スイスの年金制度 次世代が危機にさらされているのはなぜか
年金制度の崩壊をどう防ぐか。これは多くの国々が直面している課題だ。スイスがこの問題を解決するには、さらに厳しいハードルをクリアしなければならない。直接民主制の存在だ。
スイスの年金制度は3本の柱に基づく。日本の国民年金にあたる老齢・遺族年金(AHV)、厚生年金にあたる企業年金(LPP)、および税控除が受けられる民間の個人年金だ。
社会保障法に詳しいチューリヒ大学のトマス・ゲヒター教授は、このリスク分散型の仕組みが「完全ではないが、他国にとってモデルとなりえる」と話す。
このモデルは確かに他国より利点は多いかもしれない。だがそれも一時的なものにすぎない。高齢化社会が進む今の時代において、適切な措置を講じなければ年金財源を確保できなくなってしまう。ゲヒター教授は現状をこう例える。「時限爆弾がカチカチ音を立てている状態だ」。
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スイス政府は、残された時間は少ないと対応を急ぐ。だが年金制度改革は数十年にわたって議論が続いてきた問題であり、すぐに解決できるものではない。
連邦政府は「包括的な手術」をあきらめ、「随所に応急処置」へ手法を方向転換した。 2004年以降、この方法で出された政策はいずれも議会でとん挫したか、国民投票で否決された。
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風向きが変わったのは11回目のAHV改革案からだ(2003年の国民投票で否決)。それまでの改革は、AHVに改善・強化をもたらした。このため国民投票で過半数の賛成票を獲得することが容易だったのだ。
AHVが誕生したのは、やはり国民投票で過半数が賛成したからだ。年金制度第1の柱となるAHVは、1947年7月6日の国民投票で有権者の80%が賛成票を投じ、可決された。その翌年、受給者の自宅に担当者が来て現金を直接手渡した。
国は、政府がすでに議会に提出した新しい年金制度改革「AHV 21」で、過半数の賛成を得ようとしているのか。それともさらなる信頼の失墜を招くのか。
もちろん、この改革案は激しい議論に直面している。
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政府案の最大の焦点は、女性の退職年齢(定年)を64歳から65歳に引き上げることだ。 スイスの女性の年金受給開始年齢は男性よりも1年早く、欧州の中でも不平等だと一部から批判されている。
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一方、女性の定年引上げに反対する人たちは、女性の受け取る年金は男性よりも著しく少なく、引き上げは適切ではないと反論する。
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