1月から戸籍上の名前・性別変更手続きが簡略化されたスイスで、同月末までに身体と心の性が一致しないトランスジェンダーやインターセックス100人以上が性別を変更したことが分かった。
このコンテンツが公開されたのは、
2022年1月1日から、スイスの戸籍上の性別を変更したい人は、直接戸籍役場で手続きを済ませることができるようになった。在外スイス人なら最寄りの大使館で変更できる。その場で、心と身体の性が一致しないため戸籍上の性別を変更したい旨を口頭で説明し、役場が変更を入力する。それで手続きは完了だ。
手続きにはこれまで、申請書類のほか医学的な証明が必要だったが、1月1日からは不要となった。長い待ち時間もなくなった。手数料は数百フランから75フラン(約9400円)に引き下げられた。
当事者たちはこの制度変更を歓迎する。swissinfo.chの調べによると、主要州・都市だけでも100人以上が年初以降に戸籍を変更した。
2019、20年はそれぞれ約200人で、22年はそれを優に上回る見込み。性別変更の件数はここ数年増加傾向にあったが、今回の法改正でさらに加速しそうだ。16年以前は100件以下だった。
最年少は10歳
正確な全体像をつかむためのデータはまだ出そろっていない。例えばベルン州では1月1~7日に42件の性別変更があったが、それ以降のデータはまだない。チューリヒ市は1月末までに35件、バーゼル・シュタット準州では18件、ヴォー州で61件の変更があった。
ベルン州やチューリヒ州では男性への変更と女性への変更がほぼ同率だったが、バーゼル・シュタット準州では男性への変更がやや多かった。年齢層には幅があり、最年少はバーゼルの10歳、最年長はベルンの67歳だった。平均年齢はスイス人口全体の平均を下回る。16歳未満は親の同意が必要だ。
▼年初に戸籍上の性別と名前を変えたジャスティンさん(16歳)の声
障壁は残る。戸籍上の性は「男性」か「女性」に限られ、第3の性は存在しない。
「第3の性は絶対に必要だ」。スイス戸籍身分協会のローラント・ペーターハンス会長はドイツ語圏の日刊紙NZZ日曜版外部リンクにこう語った。例えば生物学的に性別がはっきりしない赤ちゃんのケースも依然として問題になるとし「両親は非常に早い段階で戸籍上の性別を決めなければならない。それでは解決にならない」と指摘する。
第3の性を認める国も
スイスでは、出生時に性別を特定できない子供が年間40人ほど生まれる。また出生時に性別が割り振られていながらも、男性とも女性とも明確に自認できないノンバイナリーの人もいる。
「男性」「女性」以外の選択肢がある国もある。オーストラリアでは2014年に最高裁判所が中立的な性別を合法的に登録できるとの判決を出し、世界の先駆けとなった。他の国も続いた。
アルゼンチンは2012年に法律を整備し、自認する性を公的書類に記載できるようにした。21年7月以降は全ての身分証明書やパスポートで第3の性である「X」を記載できるようになった。米バイデン政権も年内に、ノンバイナリーの人たち向けの「X」を登録できるようにする方針を表明済みだ。
ドイツでは「Divers(各種)」の選択肢がある。スイスでは国家倫理委員会が20年10月にまとめた報告書外部リンクで、同様の制度導入を提言。これにより「できるだけ多くの異なる性同一性が内包されるようになる」と指摘した。
(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
おすすめの記事
国民投票に向けた署名がまたも偽造
このコンテンツが公開されたのは、
医療品の安定供給を求める国民投票に向けて集められた署名のうち、3600筆以上が無効な署名だったことが明らかになった。
もっと読む 国民投票に向けた署名がまたも偽造
おすすめの記事
スイスの柔道家エリック・ヘンニ、86歳で死去 東京五輪柔道銀メダリスト
このコンテンツが公開されたのは、
1964年東京オリンピックで銀メダルを勝ち取ったスイス人柔道家のエリック・ヘンニ(Eric Hänni)さんが25日、86歳で死亡した。スイス柔道・柔術協会が発表した。
もっと読む スイスの柔道家エリック・ヘンニ、86歳で死去 東京五輪柔道銀メダリスト
おすすめの記事
スイス、「若すぎる」子犬の輸入を禁止
このコンテンツが公開されたのは、
スイスは来年2月1日から、生後15週未満の子犬の商業輸入を禁止する。安易なネット購入を抑止するのが狙い。
もっと読む スイス、「若すぎる」子犬の輸入を禁止
おすすめの記事
スキー初心者泣かせのT字型リフト 生誕から90年
このコンテンツが公開されたのは、
スイス発祥で、今も国内のスキー場で使われているT字型リフトが23日、東部ダボスの地で誕生から90年を迎えた。発明直後から急速に普及したが、現在ではチェアリフトへの転換が進む。
もっと読む スキー初心者泣かせのT字型リフト 生誕から90年
おすすめの記事
スイス、原発新設を解禁へ 政府対案まとまる
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦政府は20日、原子力発電所の新設解禁を求めるイニシアチブ(国民発議)に応え、解禁を盛り込んだ対案をまとめた。
もっと読む スイス、原発新設を解禁へ 政府対案まとまる
おすすめの記事
スイス航空救助隊Rega、クリスマスの出動急増
このコンテンツが公開されたのは、
