日本的ビジネスのすすめ
今年の2月に調印された日本との経済連携協定で、スイス企業は日本市場におけるビジネスチャンスの促進を期待している。しかし、新規参入者が力を伸ばすためにはまず日本という特殊市場に精通する必要がある。
日本の消費者とビジネス環境は利益を生む取引を提供しうるが、不用心な西洋人にとっては地雷にもなりうる。「ノキア ( Nokia ) 」や「イケア ( IKEA ) 」のような国際的な大企業でさえ市場の下調べに失敗してつまずいている。
日本との共通点
チューリヒに基盤を置く貿易会社「DKSH社」は、「日出る国」でしてはならないこと、そしてするべきことについて他社をしのぐ知識を持っている。同社の前身が日本にルーツを確立したのは約150年も前だ。
「一般的に信じられている説とは異なり、日本市場は非常にオープンで受容的です。しかしルールを知る必要があります」
とDKSHジャパンの社長ヴォルフガング・シャンツェンバッハ氏は指摘するが、競争相手と比較してスイス企業は優勢を維持しているとも主張する。
「『メイド・イン・スイス』が表す確実な価値、信頼性と良質のサービスも日本市場に以前から存在するものです。従って基本的な事項に関しては、両国の相互理解は容易に行えます」
とシャンツェンバッハ氏は説明する。
「ノミニケーション」
先月チューリヒで開催されたジャパン・ビジネスセミナーに参加したスイス企業は、日本の礼儀作法、日本人スタッフ、プレゼンテーションや販売後のアフターケアサービスなどの軽視または無視という危険を冒さないよう注意を受けた。
このセミナーを主催した「ビジネス・ネットワーク・スイス ( Osec ) 」は、日本という世界に類を見ない市場に対して適切な事前調査を行うようアドバイスを授けた。シャンツェンバッハ氏はこの点について特に賛同している。
「日本に何を持ちこもうとしても、すでにその製品の製造業者が数社は必ずいます。日本市場は高度に洗練されていますから、既存の製品を成功させるためには、それに何を付加することができるか確実に理解している必要があります。スイス企業の多くがこの点を甘く見ています」
日本市場の特性を表すもう1つの言葉は「忍耐」、すなわち顧客と直接会って何回も行うミーティングのことだ。 日本ではこれを、英語の「コミュニケーション」と日本語の「飲む」を組み合わせた造語、「ノミニケーション」と呼んでいる。
ノミニケーションは、取引の詳細を話し合う前に、信頼を深めて人脈を作るための高度に洗練された技だ。
自由貿易・経済連携協定の恩恵
ユニークな自社製品のプレゼンテーションもまた慎重に行わなければならないとシャンツェンバッハ氏は言う。日本の大衆は新しいものが大好きだが、自分たちが購入した製品に対して個人的なつながりを感じることが必要なようだ。
「日本の顧客は、一旦自分の好きなブランドを発見したら、そのブランドに対して非常に忠実です。しかしそのような忠実な顧客を得るためには、しっかりした市場調査、宣伝、販売促進が必要です」
とシャンツェンバッハ氏は解説する。
近年スイスの対日輸出が急成長しているという事実は、スイス企業が正しい方法でビジネス活動を行っているということだ。去る2月に調印され、9月1日に発効となった日本との自由貿易・経済連携協定 ( FTEPA ) によって、関税が削減され有利な規制が施行されるようになった。その結果、日本市場においてビジネスを展開するスイス企業が一層増加すると期待される。
関税の税率は以前から低かったものも多かったため、この協定は短期的な税制面での恩恵というよりは、もっと象徴的な意味を持つとシャンツェンバッハ氏は考えている。
経済不況で何年も苦しんできた日本の消費者は、新しい傾向にあると同氏は言う。
「外食も衣服もより安いものを求める傾向にあります。消費者はよく考えてからお金を使っています。生産者は、ユニークで付加価値のある自社ブランドを売る方法を見つけることができるよう賢明でなければなりません」
FTEPAの施行の開始に伴い、スイスのビジネスを促進するため、ドリス・ロイタルド経済相が10月4日から4日間日本を訪問した。
マシュー・アレン、東京にて swissinfo.ch
( 英語からの翻訳、 笠原浩美 )
2008年のスイスの対日輸出は、合計70億フラン強 ( 約 6050億円 ) で4.9%の増加。
スイスにとって日本は、欧州連合とアメリカに次ぐ第3位の貿易相手国。
主要な対日輸出品は機械、精密機器、化学製品、医薬品、特に時計などの消費財。
日本からの輸入は、主に貴金属、車、電気製品、機械など、合計約41億フラン ( 約3540億円 ) で18.2%の増加 。しかしこれらの数字には、ヨーロッパで製造された日本製品は含まれていない。
日本で直接ビジネスを行っているスイス企業は約140社。2005年10月時点ではスイスに在住する日本人の数は6887人、一方日本在住のスイス人の数は1406人。
日本におけるDKSH社のルーツは、1863年に貿易使節団の1員として来日した当時24歳の商人カスパー・ブレンワルドにさかのぼる。
ブレンワルドは瑞日友好通商条約での役割を果たした後、パートナーのヘルマン・シイベルと共に横浜に「シイベル&ブレンワルド ( Siber & Brennwald ) 」社を設立した。
同社はスイスの布地、刺繍製品、時計を日本へ輸入し、後に日本からは絹の輸出を手掛けた。
1909年に同社はその名称を「シイベルヘグナー ( SiberHegner ) 」に変更し、後に 「日本シイベルヘグナー ( Nihon SiberHegner ) 」と改めた。同社はアジアでの貿易ネットワークを築き、幅広い商品を取り扱った。
2002年、同社はほかのスイス企業、「デイトヘルム・ケラー・サービス・アジア社( Deithelm Keller Services Asia ) 」と合併し、DKSH ホールディング ( DKSH Holding ) となった。今年4月にシイベルへグナーの子会社が名称を改め「DKSHジャパン」となった。
DKSHジャパンは、製薬、化学、機械、消費財、食品、高性能材料、技術など、多分野にわたる世界中の企業が日本で事業を開始・展開する際のサポートを務める。
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