在外スイス人男性で最高齢のルドルフ・ブクセルさんが2月、米国ミシガン州で死去した。110歳だった。ブクセルさんは帝政ロシアのスイス人集落で生まれ、晩年は米国で質素な生活を送った。
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ブクセルさんのルーツは、スイス・フランス語圏の町、ヴォー州ロメインモティエールにある。ブクセルさんは、帝政ロシア最後の皇帝ニコライ2世の時代に、同国領土内(現ウクライナ)のスイス人集落シャバで生まれた。この集落にはブクセルさんの先祖の一人ジャック・フランソワ・ブクセルさんが、妻と6人の子供と移住していた。
集落は1822年、スイスの植物学者ルイ・ヴィンセント・タルデントによって作られた。120年続いたこの集落で、居住者はみなスイスのパスポートを持ち続けた。ブクセルさんも同様だった。
10人きょうだいの末っ子として、ブクセルさんはこの集落で快適な生活を送った。父親は50ヘクタールのブドウ畑と130ヘクタールの耕地を所有していた。だが第二次世界大戦中の1940年6月28日、ソビエト勢の到着によって土地と財産を失い、ドイツの強制収容所に送られ、そこで5年間過ごした。戦後はスイスのローザンヌに移った。
1950年、ブクセルさんは、ウルグアイに移住しようと決めた。同国西部リオ・ネグロの川岸でブドウを栽培するためだった。ブクセルさんは当時の心境を「共産主義者とスターリンがスイスを侵略してくるのではないかと不安だった」と語った。
米国で「外国人」として暮らす
ブクセルさんは70代で米国に渡った。 6カ国語が話せるのに、米国暮らしが37年を超えてもなお、英語は勉強しなかった。「ここに来たのは73歳だった。今さら7カ国語目なんて!」
ブクセルさんはミシガン湖のほとり、シカゴから車で1時間ほどのバロダで、109歳まで木造家屋に一人で暮らした。自分で身支度を整え、ご飯を作り、ベッドも整えた。買い物は娘が手伝った。だが晩年の2年間は体が弱り、高齢者施設に移った。ブクセルさんは一日の大半を椅子に座って過ごした。
娘のエリカさんは「父はよく寝ていたけれど、頭ははっきりしていた。死ぬ直前までご飯をきちんと食べていた。ベッドわきのテーブルにはいつもクッキーを置いていて、寝る前につまんでいた。部屋にはテレビがあって、サッカーの試合をよく見ていた」と話した。
ブクセルさんに長寿の秘訣を尋ねると「早寝早起き。午後9時には寝て朝6時に起きる」と話した。
ブクセルさんは質素な生活を送らざるを得なかった。「年金額は1400ドル(約15万円)。スイスだったら餓死しているだろう」
ブクセルさんは2月26日、110歳と174日で死去した。
在外スイス人の最高齢者は今年1月に111歳になったアリス・シャウフェルベルガーさん外部リンク。
(英語からの翻訳・宇田薫)
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