薬局で一定の規制下で違法薬物の大麻を販売した場合の効果を調べるベルン大学の研究について、連邦内務省保健局がストップをかけた。同局は、現行法ではこうした研究を認可できないとしている。
このコンテンツが公開されたのは、
今年5月、ベルン大社会予防医学・臨床試験研究所の研究者が、薬局で一定の規制の下、個人使用目的の大麻の販売を解禁した場合の影響を調べる研究について、同局に認可を申請していた。研究は、首都ベルンの大麻の闇市場も調査対象にしていた。
これに対し、同局は14日付の文書外部リンクで「現行法制下では、医療目的以外の大麻の利用は認められていない」との理由で申請を却下。「このような研究が許可されるためには、研究目的を認める特別法規を追加しなければならない可能性がある」とした。
同局は、保健行政の観点から「こうしたプロジェクトは、社会が大麻への新たなアプローチを模索する」意義があったとして、即座に却下するには至らなかったと釈明した。
文書では「そのため、原則的には新たな規制の枠組みについて、科学的に分析することが望まれる」と結論付けた。研究所は30日以内であれば異議申し立てができる。
おすすめの記事
おすすめの記事
大麻 再び見直される「禁断の薬」
このコンテンツが公開されたのは、
これまでに数多くの議論を呼び起こしてきた植物、大麻。スイスインフォはマルチメディアを使ったルポルタージュの中で、その効用と限界について探った。
もっと読む 大麻 再び見直される「禁断の薬」
外部リンク
パイオニア的な役割
スイスでは、大麻の栽培、使用、売買は法律で禁止されているが、研究目的や医療用などの場合は、例外と見なされることもある。しかし、18歳以上の人で10グラム以下の大麻を所持していた場合、摘発されれば100フラン(約1万1500円)の罰金が科されるが犯罪歴には残らない。
2008年には、大麻使用の合法化を求めたイニシアチブ(国民発議)が国民投票にかけられたが、3分の2の反対で否決された。それにもかかわらず、最近ではスイス国内において、一定の規制を設けた上での大麻の流通を求める提案が多く挙がっている。
ジュネーブ、チューリヒ、バーゼルなどの都市部はすでに、「大麻クラブ」のような団体の内部で、規定量の大麻使用を解禁した場合の効果を調べる研究を提案済み。ベルン市も、薬局で大麻販売を一部解禁した場合の影響を調べるプロジェクトを立ち上げると発表した。また、違法取引の取り締まりの一環として、大麻市場の規制作りを呼びかけている。
一方、スイスでは最近、合法大麻ビジネスがブームだ。スイスは2011年の新麻薬取締法施行で、精神作用物質テトラヒドロカンナビノール(THC)の含有量を1%未満に抑えた大麻の売買・使用が認められた。また、最近ではヘンプライト、カンナビスCBDと呼ばれる合成大麻も流通している。CBD(カンナビジオール)は大麻に含まれる成分カンナビノイドの一つで、THCのような精神作用がないのが特徴。飲料から化粧品までさまざまな合法大麻の商品が出回っている。
スイスは違法薬物問題について、常に他国に先駆けた政策を打ち出してきた。1986年には薬物中毒者のためのシェルターを初めて開設し、94年には中毒者にヘロインを処方する政策を始めた。
過去25年間、スイスは予防、セラピー、健康被害の軽減、抑制の四つの方面からこの問題に取り組んできた。この四つのアプローチは80~90年代にかけて、チューリヒ市内で蔓延していた違法薬物問題が発端になっている。91年にこの政策が導入されたときは批判を呼んだが、その後、他国も同様の政策を一部取り入れている。
(英語からの翻訳・宇田薫)
続きを読む
おすすめの記事
合法大麻がスイスでブーム 1億円ビジネスの裏側は
このコンテンツが公開されたのは、
カフェインレスコーヒーやノンアルコールビールがあるように、近年、スイスの店舗やキヨスクでは、精神作用物質を多く含まない大麻「ヘンプライト」や「カンナビスCBD」が合法的に販売されている。生産者の男性が、100万フラン(約1億1千万円)を生むビジネスの裏側をスイスインフォに明かした。
もっと読む 合法大麻がスイスでブーム 1億円ビジネスの裏側は
おすすめの記事
新大麻取締法の施行に割れる反応
このコンテンツが公開されたのは、
甘い香りのする濃い煙がくるくるとらせんを描きながらゆっくりと上っていく。ここはジュネーブ駅からほど近い一角、壁で四方をぐるりと囲まれたレ・グロット(Les Grottes)と呼ばれる地区の中だ。 「もちろん、これはい…
もっと読む 新大麻取締法の施行に割れる反応
おすすめの記事
新しい麻薬政策を探る
