虫は、近くにいると疎まれる存在だが、自然界では重要な役割を果たしている。そんな虫が今、激減している。絶滅に瀕するこの小さな生き物を守るために、何ができるだろう?昨年11月15日を「虫の日」に定めたスイス。政治介入を求める自然保護団体の動きも出ている。
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普段からハエや蚊を煩わしく思っている人には朗報がある。隣国ドイツで行われた調査外部リンクによると、過去30年間で有翅(ゆうし)昆虫(羽のある虫)は4分の1に減少したという。しかし「ある特定の種が減少したという調査はスイスにも複数あるが、全体を把握するデータが欠けている」と自然保護団体「スイス自然の友外部リンク」のメンバー、セバスチャン・ジャッキエリさんは言う。
推定では、スイスに存在する有翅昆虫の4割以上が危険にさらされているという。大量の虫が死んでゆく原因はまだ明らかにされていないが、「土地の集中的な利用や農薬の使用、園芸と農業における機械化や光汚染が、虫の生態系に悪影響を及ぼすことは既に分かっている」とジャッキエリさんは指摘。たった1本の街灯でも、光源の周りを飛び回り、消耗して毎夜息絶える昆虫が無数にいることを例に挙げた。
そう聞くと、うるさい虫や虫に刺されることを不快に思っている人も心配になるはずだ。「昆虫は私たちの生態系のかけがえのない要素だ。多くの作物や野生植物の受粉を行い、土壌の質を健全に保ち、食物連鎖の一番初めの段階に位置付けられている」(ジャッキエリさん)
虫の日
昨年11月15日、スイスでは人々の意識を高めるため、鳥類保護団体「バード・ライフ外部リンク」と虫類保護団体「インセクト・レスペクト外部リンク」は昆虫のための初回ナショナルデー「虫の日」を開催した。「有機栽培や季節栽培を促進し、昆虫が巣作りできる場所を提供したり、庭の地面を自然のままに残したりすれば、誰もが昆虫の保護に貢献できる」とジャッキエリさんは言う。保護を必要としているのは、人間の周りに多い蚊や他の昆虫ではなく、既に激減しているか、ひっそりと生息しているためほとんど目に触れることのない生き物だ。
「スイス自然の友」、「スイス農家組合」、およびスイス養蜂団体の包括組織「アピスイス」といった団体は請願書外部リンクを提出し、政治的介入を求めている。特に、スイスにおける昆虫の消失の原因と深刻度を明らかにするとともに、生物多様性外部リンクや蜂の保全外部リンクと農薬の使用外部リンクに関して具体的に対処するよう訴える。
署名が1万7千件以上集まれば、請願書は冬季会期中にスイス政府と議会に提出される。「国会が私たちの要求を動議として受けいれ、事態の解明に必要な資金を提供してくれることを期待している」とジャッキエリさんは述べた。
(独語からの翻訳・シュミット一恵)
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