コロナ後の学校再開 喜び、戸惑い混じる船出
スイスで11日、新型コロナウイルスに伴うロックダウン(都市封鎖)で休校が続いていた学校が約2カ月ぶりに再開した。一部の州を除き、小中学校の子供たちは教室に戻った。再開に関しては州によって状況が異なり、教師や親たちの不安はぬぐい切れていない。
ジュネーブ州に住む7歳のエミール君は再開前、フランス語圏の日刊紙ル・タンに「学校に戻れてうれしい。オンライン学習はもううんざり」と語った。「ロックダウン中、友達は1人しか会っていない。早くクラスメートに会いたい」。
しかし、そう思わない子供もいる。同じ記事の中で、フリブール州出身のニーナさん(10)は「学校に戻りたくない。ロックダウンの生活が好きだった。起きたいときに起きられて、自分の好きなように時間割を組めるから。学習がいつもより簡単に感じた」と語る。
5月11日、すべての義務教育機関(16歳まで)が再開した。連邦制をとるスイスでは教育は州の管轄。学校をいつから、どのようなカリキュラムで再開するかは州が決める。
東西で温度差
ドイツ語圏の州の大多数は「ほぼ通常通りに戻る」ことを選択した。つまりコロナ危機前の学校運営に戻るということだ。一方、コロナウイルスの影響が他地域に比べ深刻なフランス語圏の州、チューリヒ州は段階的な再開を選んだ。ザンクト・ガレン州も同様だ。
ウイルスの影響を最も受けたティチーノ州は、生徒数を半分にして授業を行う。学校によって再開を1週間遅らせても良いようにした。
すべての州は、連邦内務省保健庁がまとめた感染予防のための勧告外部リンクを守らなければいけない。手洗い、ソーシャルディスタンシング(社会的距離、ただし子供たちの間でこのルールは適用されない)、食べ物や飲み物を分け合って食べないことなどが勧告に含まれているが、マスクの着用は指定されていない。基礎疾患がある高リスクグループの生徒と教師、またそのような人が家族にいる生徒は、オンライン学習を継続する。
#CoronaInfoCH外部リンク Coronavirus and school: The short film shows pupils what impact the coronavirus is going to have on life at school. It explains how they can protect themselves and reminds them of the rules about handwashing and greeting people. pic.twitter.com/v1x0r7N2E5外部リンク
— BAG – OFSP – UFSP (@BAG_OFSP_UFSP) May 8, 2020外部リンク
保護者の不安
ただ、すべての親がこうしたさまざまなアプローチに満足しているわけではない。チューリヒ州では7千人超の親が、分割授業は親の負担が大きいとして全面再開を求める請願書を出した。フランス語圏の一部の州では、健康への懸念と感染の第2波を招くおそれから、全面再開に反対する請願書が出された(バーゼル・シュタット準州では全面再開ではなく時間をずらしたやり方を求める声が挙がる)。
swissinfo.chが取材した両親の間でも、気持ちはさまざまだ。ベルン州では2日間、時間をずらして交互に授業を行い全面再開に移るが、ある親は 「自宅学習からわずか2日で通常の時間割に戻るのは、ちょっと急すぎないか」と話す。
また幼稚園初年度の娘を持つ親は、家での生活から学校のルーティンに対応させていくのは大変だと語る。11日には多くの企業や公共交通機関が通常運転に戻り、移動する人が増えることも不安の種の1つだ。
子供は媒介者になるのか?
親たちの不安をあおるもう1つの要素は「子供たちを媒介して新型コロナウイルスが伝染しないのか」ということ。連邦政府は「子供たちがこの病気の媒介者になることは稀」としているが、あるドイツの研究では、ウイルスを媒介する上で大人と子供にそれほど大きな違いがないという。
独立機関であるスイス新型コロナウイルス科学タスクフォースは、このウイルスの伝染に対する青少年の役割は「非常に不確実」だと述べた。
教師に求められること
ドイツ語圏のスイス教職員連盟(LCH)のベアト・シュウェンディマン理事はswissinfo.chに対し、教員たちは義務教育が再開し、子供たちと教室で会えることを喜んでいると語った。
ただいくつかの調整が必要だという。「自宅学習中の学習進度は子供たちで異なり、その状態で学校に戻ってくる。教師にとっては、進み具合が遅れた生徒をサポートすることが大切だ」
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休校中の学習時間、子供たちの間で大きな差
ある調査報告によると、一部の生徒はオンライン学習に参加しなかった、あるいはコンピューターがない、親のサポートがない環境にいた、という。オンライン学習が長期化すると、教育格差の拡大につながるという懸念もある。学校の再開を求める声が高まったのは、こうした点が背景にある。
予防措置については、各学校が州・国の安全基準に沿うよう懸命に取り組んでいるという。ただLCHとしては、州や学校が勧告に応じて各自で措置を設けるのではなく、国が一律で音頭を取ってほしかったとシュウェンディマン氏は話す。
シュウェンディマン氏は「LCHは休校解除後も政府と保健当局が学校の状況をモニタリングし、必要に応じて予防措置を調整するよう求めている」と話す。
欧州諸国は?
デンマークは欧州の中で最も早く一部の学校を再開。ノルウェーがそれに続いた。フランスは5月11日から任意で、保育園と小学校を段階的に再開する。ドイツのメルケル首相は国内の学校を夏学期から徐々に再開すると発表(一部の生徒はすでに戻っている)。オーストリアは、高学年の授業が5月4日に再開。低学年は5月18日、全面再開を6月初めに予定している。イタリアでは9月に学校が再開する見込みだ。
(英語からの翻訳・宇田薫)
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