このコンテンツが公開されたのは、
こうした状況を受け、南米の政治家を中心に新しい対策を探る薬物政策国際委員会外部リンクがジュネーブで立ち上げられ、1月24日、25日の2日間にわたり討議が行われた。 メキシコで1万5200人の死者 この委員会はブラジルの…
もっと読む 新しい麻薬政策を探る
おすすめの記事
青少年の3人に1人が賭けごと
このコンテンツが公開されたのは、
これは8月10日にローザンヌ大学が発表した研究結果だ。研究者たちは、この結果を健康予防の参考にして欲しいと考えている。 精神病のリスク 専門誌「スイス・メディカル・ウィークリー ( Swiss Medical Week…
もっと読む 青少年の3人に1人が賭けごと
おすすめの記事
大麻の非合法栽培に反撃
このコンテンツが公開されたのは、
これを怠ると、収穫は差し押さえられ処分される可能性もある。 立証の負担が逆に 何事においても量が肝心。それは大麻も同じだ。大麻は何千年も前から知られている有用植物であり、薬草でもある。スイスでは1951年に制定された麻…
もっと読む 大麻の非合法栽培に反撃
おすすめの記事
「われわれの麻薬検査はサービスではない」
このコンテンツが公開されたのは、
「検査を希望して来る人の特徴など無い」とセンターの青年アドバイザー、ドナルド・ガンチ氏は言う。「麻薬に侵されているらしいと思われる人もいれば、自分を完全にコントロールしているらしい人も来る」 隠れた麻薬消費状況を知るため…
もっと読む 「われわれの麻薬検査はサービスではない」
おすすめの記事
記録的な麻薬の密輸
このコンテンツが公開されたのは、
押収されたのは麻薬だけではない。食品や飲み物の違法持ち込みも多く、昨年はおよそ210トンを没収。うち83トンは食肉だった。 すべての分野で 2007年のヘロインの押収量は前年比の3倍以上。東スイスの税関で一度に150キ…
もっと読む 記録的な麻薬の密輸
おすすめの記事
麻薬撲滅は幻想、東南アジアでも麻薬政策の転換進む
このコンテンツが公開されたのは、
「タイとミャンマーは、麻薬使用者の健康問題を重視する新たな麻薬政策に門戸を開き始めた。これまで麻薬に対して厳罰主義を貫いてきた両国にとっては、注目すべき進展だ」。国際NGO薬物政策国際委員会の議長を務めるルート・ドライフス元スイス大統領は、東南アジア訪問を終えて、そう語る。
ドライフス氏は、薬物政策国際委員会の議長を2016年から務める。「1971年にニクソン米大統領(当時)の主導で始まった国際的な『麻薬戦争』は、麻薬の不正取引拡大と薬物使用の増加を招いて完全な失敗に終わった」とする報告をもって、同委員会は11年に世界的指導者や有識者によって設立された。
その発足以来、各国では麻薬対策で様々な動きがあった。今回タイ、ミャンマー訪問を終えたばかりのドライフス氏が、東南アジアの麻薬政策動向を語った。
スイスインフォ: タイ、ミャンマー両政府はどの程度まで踏み込んだ麻薬政策の改革を考えていますか?
ルート・ドライフス: 両国では、薬物使用者の間で注射器の共有によるHIVやC型肝炎の感染が広がっており、政府に保健政策を向上させようという意欲が見られる。感染の予防対策として薬物使用者に清潔な注射針を配布したり、社会復帰を促すための出会いや相談の場が設けられたりしている。重症の中毒患者にはメタドン服用治療も始まっている。両国は特に、効果が見られない上に人の品位をおとしめてきたこれまでの厳罰主義を改めようと考えている。
薬物所持・使用への刑罰が厳しすぎると認識されるようになり、タイ、ミャンマーでは、今では麻薬類の所持・使用の罪で死刑は執行されていない。死刑になる犯罪の種類を減らそうという試みもある。また、超過密で犯罪の学校と化している刑務所の現状にも目が向けられるようになった。収監を減らすためにも、刑罰の軽減が検討されることになった。
それから両国は新たな麻薬政策を進めるため、まずキャンペーンなどを通して国民に広く情報が行き渡るよう努めている。50年近く続いてきた、これまでの傲慢で強硬な麻薬禁止政策に慣れた人々が、政府の新しい方針を理解できているとは限らないからだ。
01~06年の間にタイでは、現在フィリピンのドゥテルテ大統領がしているような「麻薬戦争」が繰り広げられていたことを思い出してほしい。裁判を受けることなく警察に殺害された人が数千人にも上った。だが麻薬取引も消費量も減ることはなく、反対に増加の一途をたどった。政府もそれを認めないわけにはいかなかった。
スイスインフォ: 東南アジア諸国連合(ASEAN)の他の国もタイやミャンマーに追随する可能性がありますか?