クリスマスを挟んだ12月24〜26日、スイス航空救助隊Regaの出動件数(国外向け含む)は前年比20%増の150件超に上った。
もっと読む スイス航空救助隊Rega、クリスマスの出動急増
おすすめの記事
スイスとEU、今後の二国間関係について合意
このコンテンツが公開されたのは、
スイスと欧州連合(EU)は20日、貿易や労働、人の移動自由などのルールを盛り込む二国間条約の締結に向けた交渉を完了したと発表した。
もっと読む スイスとEU、今後の二国間関係について合意
おすすめの記事
クレディ・スイス危機への対応「時間がかかりすぎた」 議会調査委が報告書
このコンテンツが公開されたのは、
クレディ・スイスが経営危機に陥った責任を追究するスイス連邦議会の調査委員会は20日発表した報告書で、原因は長年にわたる経営上の不始末にあったと結論付けた。
もっと読む クレディ・スイス危機への対応「時間がかかりすぎた」 議会調査委が報告書
おすすめの記事
世界で最も急勾配のロープウェイがスイスで開業
このコンテンツが公開されたのは、
スイス中部ベルナーオーバーラント地方のシュテッヘルベルクとミューレンの間に、世界一急勾配のケーブルカーが開業した。
もっと読む 世界で最も急勾配のロープウェイがスイスで開業
おすすめの記事
2025年のスイス連邦大統領はカリン・ケラー・ズッター氏
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦議会は11日、カリン・ケラー・ズッター副大統領兼財務相(急進民主党、60歳)を新大統領に選出した。新副大統領にはギー・パルムラン経済・教育・研究相(国民党、65歳)が選ばれた。
もっと読む 2025年のスイス連邦大統領はカリン・ケラー・ズッター氏
続きを読む
おすすめの記事
スイスの「ノンバイナリー」自認、わずか0.4%
このコンテンツが公開されたのは、
世論調査会社ソトモが29日発表した最新調査で、スイスでは99.6%の人が自分のジェンダーを男性か女性のどちらかだと認識していることが分かった。
もっと読む スイスの「ノンバイナリー」自認、わずか0.4%
おすすめの記事
「パスポートには性別を記入すべきでない」
このコンテンツが公開されたのは、
男性か、女性か?自分はそのどちらでもないエックスジェンダー(男性・女性のいずれの性別でもない人)だとパティさんは言う。ドイツが欧州で先陣を切って「第3の性別」への扉を開いたが、チューリヒ出身のパティさんはそれだけでは不十分だと言う。
もっと読む 「パスポートには性別を記入すべきでない」
おすすめの記事
第三の性、認識への闘い
このコンテンツが公開されたのは、
「助産師が母親に男の子か女の子か告げられない、生まれた子どもにどう名前をつければよいか分からない、我が子の誕生を友人や役所にどう通知すればよいか分からないという状況を想像できるだろうか。私の子どもは男性の性染色体XY型…
もっと読む 第三の性、認識への闘い
おすすめの記事
男性、女性、ホモ・ヘテロセクシャル 消える境界線
このコンテンツが公開されたのは、
レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーに属する人々をその頭文字を取って「LGBT」と呼ぶ。「こういった性的指向や性的なアイデンティティーを持つ人は、今でも暴力や差別の対象となり社会的に孤立しやすい」とジェンダー問題の専門家、キャロリン・ダイエールさんは言う。
もっと読む 男性、女性、ホモ・ヘテロセクシャル 消える境界線
おすすめの記事
「私は男性のまま死にたくなかった」
このコンテンツが公開されたのは、
自殺か、それとも女性として生きるのか。そのジレンマに苦しんできたシュテファニー・シュタルダーさん(48歳)。スイス、ルツェルン州で農業を営むシュテファニーさんはトランスジェンダーだ。葛藤の末に選んだのは生きること。性転換手術を決心した彼女にようやく自由が訪れた。
もっと読む 「私は男性のまま死にたくなかった」
おすすめの記事
「男か女か決める必要はない」トランスジェンダーの場合
このコンテンツが公開されたのは、
女性もしくは男性のどちらにも分類されない「ノンバイナリージェンダー(トランスジェンダー)」のフィンさん(21)。敬称はミスター、ミセスのどっちがいいの?使うトイレは男子用、それとも女子用?フィンさんは、決め付けないこと、自分らしく生きることが大切だと言う。
もっと読む 「男か女か決める必要はない」トランスジェンダーの場合
おすすめの記事
クラウディア①スイス軍初のトランスセクシュアル兵士
このコンテンツが公開されたのは、
スイス軍初のトランスセクシュアル(心と体の性が一致しない人)として、コソボでの平和維持活動に派遣されたクラウディア・マイヤーさん。営舎のコック兵として、兵士の料理を作る毎日を送る。
もっと読む クラウディア①スイス軍初のトランスセクシュアル兵士
おすすめの記事
同性婚賛成派 「合法化は平等への大きな一歩」
このコンテンツが公開されたのは、
スイスで同性婚を合法化する法改正案「全ての人に結婚の自由を」を巡り、賛成運動を指揮するオルガ・バラノヴァさんは、この法改正で「根拠のない差別に終止符を打つ」ことが重要だと考えている。
もっと読む 同性婚賛成派 「合法化は平等への大きな一歩」
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。