猛禽たちが飛び回るショー – ロカルノのファルコネリア見学
ヨーロッパの由緒ある城などに、時おり鷹狩り用の手袋や宝石で装飾された猛禽用マスクなどが展示されていることがある。今は廃れたと思っていたが、現在も鷹匠はいてその伝統を守っているのだそうだ。今回、ロカルノ(Locarno)に檻の中にいる猛禽類だけではなく実際に飛んでみせる鷹狩りショーを見せてくれる施設があると聞いたので見学に行ってみた。
自由に飛び回る鳥たちはスイスの田舎暮らしの私には身近な存在だ。山岳国であるスイスには多くの猛禽類が住んでいる。私の住む村でもノスリ(Mäusebussard)、イヌワシ(Steinadler)などをごく普通に見かけるし、夜はフクロウ(Uhu)の鳴き声がする。
鷲や鷹などの猛禽類は人間の8倍の視力があり、上空からネズミなどの獲物がはっきり見えているらしい。ドイツ語で「ワシの目を持つ(Adleraugen haben)」とは「視力がとてもいい」という慣用句である。空を飛ぶ彼らからは私の姿はとてもよく見えているらしいが、こちらからはシェイプがわかる程度でつぶさに観察できるわけではない。とはいえ、動物園の檻の中を観察するだけでは物足りなくダイナミックな飛翔も見たい。
ロカルノにあるファルコネリア外部リンク(Falconeria)は、そんな私のわがままな願いを叶えてくれる施設だった。ファルコネリアとはイタリア語で「鷹狩り」を意味する。鷹狩りは猛禽類を使った狩猟で鷹匠によって訓練された猛禽類を使って狩りをする技術で、もともとの発生起源は不明だが、少なくとも紀元前2000年のメソポタミアに記録が残っており、近代までは日本でも行われていた。ヨーロッパでも長く王侯貴族の間で好まれていたが、現代では狩りという趣味やスポーツのためだけでなく、猛禽類の生態研究と保護管理のために長年蓄積してきた鷹匠の技術が使われている。
ロカルノのファルコネリアには常時20種類以上の世界各地に生息する様々な猛禽類が飼育展示されている。タカ、ワシ、フクロウ、ハゲタカなどのほか、カラスもいた。3月から10月までは日に2回、それ以外は1回、45分間のショーがあり、観客席と少し離れた二つの物見塔の間を訓練された猛禽類が飛び回るのを見ることができる。
ショーはイタリア語とドイツ語の二カ国語で解説されていた。何という名前で、平均的な大きさやどんな習性があるかを解説してくれる。この二カ国語がわからなくても、鳥が目の前や頭の上を飛びまわるのを見るのだけでもエキサイティングで楽しい。
鳥たちはよく訓練されているので、逃走したり観客を襲ったりはしないが、川辺で魚を狩ってそのまま飛び去る予定が水浴びに興じてしまうなど、生き物ならではのハプニングもある。ショーの一部だが、翼を広げると2 mもあるハクトウワシ(Weisskopfseeadler)が頭上すれすれを飛んだり、カラカラ(Schopfkarakara)が観客の頭に乗ったり、とても迫力があり、特に子供たちは大喜びだった。
出演する鷹匠たちは白いブラウスに茶色い革の制服を身につけていて、中世の趣がある。白馬に乗って鷹と一緒に走り回る姿は、映画に出てくる鷹匠たちを彷彿とさせる。ショーの後で、子供たちは順番にポニーに乗せてもらい園内を散策できて楽しそうだった。また、家族で鷹匠や希望の猛禽との記念写真を撮ってもらうこともできる。どうやら、園内での結婚式も可能なようだ。
近世の技術革新によって、人間が居住エリアを拡げ、ダムなどをあちこちに建設したため、世界のその他の地域同様ヨーロッパにおいても猛禽類の生存は脅かされている。また、かつては事故で怪我をしたり死亡したりした家畜が山の上に残り、それがハゲタカたちの食糧になっていたのだが、輸送手段が発達して遺骸が山に残らなくなり、その生息数の減少させていると聞いた。
自然を大切にし、共存しようという気持ちの強いスイス人は多く、自然保護活動は盛んだ。野鳥の生態を研究し、保護しようとするプロジェクトも多い。もともとは楽しみのために動物を狩っていた鷹狩りの技術が、野生生物の研究・保護活動に応用されているというのは、皮肉ながらもとても興味深いと思う。
このロカルノのファルコネリアも、猛禽に馴染みのない子供たちや人びとに生態を紹介するとともに、傷ついた野鳥を救うプロジェクトを支援するなど、自然保護に貢献している。観光客で賑わう夏のリゾート地ロカルノで、週末や休暇を楽しむ人びとが、ひと時自然の驚異に思いを馳せ、野鳥保護のことを考える時間を持てる素晴らしい施設だと思った。
ソリーヴァ江口葵
東京都出身。2001年よりグラウビュンデン州ドムレシュク谷のシルス村に在住。夫と二人暮らしで、職業はプログラマー。趣味は旅行と音楽鑑賞。自然が好きで、静かな田舎の村暮らしを楽しんでいます。
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