性犯罪、「誰でもいつでも利用できる支援窓口を」
2017年に広がった#MeToo外部リンクをきっかけに、性犯罪やセクハラ問題をめぐる議論が活発だ。女性に対する暴力そのものは新しい現象ではないが、人権侵害として認識されるようになってきた。
スイスは18年4月、欧州評議会の「女性に対する暴力およびドメスティック・バイオレンス防止条約(イスタンブール条約)外部リンク」が発効した。非政府組織「テール・デ・ファム(女性の土地)」のシモーヌ・エグラーさんに、スイスでの性犯罪の被害や支援体制について話を聞いた。エグラーさんは、条約発効後の国の実施状況を監視する市民社会ネットワークに属する。
swissinfo.ch:スイスで起きているDV、性犯罪にはどんなものがあるのでしょうか。
シモーヌ・エグラーさん:精神的、肉体的、社会的、経済的なものなどいろいろある。家の中でも公共の場でも起こるし、それらを区別できないこともある。一方、正確な統計はない。家庭内の虐待というのはデータも多いが、女性に対する暴力は記録されていない。イスタンブール条約にも明記されているが、データの収集と正確性を向上するよう政府に求めている。それがなければ状況を監視することも対策の効果を評価することもできない。全ての基礎となることだ。
swissinfo.ch:イスタンブール条約の履行で、どんなことが改善されるのでしょうか。
エグラー:条約はスイスに極めて具体的なことを義務付けている。スイスは満たしていない項目が多く、漏れなく実現することが重要だ。支援する仕組みはたくさんあるが、誰でもそこにたどり着けるわけではない。国外に亡命する過程で被害に遭った難民、あるいは被害を受けた時にスイスに居を構えていなかった人は支援を受ける権利がない。深刻な法の谷間がある。
結婚によってスイスの居住権を得た女性についても大きな問題がある。もし暴力が起きても、スイスを離れたくないがために夫の元にとどまってしまう。いくつかの州では居住を認める特別措置を設けているが、残念ながら全ての州ではない。条約の発効でこの格差も埋められるべきだ。
swissinfo.ch:NGOの活動にはどうかかわってくるのでしょうか。
エグラー:イスタンブール条約に従って、スイスは女性に対する家庭内虐待・暴力に特化した24時間の電話相談窓口を設けることになっている。ある段階になると、警察に通報するしか選択肢がなくなる。それも時には必要だが、被害者にとってはハードルが高くなってしまう。誰でもいつでも利用できる支援を提供するために、良いシステムを整えなければならない。
swissinfo.ch:暴力を振るった加害者への対応も改善すべきだと。加害者にはどんな特徴がありますか?
エグラー:被害者にも加害者にもこれといった傾向はない。犯罪は全ての社会階級で起こる。全ての人が差別なく利用できる支援が必要なのはそのためだ。スイスでは州による違いが大きいが、それは各州が持つリソース(資源)が違うからだ。予防、保護、また加害者対応の各段階で、全ての人に同じ機会が与えられるよう調和させる必要がある。
swissinfo.ch:#MeTooのような動きは性暴力との闘いに役に立ったのでしょうか?
エグラー:暴力を構成するものについて、より意識が向けられるようになった。被害者サイドへの関心も高まった。メディアにおいてはさらに顕著だ。だがより重要なのは、一時的で感情的な動きではなく長期的な解決策を模索することだ。時に、加害者にもっと厳罰を科せばいいとの意見も聞くが、刑事司法の行動では何も解決しない。支援組織や研究の促進にお金を投じなければならないが、高くつく。女性への暴力を撲滅したければ投資が必要だ。さもなくば問題に蓋をするだけだ。
国連外部リンクによると、女性・女児に対する暴力は最も広範で根強く、悩ましい人権侵害の一つだが、罰則の不備や沈黙、不名誉、恥などを理由に水面下に沈んでいる事件が多い。
女性・女児の3人に1人は物理的または性的な暴力を受けた経験がある。最も多いのは近親者による暴行だ。2012年に殺害された女性の半数はパートナーや家族の手で殺された。一方、被害者が男性の場合は20人に1人だ。結婚または同棲している女性で、性的関係や避妊、健康管理について自由に決定を下せるのは半分超しかいない。
世界で約7億5千万人の女性が18歳になる前に結婚する。2億人は女性器切除を受ける。
(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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