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フェミサイド、信頼できる国際的な統計整備を国連が呼びかけ

femmes posant des bougies lors d un rassemblement contre les féminicides
女性であることを理由に殺されたスイス国内の犠牲者を追悼する集会。2016年11月、ローザンヌにて © Keystone / Leo Duperrex

国連は今月初め、女性であることを理由にした殺人「フェミサイド)」の撲滅に向け、実態をつかむための統計を整備するよう各国に求める報告書を発表した。現状は決まった定義も統計手法もなく、過少推計されているとみられるためだ。女性殺人の割合が高いスイスも足並みを揃える。

女性であることを理由にした殺人「フェミサイド」という概念はかつて、フェミニスト運動で使われる過激な表現とみなされていた。国連はこれを「女性に対して振るわれる最も過激で残忍な暴力」認知。「全ての国に影響を及ぼす」フェミサイドの根絶を目標に掲げるが、この現象を正しく定義し、統計を取るのは簡単ではない。

フェミサイドという言葉に対しては、無意味な概念であり「殺人」という言葉で足りるという批判がある。フェミサイドの定義が家族間殺人と重なる場合もある。一方、一部のフェミニスト団体はもっと広い範囲をフェミサイドに含めるべきだと主張する。意図的ではなくても女性に死をもたらしたという事実(例えば、不法な堕胎に起因する死)をフェミサイドとみなす。

フェミサイドの定義が一致しないため、信頼でき足並みのそろった国際的な統計は今のところ存在しない。しかし、女性に対する暴力と戦う組織や団体は口をそろえて、質の高いデータの重要性を強調する。

フェミサイドの誘因はジェンダーの典型

国連はこの問題に対処しようとしている。国連の統計委員会は4日、3年間にわたる作業の報告書として「ジェンダーに関連した女性や少女の殺害(フェミサイド)を測る統計の枠組み外部リンク」を採択外部リンクした。国連女性機関(UN Women)のシマ・サミ・バホス事務局長は報告書の発表に際し、「(フェミサイドとの)戦いの主な障害はデータの欠如だ。測れるものに対しては、もっと上手く対処できる」と強調した。

国連薬物犯罪事務所(UNODC)が国連女性機関と協力して策定したこの新枠組みは、複数の目標を掲げる。「フェミサイドをできるだけ包括的な方法で統計的に定義すること」、「各国当局にこれらのデータの収集を奨励すること」、「データ収集のガイドラインを提供すること」だ。

1つ目の重点課題は、フェミサイドを一義的に定義することだ。国連はまず、女性や少女の殺害が全てフェミサイドというわけではないと明言する。フェミサイドは意図的であること、そしてジェンダー的な側面が要件となる。「ジェンダーに根付いた動機」には、加害者の個人的な動機だけではなく、殺害の根底にある社会的な要因も含まれる。

その例として、報告書は「男性優位のイデオロギー、男性らしさに関する社会規範」や「性別による役割を守らせる必要性」を挙げた。「女性の振る舞いが(社会規範などから)外れていると認識されるとき、これらの要因が加害者の暴力を引き起こす可能性がある」

フェミサイドの指標

2つ目の重点課題は、ジェンダーの影響を客観的に測定する基準を確立することだ。フェミサイドを決定づける特徴は、測定が最も困難なものでもある。

ONUDCは現在、各国から家庭内暴力(DV)に関する数値外部リンクを収集し、国際比較の基礎としている。現時点でフェミサイドの実態に最も近いデータだ。

私的な領域で起きる女性の殺害のほとんどは、ジェンダーに関する社会規範に起因するため、フェミサイドに該当する。国連は報告書の中で、夫婦間殺人は「男性の支配を明確にする欲求と結びついていることが多い」と指摘する。そして、家族の他のメンバーが加害者の場合、いわゆる名誉殺人や持参金に関連する殺人であることが多い。これらもまた「社会的・文化的規範に根差している」。

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しかし、ONUDCはこれらのデータには限界があると認識している。フェミサイドのデータ収集を既に始めている国もあるが、国によって使用する指標や変数が大きく異なるため、国際比較はほとんど不可能だ。その上、不完全なデータを報告する国もあれば、全く報告しない国も多い。

報告書をとりまとめたONUDCデータ開発・普及部長のエンリコ・ビゾンニョ氏によると、世界中で起きる女性殺人のうち、私的領域で発生するのは約6割に過ぎないと推定される。

新枠組みは、私的領域における女性の殺害を今後もフェミサイドとみなすよう推奨する。さらに、フェミサイドの要件の1つ「ジェンダー的な側面」を示す指標として、犯罪の背景や手口に関する8つの特徴を考慮するよう勧告する。

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国連は国家や市民社会がこの統計基準を早急に採用することを推奨しているが、義務づけてはいない。いずれにしても、ビゾンニョ氏は「一朝一夕にはいかない」と言う。

スイスの状況

スイスは、女性に対する暴力の防止を目指すイスタンブール条約外部リンクの締約国だ(18年発効)。DVに関する欧州諸国の比較において、スイスは中間に位置する。夫婦・家族間で殺された女性の割合は10万人当たり0.48人。この割合はフィンランドやドイツより小さいが、フランスやイタリアを上回る。連邦男女平等事務局外部リンクの広報担当ジーナ・リヒティ氏によると、スイスでは殺人の絶対数は少ないものの、夫婦間殺人の割合は約4割と高くなっている。

連邦政府の委託を受けて行われた最近の調査外部リンクによると、家族間殺人の加害者は男性が圧倒的に多く(90%)、被害者は女性(96%)だ。他の全ての類型の殺人が減少しているにもかかわらず、家族間殺人の件数は過去25年間変わっていない。

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ジュネーブに拠点を置く非政府組織(NGO)、スモール・アームズ・サーベイ外部リンクが16年に発表した「暴力による死のジェンダー分析外部リンク」によると、スイスはあらゆる殺人の犠牲者で女性の割合が男性を上回る数少ない先進国の1つであることが分かった。それは今も変わらない。

スイスは近年、女性の殺害が私的領域で起きたか否か、被害者や加害者の性別、被害者と加害者との関係をあらかじめ区別した警察統計外部リンク(上のグラフの引用元)を提供する点では模範的だ。警察統計はこれまで支配的だったUNODCの基準に沿っている。

国連の新しい枠組みを、スイスは「比較を可能にし、根拠に基づく意思決定を支援するためには、共通の統計的アプローチを定義する必要がある」として「おおむね承認外部リンクした。しかし、基本方針を実際にどのように導入するかが問題だ。連邦統計局はswissinfo.chの取材に対し、「国連の勧告に沿うためにはまだ法的・実務的影響を分析する必要がある」と書面で回答した。

連邦統計局は「連邦も州警察もこの問題には敏感だ。(フェミサイドという)現象を全体として把握し、報告できるようにする解決策を見つけなければならない」と述べる。警察がフェミサイドを構成する背景的要素を収集・報告する方法に適応するには、事件現場にまで届く意識改革と手段が必要だろう。技術的・物理的に実現可能かはまだ判断できないが、スイスは今年中にこの課題に取り組む予定だ。

(仏語からの翻訳・江藤真理)

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