スイスの広告は何でもエーデルワイスの模様入りだ。だが実際に山でこのふわふわの白い花に出会うのは珍しくなった。
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他人の立場や見方への理解を深めるため、米ボストンでジャーナリズムを学ぶ。執筆活動以外は、ポッドキャストや動画のナレーションおよび制作に携わる。
Susan Misicka and Ester Unterfinger
乾燥した冷たい空気と強い紫外線にさらされるアルプスの高原。そんな過酷な気候にエーデルワイスが耐えられるのは、花びら(正確には包葉)に付いている毛のおかげだ。エーデルワイスは古くから薬や化粧品として利用されてきた。またこの花は登山、軍隊、観光の分野でよく使われるシンボルでもある。
エーデルワイスはキク科ウスユキソウ属に分類される。ヒマラヤ山脈や中国、シベリアにも自生する。エーデルワイスは「高貴な白」という意味だが、ラテン語の学名「レオントポディウム・アルピヌム」は「ライオンの足」を意味し、むしろ無骨な感じがする。しかしこの花のファンの心ない採集のせいで、スイスでは絶滅の危機にまで追い込まれた。これを受け、1970年代以降、エーデルワイスはスイス全土で保護指定された。
アルプスの聖歌
ミュージカル映画「サウンド・オブ・ミュージック」を見た人なら、カナダ人俳優クリストファー・プラマーが演じるゲオルク・フォン・トラップ大佐がギター片手にこの可憐な花の歌を歌うシーンが思い浮かぶだろう。
エーデルワイス エーデルワイス
やさしい花よ
けがれ知らぬ 清らかな花
白い雪の中に 永久(とわ)の命
エーデルワイス エーデルワイス
ふるさとの花
トラップ大佐は実在の人物で、ナチス・ドイツ併合時代のオーストリアで生まれた(エーデルワイスはオーストリアの国花でもある)。映画では、彼の家族がヒトラー政権を逃れるためアルプスを越えてスイスへ亡命する様子が描かれている。実際は、「トラップ室内聖歌隊」として活躍していた彼らはコンサートのスケジュールを口実に、イタリア経由でスイスに入国。その後、米国のバーモント州に移住した。
開花時期:7月~8月
大きさ・高さ:5~30センチ
生息地:海抜1700~3400メートルの高山帯の石灰岩地を好む
種の保全状況:生息地であるスイスの15州で保護指定されている
(英語からの翻訳・シュミット一恵)
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甘くておいしい、スイスアルプスの青い果実
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スイスの山々では毎年5月から6月にかけて、野生のセイヨウスノキが花を咲かせる。その果実であるビルベリーは甘みがあり、鳥、キツネ、クマたちの大好物だ。
7月から8月に果実が成熟したあと、秋には見事な深紅色の葉をつける。商業目的で栽培されるものとは異なり、自生した果実の果汁は指や唇を青く染めるのが特徴的だ。野生種は鉄分、ポリフェノールの一種であるタンニン、そしてビタミンをより多く含有している。
生育に最も適しているのは酸性の砂質土壌で、樹は30~60センチの高さになる。森林や山の高木のない場所に生息し、ビルベリーはハイカーたちのおやつとして人気だ。ただ、キツネやライチョウなどの野生動物が食料としているため、自然保護区域内での収穫は禁止されている。
ヒグマもまた、ビルベリーを食べる。スイス人で野生動物の研究者、マリオ・テウスさんは2007年と08年、ゴミなどを漁ることから「問題クマ」グループにカテゴライズされていたクマ「JJ3」を調査。後日、日刊紙ブントに対しこう語った。「ある日、私はJJ3がゆったりと果実を摘み取っているのを見た。クマを敵対視する猟師の友人を私の観測ポイントに連れていき、その様子を見せたところ、友人は衝撃を受けていた。この一件で、彼のクマに対する見方が根底から覆えされた。JJ3は凶暴な野獣ではなく、アルプスに暮らす温和なヒグマとして彼の目に映ったのだ」。
それにも関わらず当局は2008年、JJ3の射殺を決定。環境保護活動家たちから批判を受けた。
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スイスで広く知られるアルプスのバラ、アルペンローゼ
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スイスの名曲のタイトルにもなっているアルペンローゼ。ドイツ語で「アルプスのバラ」を意味するツツジ科の植物だ。ピンクがかった赤色の花がこの時期、アルプス山脈を彩っている。
ジュラ地方やアルプス山脈の高原地帯に生育する常緑性の低木、アルペンローゼは1mほどの高さで、6~8月にかけて花を咲かせる。アルペンローゼのなかでも葉の裏側に鉄錆のような赤茶色の斑点が見られる種は、その特徴からロードデンドロン・フェルギネウム(Rhododendron ferrugineum)の学名が付けられた。
また同じアルペンローゼでも、比較的珍しいヒルスツム種(Rhododendron hirsutum)はたくさんの繊毛に覆われる。高原の森やその周辺、石灰岩の隙間に生育し、5~7月にかけて細長い花を咲かせる。
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