コロナ危機前から危機にあったスイスの医療
医療機関で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対応に当たる医療従事者を称え、スイスでは毎晩家々のバルコニーから拍手が送られる。一方、スイス政府は医療従事者の労働・休憩時間に関する規制を一時的に緩和した。だが医療従事者の不足はコロナ危機で初めて起きたわけではない。
看護師が過重負荷のギリギリで働いているという状況は、スイスではかねて問題視されてきた。医療従事者の増員や看護師1人当たりが受け持つ患者数への上限設定、待遇改善を求めるイニシアチブ外部リンク(国民発議)も提起されている。
平時でも際どかった医療体制は、今どうなっているのか?
極めて負荷の高い状況だ。病院の職員は休憩時間や労働時間の上限(60時間)に関する全ての規制が一時無効になっている。連邦政府はCOVID-19により仕事が大幅に増えている医療部門について、労働規制を一時的に停止する指令外部リンクを発した。
労働組合・団体からの抗議
スイス公務員協会(VPOD/SSP)外部リンクは連邦政府の指令を撤回し、医療従事者への危険手当ての支給を求める請願活動を始めた。協会によると、「2日程度で5万5千人以上が署名した」。
同協会のエルフィラ・ヴィーガース氏は、「労働規制の一時停止により、医療従事者が必要としていない不安定とストレスが生じる」と指摘する。他の医療関係者組合と共に、医療従事者の健康を守る措置や十分な休憩時間を確保するよう連邦政府に要求している。
スイス看護師協会外部リンクのイヴォンヌ・リビ氏は「医療従事者は危機を乗り越えるために異常な量の仕事をこなしている」と話す。「だからこそ、彼らの健康の維持を最優先することが重要だ。医療従事者が欠ければ、最初に困るのは患者たちだ」
swissinfo.ch:平時に医療資源を節約したために、緊急時に医療が崩壊しかねないでしょうか?
イヴォンヌ・リビ:医療に関する最近の意思決定には疑問が残ります。しかし、今は責任の所在を探している場合ではない。我々はこの危機を乗り越えるためにあらゆる手を尽くす。念入りに検証し、将来十分な医療を供給するために有効な措置を探すのはその後だ。
swissinfo.ch:事前にどんな備えを築いておくべきだったのでしょうか?例えば職員を増やすのは?
リビ:このような状況に備えられていた人などいない。危機の後に様々な角度から検証し、そこから学ばなければならない。
swissinfo.ch:コロナ危機は医療強化を求めるイニシアチブに追い風になるでしょうか?投票キャンペーンでコロナ危機を議題にしますか?
リビ:上院・下院とも、イニシアチブの要求内容への理解が深まり、重要度が上がったと確信している。上院が要求を真剣に受け止めるだけではなく、必要な立法措置を講じると期待する。そうでなければイニシアチブの是非が国民投票で問われるまでだ。そうなれば必ず可決されるという自信がある。
swissinfo.ch:国は医療従事者に関して何をすべきですか?
リビ:看護師協会は現在、医療従事者の健康維持を最優先に置いている。それには看護のあらゆる場面で防護装備が十分にあり、過密シフトの疲れを取るのに十分な休憩時間が必要だ。
政府の指令外部リンク原文
病院でCOVID-19の患者により業務が大幅に増えている部門では、「異常な状況」が続く限り、1964年3月13日に発効した労働法の労働時間および休憩時間に関する規定は効力を持たない。ただし雇用者は被雇用者の健康を守ることに引き続き責任を負い、十分な休憩時間が確保されるよう尽力しなければならない。
今の時点では、次のことが言える。もし危機が終息した後に、医療従事者の抱える懸念を政治家が忘れ去ってしまうようなら、ささやかな拍手を送るだけでは医療従事者への感謝を示すには不十分だ。
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(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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