ロックダウンで女性の感染者が増えたのはなぜ?
スイスではロックダウン(都市封鎖)やソーシャルディスタンシング(社会的距離) ルールを講じて以来、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染者の女性割合が増えている。その理由を探った。
COVID-19がスイスで流行し始めた当初は、陽性が確認された人の中で男性の方が多かった。だが3月16日に発表されたロックダウンが定着すると、女性の割合が高まった。
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企業活動や多くの公共生活が停止されると、女性の感染者が男性を上回るようになった。スイス保健庁の公表値によると、5月中旬までの累計感染者のうち、男性は1万3800人と全体の46%、女性は1万6500人と54%になった。
他の国でも似たような傾向がみられる。ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガー外部リンクは、イタリアで女性割合が53%、ドイツでは52%、スペインとスウェーデンはともに57%に達したと報じた。
東京都は5月20日時点で43%と、まだ男性の方が多い。だが1日当たりの新規陽性確定者数でみると、5月に入ってから女性が男性を上回っている。
スイス国家COVID-19科学タスクフォースが16日に公表したレポート外部リンクは、感染者の女性割合が増えた理由の一つとして、医療施設や高齢者介護施設で働く人に女性が多く、ウイルスに接する機会が多いことを挙げた。検査を受ける機会も多くなる。
保育やスーパーの販売員など、在宅勤務に切り替えるのが難しく人との接触が多い職業も女性の割合が高い。学校の再開で接触機会が多くなる教員も、女性が圧倒的に多い。
タスクフォースはまた、賃金の低い仕事に就くのも女性が多く、感染予防用品は支給されない限り入手できないと考えがちだと指摘した。チューリヒ州の男女平等担当責任者のヘレナ・トラハセル氏はターゲス・アンツァイガーで、スイスはパートタイムで働く女性の割合が欧州で2番目に多く、男性より身軽で、「活動範囲が広いとウイルスに接するリスクが高まる」と指摘した。
チューリヒ大学の医療ジェンダー専門家カトリン・ゲプハルト氏は同紙で、性別による感染率の違いについてさらに研究を進めていると話した。「生物学的な違い」よりは「社会的な違い」の方が効果を持つだと指摘する。
ただウイルスに反応する免疫システムにおいては、男性と女性の生物学的な違いがあるとみられている。
感染率の違いを踏まえても、重症になる感染者は男性の方が多い。スイスでコロナ関連死の女性割合は一貫して40~42%で推移している。中国や米国でも似たような傾向がみられている。
コロナとジェンダー
タスクフォースが研究しているのは感染率だけではない。コロナ危機の間、妊婦検診や分娩の優先順位が下がり、助産師は感染予防用品を確保できず訪問回数を減らしている。
家庭内暴力(DV)も増えている。家に閉じこもり経済の先行きが見えなくなりして、ストレスがたまりやすいためだ。
タスクフォースは、経済的なダメージを受けるのも女性が不釣り合いに多いと指摘する。もともと経済的に不安定な場合が多く、家事など無償の仕事に費やす時間が長く、一人親世帯も女性が多いためだ。「ショックを吸収する力が男性より弱い」と警告する。
休校中の学業も父親より母親に任されるケースが多く、仕事との両立が困難になりやすい点もタスクフォースは指摘した。
一方、平等でジェンダーの影響が小さい自宅勤務のあり方も模索されている。家にいる父親が普段よりも子育てに多く関わっていく例もあるという。
タスクフォースは、危機を受けて柔軟な働き方やテレワークがこれまでより受け入れられるようになり、国が目指すジェンダー平等につながっていく、と主張した。
またコロナやロックダウンがもたらす影響が男女でどう異なるかを踏まえ、一連の提言をまとめた。連邦女性問題委員会外部リンクも、労働市場などジェンダーの視点でみたCOVID-19の特徴を分析している。
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(英語からの翻訳&編集・ムートゥ朋子)
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