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ショック映像で交通事故防止

シートベルトの着用で、子どもも親も安心して車に乗れる carofoto

シートベルト未着用の取り締りに、チューリヒ市警察は衝撃的なビデオ映像を導入する。だからといって、違反者が罰金の支払いを免除されるというわけではない。チューリヒ市警察の調べによると、同市では、後部座席の同乗者の61%がシートベルトを着用せず、子どもの未着用率はさらに高い。車に乗る子どもの約3割のみが、シートベルトやチャイルドシートを使用している。

それにもかかわらず、チューリヒ市のシートベルト着用率は、スイスの全国平均値をはるかに上回っている。

衝撃的な映像

 チューリヒ市警察は着用率のさらなる向上を目指し、罰金よりも効果的な対策に踏み切った。携帯型DVDプレイヤーを使い、交通違反者に衝撃的なビデオ映像を見せるというものだ。

 最初のシーンでは、時速50キロで走行中の車が壁に激突する。シートベルトを着用していない人形に生存の可能性はまったくなく、人形はフロントガラスを突き破って車外に飛び出す。次のシーンは、後部座席にいるシートベルト未着用の3歳ぐらいの幼児の様子だ。衝突の勢いで、子どもは運転席と助手席の間を抜け、フロントから外に投げ出される。そして最後に、後部座席にいるシートベルト未着用の成人が、自らの体重が凶器になって、前にいる同乗者を死に至らしめる映像が流れる。

「百聞は一見にしかず」

 このビデオ映像の視聴は任意だが、チューリヒ市警察が試験的な導入をおこなった際に、ほとんどの運転手が進んでビデオを視聴し、ほとんどの場合において、効果的な反応が見られたという。
「多くの人にとって、ビデオの視聴は『なるほど』とうなずける体験になります」
 とチューリヒ市警察事故防止課のアンドレア・ミクレチュキー氏は言う。

 罰金が単に警察に対する不満を募らせるのに対し、事故映像は強い印象を与え、長期的な意識の改革につながると、チューリヒ市警察は期待する。しかし、交通規則違反をした運転手が罰金から逃れられるというわけではない。ビデオ視聴の所要時間は、罰金切符を発行するにはちょうどいい長さだ。

正しい方向

 交通事故の防止と撲滅に取り組む財団法人「ロード・クロス ( Road Cross ) 」を運営するローランド・ヴィーダーケール氏によれば、チューリヒ市警察によるビデオ映像の導入は正しい選択だという。
「ただ罰金が科されるだけでなく、このような啓蒙活動がおこなわれることを、わたしたちは非常に歓迎しています」

 子どもの学校の送り迎えや外出に、多くの親が車を利用するが、その際の問題点についても、ロード・クロスは指摘する。
「例えば、子どもを車に乗せていると、それを見た近所の人が『それなら、わたしの子どももお願い』と言い出します。しかし、後部座席に子どもが5人も座ったら、シートベルトを着用することはできません。これがどれほど危険なことなのかを、わたしたちははっきり示したいのです」
 とヴィーダーケール氏は言う。

物理の法則

 「3年前、わたしたちの財団はショック映像による啓蒙活動をおこなうことを決めました。初めの頃はあまり成果を感じられませんでしたが、時が経つにつれ、ビデオ映像の効果を実感するようになりました。衝突事故の際に、子どもがフロントガラスから車外に飛び出すなど、シートベルトをしないとどうなるのかを、人びとが理解するようになりました」
 とヴィーダーケール氏は言う。

 物理の法則を知らない、または甘く見ている人が多いと、ヴィーダーケール氏は言う。
「後部座席に体重40キロの子どもがシートベルトをせずに乗っていたとします。事故が起きて、この子どもが前方に投げ出されると、約1.5トンの重さになります」
 とヴィーダーケール氏は説明する。
「もし、この子どもが運転手の後ろに座っていたら、子ども自身も重傷を負うだけでなく、運転手を圧死させることになります」

シートベルトだけではない

 ここ2年の間、ロード・クロスは職業学校を訪問したり、車やバイクの免許を取ったばかりの16歳から18歳までの若者を対象に講義をおこなっている。罰金の支払いや、場合によっては禁固刑に処せられることだけが問題ではない。そのことを若者に教えたいと、ヴィーダーケール氏は言う。
「多くの場合、男性ホルモンであるテストステロンの分泌を抑制できない青年が対象です。彼らは、例えば飲酒運転をした場合、保険が下りないことを知りません。単純に保険を掛けているわけではないことや、保険がすべてをカバーするわけではないことを、彼らは知りません」
 運転手の不注意から起きた事故や、アルコールや薬物が関係している事故の場合、保険会社ではなく、事故の責任者が支払い義務を負うことになる。

 このシートベルト着用キャンペーンは、2009年の秋から、スピード違反取り締まりキャンペーンになる。
「そこでも警察が同じように取り組むことを期待します。警察は市民に一番近いところにいるのですから」
 とヴィーダーケール氏は言う。

swissinfo、エティエンヌ・シュトレーベル 中村友紀 ( なかむら ゆき ) 訳

チューリヒ市警察は新対策を追加し、交通事故防止協会 ( BFU ) の全国キャンペーンを推進する。
携帯型DVDプレイヤーを使用したチューリヒ市警察の新キャンペーン開始日は、7月21日。12月19日までおこなわれ、その後、DVDの使用継続が検討される。

シートベルトの保護効果は認められているが、シートベルトの着用が必ずしも守られているわけではない。
シートベルトの着用を習慣化させるため、交通安全の分野で活動する多くの団体が協力し、啓蒙キャンペーン「命綱」を開始した。
このキャンペーンでは、さまざまな理にかなわない無意味な行動をシートベルトの未着用と関連付け、対比している。また、前部座席だけでなく、後部座席でのシートベルトの着用に力を入れている。
シートベルト着用率が低いスイスのフランス語圏とイタリア語圏、夜や週末はほとんどシートベルトを着用しない若者、十分な保護がされていない子どもに対し、特別の注意が向けられている。

昨年のスイスのシートベルト着用率は低かったが、フランス語圏で着用率が上がったため、今年は再び上昇傾向にある。
2008年、運転手の88% ( 2007年は86% ) 、同乗者の89% ( 2007年は85% ) がシートベルトを着用している。フランス語圏の同乗者の着用率は、昨年より13%上昇し、86%がシートベルトを着用している。
国際的に比較すると、スイスの着用率はまだ低い。ドイツとフランスの着用率はほぼ100%だ。
後部座席での着用率に上昇はみられない ( 65% )。

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