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「孫がほしい」シニアの不満 はけ口はどこ?

高齢者
孫を持てないことに落胆するシニアは多い Dreamstime.com

スイスでは子どもを持つ人が減っている。自発的にそうする人たちが多いが、その裏でもどかしい思いをする人たちがいる。孫が欲しいのに持てない高齢者たちだ。 

30代半ばの男性ダニエルさん(仮名)は、こんな言葉をぶつけられるとは予想していなかった。母親と口論になった時のことだ。理由が何だったか全く思い出せないが、怒った母親が放った一言がこれだ。「それなら、私は孫も持てないってことなのね!」 

ダニエルさんは一人っ子で、子供を持つつもりはなくここまで来た。母親にとってはそれが大きな心配事だったことに、この口論で初めて気づいた。 

出生率の低下 

孫が欲しいという願望が強いほど、叶わない時の痛みは大きい。今後数年で、ダニエルさんの母親と同じような思いを抱くスイス人はますます増えるだろう。少子化が着実に進めば、孫を持つチャンスも減る。連邦統計局によると、2023年の合計特殊出生率は1.33に低下外部リンクした。 

ベビーブーム世代が生まれた1964年の出生率は2.68。出生率が2を超えたのは1971年が最後で、それ以来低下が続く。安定した人口を維持するためには2.1が必要だ。移民の流入はここには含まれない。 

出生率の低下はスイスだけではない。欧州の多くの国が少子化の未来に直面している。2015年、デンマークの少子化対策キャンペーン動画が欧州中で話題になった。国が旅行代理店と共同で行ったキャンペーンで、子作り意欲を高める休暇の過ごし方を提案する動画だった。 

この動画の主人公はカップルではなく、孫を切望する年配の女性だ。スローガンは「Do it for Mom(ママのためにヤろう)」。ソファに一人座る悲しげな女性が、孫を抱く嬉しそうなおばあちゃんになる。動画はこうも訴えかける。子供達は国家の存続を保証するだけではない、高齢者も幸せにしてくれるのだと。 

>>デンマークのキャンペーン動画 ↓

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祖父母になりたいという願望がとても強い人もいる。チューリヒ応用科学大学の社会福祉修士課程主任で講師のシャニン・ヘス氏は「現代の祖父母世代の大半にとって、子持ち家族は理想の生活モデルだ。子供は彼らの人生観の一部であり、規範でもある。子供がいるのだから孫も、と期待する」と話す。 

スイスの高齢者団体プロ・セネクトゥーテの広報担当ぺーター・ブリ・フォラス氏もこう話す。「今のところシニア女性の大半は子供を産んだ人たちだ。当然、自分の子供にもそうしてほしいと願う」 

孫を望む気持ちは性別を問わないが、理由は異なる。ヘス氏は「女性にとっては、(育児や介護などの)ケア労働が生涯関わるテーマだ。ケア労働は老後も続く。男性は人生のこの段階になると、特に遺産のことを考えるようになる。誰が相続するのか、何を残すべきか。孫という形の遺産もそこに含まれる」とヘス氏は言う。 

加えて、男性にとっては食べるための仕事が最優先だ。「孫が生まれれば、家庭に関わり、子供の成長を見守るチャンスがもう一度できる」 

センシティブな孫問題 

自分の子供が、家庭の事情や健康上の理由で子供を持てないのなら、ある程度の理解が得られる。しかし意識的に子供を作らない、となると、孫を持つ願いを断たれた祖父母にとっては大きな不満の種となる。「無力感を生む引き金になりかねない」とヘス氏は言う。 

密かな期待を抱く、あるいは公然とその願いを表に出すことは、子との関係にも負担をかける。デンマークのキャンペーン動画とは違い、両親は普通、子供の出産計画にはあまり影響力を持たない。 

ヘス氏は「基本的には、子供がいないと緊迫関係が生まれやすい」と言うが、スイスでは将来、意識的に子供を持たない選択をする人がさらに増えるとみる。そうなれば、孫のいない人の数も増えていく。 

