長期にわたる臨時休校が与える影響
新型コロナウイルスの感染拡大を受けスイスで全国一斉の休校措置が続く中、特に懸念されているのは、自宅学習に不利な家庭環境に置かれている子供たちの勉強に遅れが出ることだ。専門家は、長期の休校で教育格差に拍車がかかりかねないと指摘する。
スイスの教育機関は3月中旬から全国一斉休校となった。州が教育を管轄するこの国で、教育機関の休校を連邦政府みずからが決定したのは異例のことだった。
4月末からロックダウン(都市封鎖)の段階的緩和が始まるが、学校は5月11日まで休校が続く。
この休校措置により、およそ100万人の生徒が現在、プリントを使ったり、オンラインプラットフォームやビデオ会議で授業を受けたりしながら自宅学習を続けている。
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だが、全ての生徒が家庭で同じようなサポートを受けられるわけではない。スイス公共放送(SRF)は、特に移民家庭が厳しい状況に置かれがちだと報告している。チューリヒ近郊のラングナウ・アム・アルビスに住むイングリッドさんは、4年前にコロンビアから家族で移住してきた。勤勉なイングリッドさんは自宅で1日4時間ほど勉強しているが、何か分からないことがあると行き詰まってしまうという。
「例えば、父はあまりドイツ語が分かりません。訳してみても父が分からない時は、先生に連絡します」(イングリッドさん)
清掃員の母親は外出自粛中の今も外で働いている。母親に話を聞くと、自分たち親も教師もできる限りのサポートをしているが、それでもイングリッドさんの将来を心配していると不安を漏らした。
リモート学習は挑戦
ドイツ語圏教職員連盟(LCH)の役員、ベアト・シュヴェンディマンさんは、全国の教師が、新型コロナウイルス感染拡大対策としての臨時休校が引き起こす混乱と影響を最小限に抑えようと最善を尽くしているという。「だがリモート学習は、全ての面で学校での学習をカバーできるような、総合的な代替手段にはならない」
「全ての教科がリモート学習で学校現場と同じスタンダードで教えられるわけではなく、親の仕事の状況の他にも、親の教育、言語レベルによって生徒が家でどのようなサポートを受けられるかが異なる。リモート学習に必要なツールやネット環境、落ち着いて勉強できる場所がない生徒もいる。そうしたことが、すでにあった教育格差に更なる要因をもたらしている」
スイスでの教育格差問題はパンデミックの前から存在した。それは経済協力開発機構(OECD)による15歳の生徒の学習到達度調査(PISA)でもたびたび指摘されてきた。
スイスでは、学歴のより低い親の子供に比べ高学歴の親を持つ子供は大学進学につながる高等学校に進む傾向にあることは、よく知られている(後者の進学率は50.6%、前者は12.2%。SRFから引用)。
またスイスではインクルーシブ教育が取り入られているため、言語療法などの特別支援が必要な生徒たちも、休校で通常の支援が受けられなくなっている。
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シュヴェンディマンさんは、「教師たちは遠隔でも個別に生徒をサポートしようと努力してる」と話す。「支援のために、スクールソーシャルワーカーも家庭と連絡を取り合っている。だが、移民家庭や特別支援の必要な生徒に遠隔で適切なサポートを提供するのは難しい。政治家はこのような特殊な状況を考慮して、公平な解決策を展開できるよう検討するべきだ」
社会問題
児童福祉の従事者は、学校の長期休校で子供たちに精神的・身体的な影響が出ることを懸念している。スイス・ユニセフ協会のベッティーナ・ユンカー会長は「子供たちはパンデミックの隠れた犠牲者だ」とSRFに語っている。教育を受ける権利や、友人に会うこと、自由な行動や遊びなど、あらゆることが制限されているからだ。
スイスの児童保護団体は、ロックダウン中に家庭でのストレスが高まり、子供が家庭内暴力を受けやすくなる懸念も指摘している。他の団体も、学校には危険にさらされている子供に気づく「監視的役割」があるとして、早めに学校が再開されることは重要だという。
国際比較
経済協力開発機構(OECD)によると、新型コロナウイルスの感染拡大により世界150カ国以上で学校が閉鎖されている。だが、2018年の学習到達度調査(PISA)では、それらの国の大半で「デジタルラーニング導入への準備ができていない」と指摘されている。
スイスでは95%以上の生徒が自宅に勉強用のパソコンがあると答えているのに対し、インドネシアはわずか34%。
アンドレアス・シュライヒャーOECD教育スキル局長はスイス公共テレビ(SRF)のインタビューで、スイスの学校は他のOECD加盟国に比べデジタルテクノロジーを備えているものの、PISA調査の結果を見る限り、画期的な授業に技術を組み込む点でもっと教師の努力が必要だと話している。
(英語からの翻訳:由比かおり)
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