スイスの学生 、気候の「非常事態宣言」求め各地でデモ
環境問題に対する非常事態宣言を政府に発させるために、スイスの学生たちが立ち上がった。バーゼル・シュタット準州をモデルに、各州で適切な措置が取られるよう叫びをあげる。彼らを突き動かすのは、気候は銀行のように破綻したら救済できるものではないとの危機意識だ。
「もうバカンスでチリには旅行しない。バナナを食べない。ドライブしない。飛行機に乗らない。国産の肉を食べるのは1週間に1度に制限する」。これはスイス西部ヴォー州で州参事に立候補するイヴァン・リシャルデ氏が掲げる公約だ。
リシャルデ氏は政治家ではなく、芸人兼舞台俳優だ。ブログ外部リンクで発表したこれらの公約は冗談だというが、そこに込めたメッセージは真剣そのものだ。気候変動に対し非常事態を宣言する緊急性だ。
リシャルデ氏と同様に、スイスで数千人が役人たちに対し、気候変動は喫緊に取り組むべき一つの危機と認識するよう求めた。この訴えは特に学生たちの共感を呼び、3月15日に大学の授業を欠席し、街に出て声を上げる全国的なストライキ運動につながった。
「気候ストライキ運動」のウェブサイト外部リンクには「スイス政府が気候変動の非常事態宣言をするよう求める」と明記されている。連邦議会はCO2法改正をめぐり「痛々しい議論」を展開していると糾弾する。
バーゼル・シュタット準州の非常事態宣言
学生らの行動は既に一つの成功事例を生んだ。先月20日、バーゼル・シュタット準州の州議会は一つの解決策として、気候変動を最優先事項に認定した。
バーゼルをモデルに、ベルンやジュネーブ、ルツェルン、ザンクト・ガレン、ツーク、チューリヒなど他の州でも気候変動非常事態宣言が提案されている。
気候変動に対する若者の要求は、連邦議会にも支持が広がり始めている。社会民主党のサミラ・マルティ議員は、政府に非常事態宣言を求める動議の提出を計画中だ。緑の党のトレンス・グマス下院議員は緊急質問趣意書を出し、連邦内閣に「若者の叫びに耳を傾ける」よう求めた。
「無意味な」解決策
バーゼル・シュタット準州の参事会(行政府)がとった非常事態宣言は、具体的には何を意味するのだろうか。宣言文によると、「関連するいかなる事業においても、環境にもたらす影響や、生態・社会・経済の持続可能性に配慮する」ことだ。
気候変動への対処として今後とるべき措置は、同州議会は常に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書を指針とする。一方で宣言文は、非常事態宣言が「象徴的に理解されるべき」概念だと明記する。つまり真の非常事態と同じ措置を取る法的根拠にはならないということだ。
反対派はこの拘束的でない性質が宣言を「無意味なもの」にすると指摘する。2019年は総選挙の年で州レベルでも複数の選挙があり、宣言文は政党を若い人々にアピールする可能性があるとみる。
非常事態だったUBS
チューリヒ大学のヨハネス・ライヒ教授(法学)は、「非常事態」は一般大衆が差し迫った危険に直面し、通常の立法手続きでは手遅れになる場合にのみ成立すると話す。気候変動に関しては、法文上の条件を満たさないとみる。
ライヒ教授はニュースサイトnau.chに、スイス最大の銀行UBSを08年金融危機後に救済したのは「法的に見て必要だった。さもなくば銀行は破綻が避けられない状況だったためだ」とコメントした外部リンク。
「連邦政府が銀行を救済するのに、私たちの未来を救う心構えがないことは注目に値する」。若い気候変動活動家ユリア・ホステットラーさんはnau.chにこう語った。ホステットラーさんはゾロトゥルン州での気候変動ストライキを組織している。
スイスの気候は非常事態ではない?
環境法に詳しい弁護士のウルスラ・ブルンナー氏はnau.chの記事で、スイス連邦憲法には非常事態を宣言するための条件が明記されていないと解説する。
いわゆる「非常事態宣言法」が唯一、緊急性の法的な定義を示す。典型的な例は、洪水や嵐による被害などの天災、またはスイス最大の銀行であるUBSの救済だ。
(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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