ドライフス: そもそも、麻薬のない社会を実現することは可能なのだろうか?麻薬撲滅という目標は、スイスの薬物法に今でも記されている。あらゆる薬物から解放された国を目指すASEAN諸国にとっても、麻薬のない社会は目標だ。だが、それを実現できるといまだに信じることができるのだろうか?
私が訪問してきた国々は、麻薬の存在しない社会の実現など幻想にすぎないと理解し始めている。人間は常に、精神を活性する向精神物質に惹かれてきた。気分を良くしたり苦痛を軽減したり、その人の世界観や認識を変えたりする物質に手を出す人を、いったい何の権利があって処罰できるのか?アルコールやたばこ、チョコレートやコーヒー、あるいは医薬品のように精神的な作用を持ちながらも、文化的に受け入れられているものもあるというのに。
人間には向精神物質が必要ないなどという幻想を、どうして国家の暴力で追求しようとするのか?一体なぜ向精神物質の一部は容認されて、その他は生産や所持が規制され、禁止されるのか?
違法薬物を規制する国際協定は、各国がそれぞれの問題に合った対策を立てたり、薬物使用者を処罰しない自由を認めるほか、違法に禁止薬物を入手する人たちにも手を差し伸べる公衆衛生対策を、批准国に対して認めている。だが一方で、合法の向精神物質と同じように、麻薬や薬物の製造や市場を国が管理することを認めてはいない。
スイスインフォ: タイやミャンマーに見られる麻薬政策の転換は、今後他国にも広まると思いますか?
ドライフス: この動きは国際的なものだ。中国やイランのように極端に抑圧された国でも、薬物中毒患者への代替療法や感染症の予防対策などが発達してきた。
一方で、フィリピンのように後退している国もある。日本やロシアのように強硬に禁止の立場をとる国もある。特にロシアは、情け容赦ない麻薬禁止政策をとり続けており、国民に悲惨な影響が出ている。(薬物使用による)HIV感染が拡大している唯一の国でもある。また刑務所内を始めとして、抗生剤のきかない結核症が広まっている。弾圧的な麻薬政策のせいで、薬物を取り巻く環境が非常にリスクの高い闇の中へと追いやられてしまっているからだ。
そうとは言え、多くの国は新しい麻薬政策を模索している。
スイスインフォ: スイスは麻薬政策において、長い間パイオニア的な存在でしたが、今はどうですか?
ドライフス: スイスは、エイズの拡大と薬物乱用の問題に直面して、革新的な麻薬政策に切り替えた。今では多くの国がスイスと同じような政策をとっている。
スイスは効果的に公衆衛生政策を発展させてきたが、今後もさらにその対策と措置を充実させ、必要とする全ての人が衛生サービスを利用できるようにしなければならない。また、新たなリスクを持つ合成麻薬も対策の対象に入れる必要がある。
一方でスイスは、麻薬市場の規制と、麻薬を非犯罪化する点では遅れをとった。麻薬使用に罰金を科すだけにしても、十分な非犯罪化とは言えない。
それから、世界では弾圧的な麻薬取締りは常に恣意的に行われており、とりわけ貧困層や貧しい地域、マイノリティーがその標的になっているということを忘れてはならない。法が恣意的に適用されているようならば、法律を変える必要もある。
だがスイスは、(薬物使用者の)健康と安全や(薬物使用に対する)罰則の均衡にばかり注意しすぎていて、そのような問題が埋もれている。麻薬政策にもっと劇的な改革を求める政治的圧力もいつの間にか消え、政策の見直しを求めるイニシアチブ(国民発議)も国民投票で否決されてきた。そういうこともあり、政党はこの問題を再び議論に持ち出そうとしなくなっている。
それでも、大麻の栽培や市場は(禁止ではなく)管理・規制されるべきであり、禁止は効果がなく無意味だという判断は、国民にとっても多くの点で十分な利点があると考えている。薬物政策国際委員会(Global Commission on Drug Policy)の五つの優先事項
過酷で有害な処罰を伴う禁止政策よりも人々の健康と安全を優先させる。
モルヒネのように合法・違法の両方で使用される薬物を入手可能にする。このような薬物は部分的に使用が禁止されていることから入手が困難になっており、そのために無駄な苦痛を強いられている人たちを救うのが目的。
薬物所持・使用を非犯罪化する。そうすれば刑務所の過密問題も解消できる。
非暴力的でマイナーな薬物使用者ではなく、麻薬密売と組織犯罪の取り締まりを強化する。
タバコやアルコール、医薬品がそうであるように、麻薬市場を規制し政府の管理下に置く。
もっと読む 麻薬撲滅は幻想、東南アジアでも麻薬政策の転換進む
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。