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スイスの気候変動対策に人権侵害判決「エコロジー思想にとってはオウンゴール」

スイスの不十分な気候変動対策は人権侵害だとする欧州人権裁判所の判決は、各国メディアの注目を集めた
スイスの不十分な気候変動対策は人権侵害だとする欧州人権裁判所の判決は、各国メディアの注目を集めた KEYSTONE/© KEYSTONE / JEAN-CHRISTOPHE BOTT

スイスの不十分な気候変動対策が人権侵害に当たるとする欧州人権裁判所(ECHR)の判決に対し、スイス政界の反応は分かれた。政治学者のマーク・ビュールマン氏は、判決が保守系右派に有利に利用される可能性があると指摘する。

保守系右派の最大与党・国民党(SVP/UDC)は9日の声明で「ECHRの判決は到底受け入れられない」と強く反発した。「外国人裁判官による干渉」と糾弾し、スイスは欧州評議会から脱退すべきだと要求した。

一方、左派政党は原告のスイスの市民団体「環境を守るシニア女性の会(スイス気候シニア)」の勝利を歓迎した。緑の党(GPS/Les Verts)のリザ・マッツォーネ党首は「(気候変動に関する)パリ協定に並ぶ重要な歴史的勝利」と評し、社会民主党(SD/DS)は「連邦内閣とその気候変動対策の不作為に対する平手打ち」と述べた。

この判決がスイスの気候変動対策にどう影響するかはまだ不明だが、政治プラットフォーム「スイス・ポリティカル・イヤー(Année politique suisse)」のディレクターを務めるビュールマン氏は、今後の政治的議論を活性化する材料になるとみる。

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swissinfo.ch:左派政党はECHRの判決を歓迎していますが、右派は何も変わらないと考えています。あなたの意見は?

マーク・ビュールマン:これは今に始まった議論ではありません。国民党は以前から、国内法は国際法に勝ると主張していました。この原則をスイス連邦憲法に明記することを求めた2018年の「国内法優位イニシアチブ(国民発議)」でも、同じ議論が起きました。

ECHRはスイスに何かを強制するつもりはありませんが、それでも重要な役割を担っています。この判決はスイスの政策に影響を与えるでしょう。

今回の判決が実際に気候変動対策の前進につながると期待できますか?

この判決は地球温暖化を巡る政治的議論に一石を投じます。左派は確実に、この判決を論拠に対策を前に進めようとするでしょう。ですが10~15年後、ECHRの判決が実際にスイスの気候変動政策に影響を与えたのか、それとも、いずれにせよ何らかの決定がなされていたのかを判断するのは難しいでしょう。

政治プラットフォーム「スイス・ポリティカル・イヤー」のディレクターを務めるベルン大学のマーク・ビュールマン教授
政治プラットフォーム「スイス・ポリティカル・イヤー」のディレクターを務めるベルン大学のマーク・ビュールマン教授 SRF

スイスの気候変動対策は国民投票で民主的に承認されたものです。そこにECHRが介入するのは問題だと考えますか?

いいえ、そうは思いません。ECHRの判事たちはスイスにこの問題をどう解決すべきか指示しているわけではありません。ECHRは国内政治には介入しません。政治的解決策を見出していくのは、スイス政府です。右派も左派も、今回の判決で急に立場を変えることはなく、ゆえに気候政策を巡った議論は続いていきます。ですがこの判決が出たことで新たな論点が示され、議論はさらに活発になるでしょう。

スイスの対策不足が人権侵害と認められた一方、ECHRは同日、フランスとポルトガルに対する同様の訴えを却下しています。これをどう理解しますか?

政治的側面からの解釈はできません。判事は政治的判断はしません。それぞれの訴えが法的に受理可能か否かを判断したのです。

国民党はECHRの判決に強く反発し、スイスの欧州評議会脱退を求めています。現実的な提案ですか?

いいえ、政治的に大半の支持を得られるとは思いません。この提案は国民党が国内法優位イニシアチブで求めていたことでもあるのです。国民党は国際法よりスイスの国内法を優先させるため、国際協定の破棄を望んでいましたが、国民の3分の1の賛成すら得られませんでした。今ならもっと多くの支持が得られるでしょうが、長くは続かないでしょう。

ですが保守系右派は今後、これまでやり玉に挙げてきた「外国人裁判官による干渉」の具体例として、今回のECHRの判決を持ち出してくるでしょう。判決は国民党に有利に働くのでは?

その可能性はあります。国民党はあらゆる出来事を党の政治思想と結び付けるのに長けていますから。この判決は、エコロジー思想にとってオウンゴール(自殺点)になりかねません。再生可能エネルギーの推進を目指したエネルギー法改正案が6月9日の国民投票にかけられますが、保守右派は間違いなくこの判決を盾に反対キャンペーンを繰り広げてきます。外国に何かを強制されないためには、スイス国民が声を上げる必要があると主張してくるでしょう。法改正に反対したくなる人が出てくる可能性はあります。

それがスイスと欧州連合(EU)間の新たな障害になる危険性は?

間違いなく国民党は、ECHRの判決をスイスの国内問題に対する外国干渉の例として使っていくでしょう。ですが左派もこの判決を利用して、スイスが人権を尊重するには、時として外部の援助が必要だと主張することもできます。

どちらが支持を集めそうでしょうか?

それは今後の国民投票と選挙で明らかになります。今回の判決を肯定的、あるいは否定的なシンボルとしてどう使っていくかは政治的手腕の問題です。どちらが上手く立ち回るかは、これから分かることです。それでも、国民党の反発がメディアで大きく取り上げられていることもあり、今のところ国民党が有利に利用できている感があります。

編集:Samuel Jaberg、仏語からの翻訳:由比かおり、校正:宇田薫

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