スイスの視点を10言語で

英語に押されるスイスの少数言語

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四つの言語があるスイスでは、さまざまな言語の共存をめぐり、度々問題が起きている。近年では、ドイツ語圏の教育現場でスイスの言語よりも英語を優先して教えることが多くなっており、フランス語圏やイタリア語圏がそれに反対している。

一見するよりも、この問題は実は根が深い。

 このままでは今後、英語がスイスの日常語となり、国語のフランス語とイタリア語がその分ないがしろにされるかもしれない。そうした危機感は少数言語圏で強く、言語問題をめぐる政治的議論は頻繁に起きている。フランス語やイタリア語を母語とする少数派は、このままいけば国家の土台となる言語間の結びつきが崩壊しかねないと危機感をあらわにする。

 スイスの言語はドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語の四つで、母語をドイツ語とする人の数が多数を占め、次いでフランス語、イタリア語となっている。ロマンシュ語にいたっては、この言語を母語に持つ人はスイスの全人口の1%にも満たない。

 スイスではこれまで、居住地の言語以外の国語を第1外国語として義務教育で教えるという習慣があった。例えば、ドイツ語圏の学校では第1外国語はフランス語かイタリア語、フランス語圏ではドイツ語かイタリア語、という具合だ。

 だが、チューリヒ州は1999年、英語を必修教科とするために、これまで第1外国語だったフランス語を第2外国語へ降格する決定を下した。以来、言語教育をめぐる議論は後を絶たない。

 今日では、ドイツ語圏の17州のうち、フランス語を第1外国語と定める州はバーゼルラント準州、バーゼルシュタット準州、ソロトゥルン州の3州しかない。ほかの州では、英語が優先されている。

経済の後押し

 英語必修化の背景には、経済のグローバル化がある。大企業を中心に、英語を社内公用語としている企業は多い。

 英語が経済全体のスタンダードになりつつあるなか、「経済が英語に完全に支配されるという心配は、今のところしなくてもよい」とフライブルク/フリブール大学多言語研究所のラファエル・ベルテレ教授は話す。理由は、英語の浸透具合は経済分野によってかなり違うからだという。

大学で増える英語

 ベレテレ教授は最近、「ランゲージ・リッチ・ヨーロッパ(LRE)」という国際研究プロジェクトの一環で、スイスの言語状況について調査を行った。その結果、スイスの大学では英語がかなり浸透していることが明らかになった。「特に修士課程や博士課程で英語が多く使われている。だが、そもそもこれが問題であるのかどうかは、個人の判断によるものだ」

 一方、これを問題とみるのは、スイスでの経済言語に関する研究を行ったバーゼル大学のジョルジュ・リューディ教授だ。「言語によって、概念も違えば、人の考え方や解釈の仕方も変わってくる。学問の奥行きを理解するには、母語は非常に重要だ」。そのため、国内での研究を助成するスイス連邦基金(SNF/FNS)は、多言語学の研究を促進している。「英語ができるのは大事だが、ほかの言語をマスターすることも同様に重要だ」

魅力的ではなくなったが、いまだに活力のあるイタリア語

 スイスでは3番目に多く使用されるイタリア語だが、スペイン語などを母語とする移民の増加で、存在感が徐々に薄れてきている。

 イタリア語を話す人がスイスで少なくなっていることの理由の一つに、イタリアからの移民の数が減ってきたことが挙げられる。1960年には、スイスに住む外国人でイタリア語を話す人の割合は54%だったが、2000年には14.8%にまで減少した。

 かつては、その映画や音楽などで世間から大変もてはやされていたイタリア文化だったが、今ではラテンアメリカ文化の方が人気だと、ベルテレ教授は言う。しかし、「地理的にみてもイタリア語圏がスイスから消えることはないだろう。消滅するにはイタリア語圏の活力は大き過ぎる」。

競争力を強める多言語社会

 スイスには四つの言語があるうえ、そのほかの言語を母語とする移民が多く共存している。こうした多様性とうまく向き合うことで、国全体で団結力が増し、国は一層栄えるはずだ。そのためには、多言語の共存を保証する政策を遂行しようという意志が欠かせない。

2000年の国税調査によれば、スイスの全人口でドイツ語を母語とする人の割合は63.7%で、フランス語は20.4%、イタリア語は6.5%、ロマンシュ語は0.5%、そのほかは9%だった。

この研究プロジェクトではスイスを含むヨーロッパの18カ国を対象に、公用語や外国語、少数民族および移民が使用する言語に関して、各国の言語政策とその実施の様子を比較調査する。

全教育課程での言語教育状況を調査するほか、メディアや企業、官公庁、公共機関での言語使用状況、さらに公文書やデータバンクを対象に、2011年4月から2012年4月の各国のデータを集積。データ分析後、結果を公表する予定だ。

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