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ジュネーブの不法就労者合法化事業「パピルス」本格開始から1年

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不法滞在者をケース・バイ・ケースで合法化する取り組みはスイス特有のものだ Getty Images

スイスには、滞在許可証を持たない不法滞在者が約7万6千人暮らしていると推定される。1万3千人の不法滞在者を抱えるジュネーブ州は2015年、不法滞在者を合法化するための試験的事業を立ち上げた。事業の本格開始から1年を経て、どのような成果が上がっているのだろうか。

 モンゴル出身のプレヴマーさんは、「スイスではより良い暮らしができると聞きました」と、13年前スイスで隠れて暮らすようになった経緯を話し始めた。ジュネーブは2015年から、長期不法就労者を合法化するという他に類を見ない事業「パピルス・プロジェクト」を実施。不法滞在者1093人が滞在許可証を手にした。プレヴマーさんはその1人だ。

 「モンゴル出身女性の多くがジュネーブで良い仕事を見つけていましたので、スイスに行こうと決めました。もう一人のモンゴル出身の女の子とスイスに着いたとき、私は24歳でした。彼女の兄弟がすでにスイスに住んでいましたので、そこに身を寄せて仕事を見つけました」

 プレヴマーさんは、スイスに来た2005年以来、生計を立てる手段として家事代行サービスに従事している。女性ならばスイス人家庭で仕事を見つけるのは「簡単」で、雇い主にも良くしてもらっていると言う。まずまずの給料をもらっているので、夫の給料と合わせれば家族に必要なものは支払うことができると話す。

 このような環境の下、プレヴマーさんはパピルス・プロジェクトを通じて不法滞在の合法化を申請しようと決めた。職種間労働組合(SIT)が必要書類を揃える手助けをしてくれた。

 「書類を揃えるのに3カ月かかりました。でも、一番大変だったのは、決定が出るまで6カ月間待つことでした」(プレヴマーさん)

 申請が認められなければ、国外退去になっただろう。しかし、プレヴマーさんは合法化の認定を受けた。

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「パピルス・プロジェクト」二つの目的

 ジュネーブ州安全・経済担当大臣のピエール・モデ氏によれば、パピルス・プロジェクトには2つの目的があるという。

 「このプロジェクトは既存の法的枠組みの中で厳格な基準に従い、不法滞在者の地位を正常化することができる。また、違法な雇用や不当な賃金競争の影響を受ける経済を浄化することもできる」とプロジェクト1年目の総括を発表する報道機関向けのイベントでモデ氏は話した。

 このプロジェクトは2015年秋に試験的に始まり、昨年2月20日に本格開始。15年秋からこれまでに、全体で不法就労者1093人(子どものいる244家族、子どものいない夫婦8組、独身者291人)が滞在許可証を受け取った。申請却下や国外退去となったのは4人だけだった。プロジェクトが終了する今年12月までに合法化される不法滞在者の総数は2千人に達すると見込まれる。

「これは集団的合法化ではなく恩赦でもない。むしろケース・バイ・ケースの評価だ」(マリオ・ガティカー連邦移民事務局長)

 パピルス・プロジェクトはあらゆる方面から注目を集めている。ジュネーブ州限定の事業にもかかわらず、連邦政府も支持するようになった。連邦政府にとってパピルス・プロジェクトは「移民と不法就労の問題を扱う興味深い試験的な取り組み」だと連邦移民事務局長のマリオ・ガティカー氏は言う。

 しかし、ガティカー氏は不法滞在者に滞在許可証を与えるかどうかは依然として連邦当局の職務だと指摘する。パピルス・プロジェクトを通じた申請は既存の法的枠組みの中で審査される。この事業は「集団的合法化ではなく、恩赦でもない。むしろケース・バイ・ケースの評価だ」とガティカー氏は言う。

 パピルス・プロジェクトは、不法就労者の権利を擁護する諸団体の長きにわたる闘いの成果でもある。15年以上にわたり、権利擁護団体は一体となって大規模なキャンペーンを展開し、要件を満たし合法化が認定されうる人々を探した。

パピルス・プロジェクトの申請要件

  • 経済的に自立していることを証明すること
  • 現在の職をすべて申告すること
  • 借金が無く、法的手続きを受けていないこと
  • ジュネーブに連続して10年以上居住していること(学童がいる場合には5年以上)
  • 基本的なフランス語が話せること

 スイス移民コンタクトセンター(CCSI)のマリアンヌ・アル氏によれば、昨年2月以来、約3千人がパピルス・プロジェクトを通じた合法化支援を申請したという。

 また、ジュネーブ大学が実施した調査によれば、申請者の出身地で一番多かったのはラテンアメリカだった。合法化が認定された申請の約80%がラテンアメリカ出身者で、中でもブラジル、ボリビア、コロンビアが多かった。その他、10%は東欧(コソボ、マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ)、6%はアジア(フィリピン、モンゴル)、3%はアフリカ(モロッコ、アルジェリア、チュニジア)だった。

 プロジェクトの要件を満たさなかった移民も多い。連邦移民事務局によれば、ジュネーブには依然として1万3千人もの不法滞在者がいる。プロテスタント・ソーシャル・センターの弁護士レミー・カメルマン氏は、パピルス・プロジェクトに申請する資格のない人々は、「負債を抱えているか、経済的自立を立証するだけの収入がなかったからだ」と話す。

 しかし、ブラジル出身のエヴェルトンさんのようになんとか要件を満たし、合法的地位を得た人々にとって日常生活やストレスの変化は大きい。

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パピルス・プロジェクトをめぐる賛否両論

 パピルス・プロジェクトはジュネーブで継続中だ。毎週15件ほどの申請書が審査に送られてくる。同プロジェクトは、州の内外で関心と批判を集めている。保守右派の国民党(SVP/UDC)ジュネーブ州支部は、同プロジェクトは「大きく誤った合図」を送り、ジュネーブ州により多くの不法滞在者を引き寄せるだけだと考えている。

 15年の統計によれば、ジュネーブには既にスイスの不法滞在者の約17%が住んでいる。パピルス・プロジェクトを立ち上げる前から、ジュネーブ州は不法滞在者の合法化に他の州よりもかなり積極的だった(下記グラフ参照)。

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 チューリヒはスイスで最も多くの不法滞在者を抱える州だが、12~16年の間に合法化された不法滞在者はたったの10人だ。カメルマン弁護士は「スイスのドイツ語圏にある当局の多くが不法滞在者の問題の存在を否定している。推定2万5千~3万人の不法滞在者がいるとみられるチューリヒ州も否定しているというのは驚きだ」と話す。

 カメルマン弁護士によれば、ドイツ語圏スイスでは、アングロサクソンの国々と同様に「不法滞在者を助けるべきではない。違法な状態にある不法滞在者にアメを与えていると受け取られかねない」という主張をよく耳にするという。

 しかし、ジュネーブの状況を注意深く観察する人は多い。「個々の条件に合わせて類似の事業を適用する可能性があるかどうかを分析するため、パピルス・プロジェクトに対する最終的な評価が下されるのを待っている州もある」(ガティカー連邦移民事務局長)

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