コロナ危機に脅かされるスイスの不法滞在者
新型コロナウイルスの流行により、もともと高い生活費で知られるスイスに暮らす推定10万人の不法滞在者が直面する問題がいっそう深刻になっている。
「私には友達がいていつも互いに助け合っていますが、今回は皆コロナ危機の影響を受けました。スイス人男性と結婚した私の友人が、私に生き延びるのに必要なお金を貸してくれました。コロナウイルスはこの地に貧困を拡散させました」。ドミニカ共和国出身のマリアナさん(仮名、34歳)はこう話す。彼女は一般家庭の掃除婦の仕事で食いつないでいる。「サン・パピエ」と呼ばれる不法滞在者の1人だ。
「二つの家族は私が家に来ない日でも、毎週の労働時間と同じだけの代金を私に払っています。後から追加で1時間掃除すれば穴埋めできると言ってくれますが、他の家族は失業した外国人だったり、外出自粛していたりと、私が要らなくなってしまいました」
今、マリアナさんはスイス北西部・フリブール州ムルテンの近くの村に友人と暮らしている。ロックダウン(都市封鎖)中だった商店やその他の経済活動が徐々に再開すれば、生き残るための新しい手段が見つかると期待する。
「農作業を探そうと考えていますが、誰も信頼できる人がいません。ある若い難民に、一部の農家はアスパラガス栽培のために無許可で労働者を受け入れていると聞きました。彼は今そこで働いていますが、同時に生活保護を受給しています。ずるいと思いますが、それだけです。私は国のお荷物になったことはありません。自分で何とかやってきましたが、コロナ危機のせいで今は家政婦の仕事ができません」
多くの国と同じように、スイスでは地元住民のやりたがらないような仕事を不法滞在者が担っている。建設作業や家政婦、子供の世話や売春婦などだ。景気が良ければ食費や居住費、さらには出身国の家族への仕送りに十分な収入を得られる。
景気が悪くなると最も大きな打撃を受ける。だが国内の労働者向けの救済策を受けることはできない。
家族全員が失業
「家賃の支払いの助成はあるのだろうか?」。ニカラグア出身のヘクトルさん(仮名)は頭を抱える。妻、2人の子供とともにスイスに住む不法滞在者だ。
ヘクトルさんも妻も3月初旬から失業中だ。だが月1000フラン(約11万円)の家賃を支払わなければならず、窮地に追い込まれている。
コロナ危機の間、チューリヒやルツェルン、バーゼル、ベルン、ジュネーブ、ローザンヌのさまざまな支援機関やサポートセンターは、食料券などを支給し、基本的な生活を支えてきた。それでも助言や経済的支援の要請が殺到している。
チューリヒ不法滞在者支援センター(SPAZ)外部リンクのベア・シュヴァ―ガーさんは「チューリヒでは外出自粛中に必要な費用を賄うため、400人以上が経済支援を求めてきました」と話す。
スイス政府が営業停止命令を出した直後から、SPAZは世間に寄付を訴えてきた。「支援事業をどう続けるか見直しが必要となり、経済援助を一時的に止めました」
危機はいつまで続く?
ヴォー州にあるプロテスタント社会センター(CSP)のミリアム・シュワブさんは、最大の懸念は、現在の状況がどのくらい続くか分からないことだと話す。
「我々の活動の柱はカウンセリングであって、経済支援ではないが、今は足元の緊急事態でも公的支援を受けられない人々のための資金集めに尽力しています」(シュワブさん)
ヴォー州不法滞在者支援共同体(CVSSP)外部リンクのバイロン・アラウカさんは、不法滞在者はその日暮らしで、食べ物などの基本的な生活の他に家賃の支払いが大問題だと説明する。
「多くの人々は4月の家賃を賄うことができませんでした。(慈善団体の)カリタスは、店で安価な食品を購入する補助券を配り、プロテスタント教会も食料を配給しました。例えばローザンヌでは、危機前は80カ所だった食糧配給所を350カ所に増やしました」
CSPとCVSSPは4月中旬、他の州内組織とともに連邦、州政府や基礎自治体に対し、不法滞在者を含む最も弱い立場にある人々への財政援助やその他の支援を求める書簡外部リンクを送った。だが今のところ返事はない。
不法滞在者の全国組織の共同会長を務めるアダ・マーラ社会民主党議員は5日、不法滞在者の支援組織を支援するための基金設立を連邦議会に求めた。
だがシュワブさんは、不法滞在者を巡る問題はロックダウンの解除で解決する見込みはないと警告する。
「今後、不法滞在者がスイスで仕事を見つけるのは難しくなるでしょう。生き残るためには職を得ることが極めて大切ですが、私たちは非常に難しい時期を迎えています。スイスでの滞在者の歴史を振り返ると、経済危機において最も苦しむのはいつも最も弱い立場にいる外国人だったことが分かります。スイスを去らなければならない人たちでした」
(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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