新型コロナ対応、「ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)」ルール
人口880万人のスイスで、当初「握手や挨拶のキスを避ける」だけだった勧告は、今や「できるだけ外出させない」ための措置に変わった。新型コロナウイルスの流行を収束させるには何が許されて何が許されないのか、国民も困惑している。
「ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)」―スイス連邦政府が人々の接触を減らし、ウイルスの感染拡大のスピードを抑えようと打ち出した合言葉だ。
スイス政府は欧米各国と同じく、できるだけ外出を控え、他人との不要不急の接触を避けるよう国民に要請した。
わざと握手するくらいなら目をつぶってもらえるかもしれないが、今月16日に始まった集会の禁止は罰則付きの「禁止」で、3年以下の禁固刑に処される可能性がある。もっとも実際には禁固刑ではなく罰金を科されるケースが多いだろう。
社会的距離はウイルスが指数関数的に広がるのを抑え、医療システムが崩壊するのを防ぐ狙いがある。保健行政を担当するアラン・ベルセ連邦内務相は、社会的距離が「ウイルスの拡大を緩慢にするのに最適な方法だ」と話す。
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スイスでは外出していいの?
外出できるが、仕事に行くときや食材の買い出し、通院、犬の散歩、他の外出できない人を助ける時に限るように推奨されている。スイス保健庁感染症班のダニエル・コッホ班長は、65歳以上の高齢者はスーパーマーケットには行かず、食料品の買い出しは他の人に助けを求めるよう促した。
新鮮な空気を吸うために散歩するのも、1人で行くか、「いずれにしろ一緒に過ごす」家族となら許される、とコッホ氏は説明する。
外出する理由も少ないかもしれない。レストランやバー、美術館、映画館、スキー場、プールの他、店員と顧客が近づかなければならない業種、例えば美容院などは、3月16日から4月19日まで閉鎖されている。学校も4月19日までの休校が決まっている。
企業は、可能なら従業員に自宅で勤務させるよう指示されている。雇用を保つのが難しい企業は、短時間勤務補償を申請することができる。
近隣諸国はずっと厳しいルールを設けている。フランスでは、外出する際には目的を記した文書を携行しなければならない。
イタリアでは個別に買い物に行くことしか許されていない。警察は外出理由が妥当でないと判断した人を家に送り返すことができる。
スイスでは友達に会うことは許される?
許されるが、不要不急の接触はやめるよう勧告している。政府は公的・私的なイベントを全て禁止した。3月20日からは公共スペースで6人以上が集まることが禁止された。4月19日までの措置で、違反すると100フランの罰金を科される。チューリヒやベルンなど大都市では、湖畔や公園など人の集まりやすいところを立ち入り禁止にした。
保健庁はウェブサイトで、子供の誕生日会などホームパーティーも控えるよう勧告しているが、禁止はしていない。ただ2メートルの距離を保つこと、手洗いや咳エチケットを守ることが条件だ。他人を手助けすること、特に高齢者を助けることは推奨されている。
一部の州では特別な規制を設けている。例えばジュネーブ州では公的・私的に人が集まる時は5人以下に抑えるよう制限している。ヴォー州では10人以下だ。いずれにしても距離を保ち、こまめな手洗いや咳をするときは腕を口に当てるなどの衛生事項を守らなければならない。
休校の間、友達とは5人までなら一緒に遊んでいいことになっている。政府は保育園やその他保育サービスは事業を続けるよう求めたが、一度に預かる子供の人数には同じルールを設けている。近隣諸国と異なり、公園は全国的には閉鎖していないが、一部の自治体は立ち入り禁止にしている。保護者は子供同士が近づかないように気を付けなければならず、プレイグループの活動は禁止だ。
65歳以上の高齢者や基礎疾患のある人は、子供とのあらゆる接触を控えなければならない。
ホテルは客数を大きく減らして営業を続けることができるが、施設内のレストランは閉鎖となる。
集会の禁止は警察が厳しく監視するようになった。団体やスポーツチームの活動も開いてはいけない。
スイスで電車やバスに乗れる?
乗れるが、当局は可能な限り避けるよう勧告する。バスや電車にのると、互いの社会的距離を保つのが難しいためだ。
保健庁は徒歩や自転車での移動を推奨する。鉄道やスイス郵便の運営するバスは大幅に運行が減らされた外部リンク。65歳以上やインフルエンザのような症状のある人は公共交通を利用してはいけない。
要するに社会的距離とは何?
「その目的は、比較的高い密度の閉鎖された空間に大人数が集まるあらゆる機会をなくすことにある」。香港大学のベンジャミン・J・コーリング教授は、インフルエンザのパンデミック(世界的大流行)で社会的距離を取ることの有効性を解析した共著論文外部リンクでこう説明する。
公共交通や職場、レストランなどで、例えば普段10人密集するところを5人に制限すれば、「感染するリスクの削減に大きな効果をもたらす」とコーリング氏はswissinfo.chの取材に説明した。
論文では社会的距離に3つの目的があると論じる。第一に感染のピークを遅らせることで、重症者に対処するための医療体制を整える。第二にピークの大きさを変える。第三に感染を長期化させ、症例を管理しワクチンの利用可能性を高めることだ。
だが社会的距離アプローチは「人々が行動を大きく変えない限り、大きな効果は認められない」とコーリング氏は警告する。
インペリアル・カレッジ・ロンドンの調査外部リンクは、感染者の隔離や休校など他の措置とともに社会的距離が国全体で徹底されれば、新規感染者の数を急速に減らせる可能性があると指摘した。
社会的距離はどのように執行される?
営業を認められている薬局などでも、店内の人数を制限する措置を取り始めた。店内では感染予防策や社会的距離をポスター、店内放送で呼びかける。バスやトラムでは、運転手と乗客の社会的距離が保たれるよう、運転席がテープで囲まれ、前方の席に座れないようになっている。
連邦内閣はウイルスの拡大を抑えるための一連の措置に違反した人に対して、罰金(金額未定)と3年以下の禁固刑を設けた。複数の州警察は既に6人以上集まった人々から罰金を徴収した。フランス語圏のスイス公共放送によると、ジュネーブ市は21~22日の週末だけで30件以上の罰金を科した。
※本記事は3月19日に配信し、同24日に更新しました。
警察の取り締まりは軍隊が後方支援している。
(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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