スイスは暖房用石油の使用率が欧州で最も高い。世界自然保護基金(WWF)は、各州が打ち出した建物の省エネ戦略の失敗が背景にあると指摘する。
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スイスで建物の環境対策は各州が責任を負う。環境問題に関心を抱く若い世代が増えているにもかかわらず、建物が環境や気候に与える負荷を減らす各州の取り組みは不十分だ。建物から排出される二酸化炭素(CO2)は全体の3分の2を占める。
WWFスイスが8月上旬に発表した州の建物のエネルギー効率に関する報告書外部リンクは、州の取り組みを厳しく批判した。「パリ協定に合致するような目標を達成した州は一つもない」と辛口評価が並ぶ。
報告書によると、州自ら策定した省エネのモデル規定外部リンクは、例えば断熱やエネルギー需要の項目がきちんと実施されていない。
暖房分野では、WWFは全ての化石燃料をヒートポンプや太陽光パネルなど環境に優しいものに置き換えるよう求める。だが全建築物の暖房の3分の2を石油かガス(天然ガス)に頼っているスイスにとっては、かなり高いハードルといえる。
Eurofuelの統計外部リンクによると、スイスは石油暖房を使っている建築物の割合が欧州で最も高い。
燃料輸入業者の業界団体AVENERGYスイス外部リンクで広報を務めるマルティン・ストゥッキー氏によると、スイスは1950年代末から1970年代初めにかけて、石炭から石油への移行が進んだ。
「ほぼ全戸に備えられていた石炭用の保管庫は絶好の暖房用ボイラーやタンク置き場になり、石油の急速な普及を促した」とストゥッキー氏はスイスインフォの取材に語った。ガスなど輸送網が必要な燃料は地形上配備するのが難しく、山間部に点々と建つ家に普及するのに長い時間がかかった。
古いボイラーは同じタイプの設備に更新しなければならなかったことも、石油の比率が高い原因の一つだ。「だがそれは新世代の暖房用ボイラーだ。CO2の排出量は3割少なく、環境性の高い石油の窒素や硫黄の排出量はゼロに近い」(ストゥッキー氏)。スイスの石油は1キロワット時の生産コストが最も安い燃料だという。
新しい建物にはヒートポンプ
一方、新築の建物からは、石油がほぼ消滅した。2000年以降、ヒートポンプの割合が急速に高まっている。ストゥッキー氏は「新築の建物の品質は極めて良好だ。エネルギー効率が高く、暖房コストが少なくて済む」と強調する。「数年前から、新築の建物を建てる際に石油は選択肢に入らなくなった。大抵はヒートポンプのような代替策で十分だ」
AVENERGYスイスは、ディーゼル使用を禁止せずとも、技術の進歩に伴い自動的に減るとみる。「石油は再生可能エネルギーを補完するエネルギーとして活躍する。組み合わせる選択肢が多いほど、石油は少なくて済む」(ストゥッキー氏)
石油暖房、一部の州で規制
スイスでは、新しい建物への石油暖房の設置を一律に禁止する全国的な規定はない。ただ一部の州では、エネルギー効率と再生可能エネルギーの利用を促すため、多少厳しい規制が設けられている。
(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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