携帯電話で投票 世界初の試み
ジュネーブ州、ヌーシャテル州に続く実験的な電子投票プロジェクトの一環として今度はチューリヒ州のビューラッハ市(Bülach)で10月30日に世界で初めて住民投票が携帯電話ショートメッセージ(SMS)でされる。
直接民主主義の発達しているスイスでは年間の投票数が多い。そこで、スイスでは電子投票の実現の可能性を計るために様々な試みがなされている。その先駆的プロジェクトの一つがSMS投票だ。
旅行中でも携帯電話から「貴重な一票を」投票できる日も近い。10月30日にビューラッハ市で行なわれる住民投票では前もって申し込んだ1万6700人の有権者が自宅のコンピューターからインターネットを通して、または携帯電話のSMSを使って投票できる。
どうやって投票するのか?
「匿名性は保障されています」と自信をもって語るのは連邦当局の電子投票プロジェクトの責任者、ダニエル・ブランドリ氏。SMS投票したい人はまず、郵送でパンフレット、投票用紙、投票カードを受け取る。この投票カードに個人番号に当たる暗証番号が入っているところまではこれまで実施された遠隔インターネット投票と同じ。
SMSで投票したい人はアクセスコード、投票したい回答(賛成、反対、白紙それぞれ番号化されている)の番号を入れてからアクセス番号にSMSメッセージを送る。すると、本人確認のために返信で生年月日を聞かれる。この質問に答えられれば、投票確認のメッセージが戻ってきて投票完了だ。
「非民主的」との声も
ブランドリ氏は「安全性の問題では遠隔インターネット投票も同じだが、有権者にとってはSMSで投票するほうが複雑だ」と話す。答えを数字化して送るため、他人から読まれる可能性が低いが操作を間違えやすいという。
SMS投票も含めた電子投票に反対する協会ヴァッハ(Wa-ch)のベアート・フェア氏は「安全性も一つの問題だが、民主主義のあり方という点で反対です。今までは投票する人、開票する人は同じ市民でした。しかし、電子投票導入によって開票する人は一部のコンピューター技術者のみとなるのが危険だ」とも言う。
フェア氏が最も電子投票に反対する理由の一つに「電子投票では再カウントできない」という点を挙げている。「米国の電子投票でみられるように一番の問題は電子投票機や開票が民間の企業に委託されていることとだ」と言う。
2000年から2005年にかけて3つの州で行なわれた先駆的電子投票プロジェクトの総費用は600万フラン(約5億300万円)。今後、全国の電子投票導入にかかる費用は10年間で4億〜6億フラン(約355億〜530億円)と発表している。しかし、連邦政府は実際にはこの数字の半分しかかからないと主張している。
サービスの一環としての電子投票
前出のブランドリ氏は今回のSMS投票の目標は「電子(electronic)技術による遠隔投票をどこまでできるかを模索すること」という。携帯はインターネットよりもさらに普及率が高い。「25歳から35歳までの人は90%、65歳以上でも60%が携帯を所持している今の時代、インターネットよりも民主的と言えます。将来的には外国に住むスイス人の利用も考えられる」と夢を膨らませる。今回のSMS投票の送信料金は政府もちだが、外国から掛ける人は自腹で払わなければならない。
なお、スイスでは選挙の際、70%近くの人が郵送投票を行なっている。このため、電子投票も投票所へ足を運ばなくて済み、特定の投票機からでない遠隔インターネット投票(Remote Internet Voting)への方向を模索しているところが日本と違う。
導入までにはまだ遠い
チューリッヒ州では来月、11月27日に行なわれる国民投票ではSMS投票を含む電子投票がさらに3市に拡大されて行なわれる予定だ。また、ヌーシャテル州でも同じく4000人の有権者が電子投票を行なう。同時に二つの場所で試験的に電子投票が行なわれるのはこれが初めて。
これらのプロジェクトが成功に終われば、2006年の中旬には内閣が意見書を出し、2007年にも議会で電子投票の本核的な導入の是非が議論されることになる。連邦政府が法的手続きを整えたとしても、各州が国民投票の電子化を導入するまでには早くても2008年から2010年まで待たなければならないという見通しだ。
swissinfo、 屋山明乃(ややまあけの)
<スイスでの電子投票プロジェクト>
– スイスでこれまで行なわれた電子投票は日本と違い、特定の電子投票機からではなく、どんなコンピューターからでも投票をできる遠隔インターネット投票(Remote Internet Voting)を試みている。
– ジュネーブ州で2003年から2004年にかけて、いくつかの市で電子投票による住民投票が行なわれた後、2004年11月に連邦レベルの電子投票による国民投票を4つの市で実施した。
– ヌーシャテル州では2005年9月25日に行なわれた1178人の選挙人による電子投票での住民投票が成功を収めたため、11月27日には連邦レベルの議題での電子投票が試される予定。
– 10月30日のビューラッハ市の住民投票がうまくいけば、11月27日に行なわれる国民投票で、3市(Bülach, Bertschikon, Schlieren)の1万6700人の有権者がインターネット投票またはSMS投票ができる。
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