。同盟はNGO(非政府組織)や個々の企業活動を通じて、プラスチックごみ対策に10億ドル(約1100億円)を投じると約束した。
現在のところ、同盟にスイス企業は参加していないが、最近の調査によると、コカ・コーラ、ペプシコ、スイス西部ヴヴェイに本社を置く食品大手のネスレの3社で、世界中で見つかったプラスチックごみの14%を占めることが分かった。
ネスレは昨年4月、プラスチックごみの削減を焦点に、2025年までに全ての容器を再資源化・再利用できるものに切り替える方針外部リンクを発表した。
上等な包装でさえあれば…
数カ月前に立ち上げられたプラスチックごみを撲滅する同盟を、グリーンピースなどの環境NGOは、大量のプラスチックが生産され続けているというプラスチックごみ問題の本質に取り組んでいないと批判している。グリーンピースの地球規模プラスチックごみ問題プロジェクトのリーダー、グレアム・フォーブス氏は声明外部リンクの中で、「 (10億ドルの拠出は)プラスチック利用について現状を維持したい環境汚染企業の必死の試みだ。昨年、世界中で人々が声を上げ、プロクター・アンド・ギャンブルのような企業が毎日のように大量生産する使い捨てプラスチックを拒否し、詰め替えや再利用のシステムと技術革新に投資するよう産業界に要求した」と述べている。
批判に対するベッカー氏の反応はどうだろうか?「プラスチックごみ撲滅同盟のミッションは、プラスチックごみを環境から排除することだと考えている。現状と同じようにプラスチックを使い続けるという意味ではない」。同盟はより環境に優しい代替包装材を研究する意向だともベッカー氏は話した。
「プロクター・アンド・ギャンブルのようなブランドは、包装材の原料にはこだわらない。プラスチックであれ、その他の原料であれ構わない。消費者に供給するために、製品の包装に質の高さを求めているだけだ」とベッカー氏は強調した。
ベッカー氏に同伴したWBCSD気候・エネルギー・循環経済部長のマリア・メンディルセ氏は、「プラスチックがとりわけ強調されているが、結局、我々が考えているのは将来の包装のあり方だ。どの包装をどこで何のために使うのか。国や製品によって、必要となる包装は異なるだろう」と指摘した。
フィジーのピーター・トムソン国連海洋担当特使外部リンクは、ダボス会議のオープン・フォーラム外部リンクで聴衆にこう話した。「リサイクリングは(プラスチックごみ問題)の非常に重要な部分ではあるが、私の考えでは、終点でしかない。(そこに至るまでに)使わない、再利用する、削減するといった我々が個人レベルでできる取り組みがある」
消費者の不足を補う新事業
ダボスでは24日、米国のリサイクリング企業テラサイクル外部リンクとネスレを含む消費財メーカー数社が、使い捨て包装への依存を減らし、消費者に循環型の解決策を提供するためのショッピング・システム「ループ外部リンク」を立ち上げた。
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テラサイクルのトム・サキCEOの説明によると、「ループならば、合金やガラス、工業用プラスチック製の長持ちして再利用や再資源化もできる特別仕様の容器に入った製品を、消費者は責任を持って消費することができる。消費者から返却された容器は、詰め替えられるか、革新的な技術を使って再利用・再資源化される」。
このショッピング・システムは、更なる進出も視野に、間もなくパリやニューヨークといった大都市で利用できるようになる予定だ。
(英語からの翻訳・江藤真理)
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