子供がいないというテーマがどの世代にとっても扱いにくい話題であることは、記者の調査でもはっきりした。ほとんど誰も、自分の経験について語ろうとはしない。ある高齢者団体は、会員に体験談を募ることさえ渋った。一方、幸せそうな祖父母のイメージは、広告などでは至るところに溢れている。 

孫がいないー中国の人口減少 

世界中の高齢者が孫を切望している。しかし、皆平等にそのチャンスがあるわけではない。中国では長年の一人っ子政策によって、その一人っ子同士の夫婦が親の期待を一身に背負う。ベルン在住の医師で中国人女性のジアさん(57、仮名)は幸運だ。一人娘が、子供を持ちたがっているからだ。 

ジアさんは、娘の選択を喜んでいる。彼女だけではない。中国にいる父も、孫娘に早く家庭を築いてほしいと望んでいる。中国であれば、孫娘の歳ならもうみんな母親になっている。父は子を持つまでに時間がかかりすぎてしまうのでは、と気を揉んでいる。 

中国が1月に発表した数字によると、同国は人口減少に転じた。2016年に二人っ子政策を導入したにもかかわらず、出生数は激減した。「都市部では、子供を産まないことはもはや珍しくない」とジアさんはいう。 

中国の子供たち
中国でも出生数が減り、人口減少が進む Keystone / Vincent Thian

子供を持つ余裕がないのか、キャリアが優先なのか、それとも単に子供が欲しくないのか。シニア世代は、こうした理由を理解できない。ジアさんによれば「中国では、子どもは幸せの象徴だ」 

中国では、家族はとても重要で、孫が生まれなかったときの落胆はスイス以上だとジアさんは言う。シニア世代が文字通りうつになることもあるという。 

老後の蓄えとしての孫 

中国では祖父母は孫の世話や育児を引き受けることが多い。祖母が孫の面倒を見るため、子供夫婦が住む街に引っ越すこともある。ジアさんも同様で、娘に孫の面倒を見ると約束済みだ。 

とはいえ、祖父母の側が子供や孫に頼らなければならなくなる時はいずれ来る。「可能な限り、家族が祖父母の面倒を見る。経済面でも」とジアさんは言う。だから、孫のいない貧しい人々は老後の生活を心配するのだ。 

孫の代わりが隙間を埋める 

たとえ孫が老後の保険とならなくても、孫がいないという失望は大きな悲しみになる。それを克服するには、自分を見つめ直すことが必要だ。「なぜこの思いがそこまで強いのか、考えてみるのも一手だ」とシャニン・ヘス氏は言う。 

自分の子供に子孫を残してほしいとプレッシャーをかけることはできても、強制は不可能だ。ヘス氏は「他の分野で自分のアイデンティティを確立し、自分の欲求を満たすようにしないといけない」とアドバイスする。 

それはつまり、自分が喜びを感じられる何か他のことを見つけるということだ。プロ・セネクトゥーテのブリ・フォラス氏は「老年期には社会的接触が重要な役割を果たす」と言う。子供の世話ができないのなら、友人関係や趣味を充実させるしかない。 

自分の孫がいなくても、祖母や祖父の役割を担うことはできる。そこに目をつけ、祖父母になりたい人たちに孫の代わりを提供するさまざまなプロジェクトが発足している。 

たとえばシニア世代の託児マッチングプラットフォーム『misgrosi.ch』では、単なる託児ではなく、祖父母と孫のような親密な関係になれると広告でうたう。このような交流は、無償のケア労働に従事する以上の意味を持つのだろうか?ヘス氏は頷く。「これはギブ・アンド・テイクだ。高齢者は、例えばスマートフォンの操作など、子供たちと接することで最新の時代についていくことができる」 

ただこうした形式の支援や交流はそこまでスイスに定着していない。「家族外の世代間関係はまだ十分に根付いていない」。老後のフラストレーションを抑えるためには、孫ができないかもしれないという心づもりを定年前にしておくことが望ましい。 

協力:Xudong Yang、編集:Marc Leutenegger、独語からの翻訳:宇田薫 

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