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スイスの干し肉は南米産

薄切りの肉
需要と供給のバランスが崩れ、スイスの伝統的干し肉が南米産の牛肉に征服されつつある Keystone

アルプスの伝統的な干し肉に加工される牛肉の3分の2が、ブラジルとアルゼンチンからの輸入で賄われている。

スイス産の牛肉不足により、スイスの郷土料理としてのアイデンティティーを失うと懸念する業者がいる一方で、国内の牛肉の供給が需要をカバーできないのなら仕方ないと妥協する業者もいて、スイスの精肉加工業者の意見は2つに分かれている。

 19世紀、衛生管理のノウハウが不十分で感染病が多発する一方、アルプスの複雑な気候が現地の住人に衛生管理の知恵を与えた。アルプス地方を照らす太陽と乾燥した空気と風を利用したアルプス特産の干し肉は、肉保存の知恵から生まれたものだ。

情報開示でスイス産を特化する案

 特にグラウビュンデン州産やヴァレー/ヴァリス州産の干し肉は有名だ。しかし、国産牛肉の生産量は、干し肉加工の需要に追いつかず、輸入に頼っている実態は、純スイス産にこだわるスイス人には悲報、グローバリゼーションを支持する人には吉報となっている。今年の干し肉の需要量はおよそ5500トンと見込まれ、その3分の2はブラジル産とアルゼンチン産で賄われるという。

 国産では賄えない状態はいまに始まったことではない。1970年代から、干し肉用牛肉の需要は供給を上回り、輸入肉で賄ってきた。しかし、ヴァレー州の干し肉製造者協会 ( IGP ) の代表者ベアット・エックス氏は「国内産の牛肉が不足しているから輸入する、というのはおかしい」と語る。同協会はスイス特産の干し肉はスイスと強い絆で結ばれているからだと、干し肉の「外国化」には反対で、消費者に向けた情報公開の必要性を訴える。

 「例えば、ヴァレー州の干し肉と表示された干し肉は、スイス産の肉を使っていると明示されていなければならない、といった規制を敷くことです」。また、輸入肉を使っている場合は、包装にヴァレー州の写真や旗を載せることや、さもヴァレー州産であるかのような表示は禁止するよう主張している。純スイス産である干し肉と他の干し肉を区別することこそ、消費者を保護することになるとエックス氏は言う。

 こうした強硬派は来年、ブラジルの主要都市やザンクトガレン、ベルン、ルツェルン、チューリヒの国内の各都市でデモを行う予定だ。国産肉の供給と干し肉の需要のバランスが取れていた以前の状態を取り戻すべく、市民に訴えるためだ。

唯一の解決策

 一方、グラウビュンデン州の干し肉製造者協会 ( VBF ) は、スイスの畜産業者が需要に追いつこうとしない事実を、事実として認めている。南米産の肉の質も高いと、グラウビュンデン州の協会はヴァレー州の協会より柔軟な考えだ。

 「グラウビュンデン風の干し肉『ビュンドナーフライシュ ( Bündner Fleisch ) 』を加工するためには、牛肉の選ばれた部分しか使いません。高級品はグラウビュンデン産か、南米産です。南米産の肉を使っているからといって、干し肉の品質や味に影響があってはなりません。肉の加工と乾燥はグラウビュンデン州内でされています」
 
 今年の干し肉の消費量はおよそ5500トンと見込まれている。この需要に応じるため輸入された精肉は総消費量の62%を占め、肉輸入史上最高となった。輸入肉の8割がブラジル産で、残りの2割がアルゼンチン産だ。「重要なのはその品質。ブラジル産とアルゼンチン産の肉は、輸入された直後に検査します。検査には多くの項目チェックを用いています」と同協会。

魅力あるスイス市場

 ブラジルの精肉輸出者協会 ( ABIEC ) によると、スイスへの肉の輸出総量は年間1万トンから1万500トンに上る。「ブラジル産の肉は、スイスのように検査が厳しい市場にこそ輸出されるべき質の高いものです。最新の設備で飼育し、衛生管理も厳しいので高品質の肉が生産できるのです」と同協会のマルクス・プラティーニ・デ・モラレス氏は強調する。

 同協会はこの10年間で、口蹄 ( こうてい ) 疫などの撲滅のためおよそ240万フラン ( 約2億3500万円 ) を投資した。口蹄疫を理由にブラジルでは何度か輸出禁止措置が敷かれた経験から学んだ結果だ。

 アルゼンチンはスイス市場向けの牛肉に対し、数々の必要条件を満たすことを義務付けている。例えば、牛の月齢は30カ月以内、薄切りの肉の色はピンクであることなどと決められている。

swissinfo、アンドレア・オルネラス 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 意訳

加工によりもとの重量の45%に縮小。
100グラムの干し肉にはタンパク質が40グラム、脂肪5グラム、ビタミンB1、B2、鉄その他ミネラルが含まれる。
ブラジルとアルゼンチンのスイス向け肉の輸出量は昨年、1万2500トンだった。今年は1万3600トンに増加する見込み。

30もの過程を経、7週間かけて干し肉が出来上がる。材料は牛肉のロースで、塩とハーブ漬けにする。保存は氷点下零度で1カ月。1週間ごとに動かし均等に空気にさらされるようにする。封を切ったら、布に包み2日以内に消費することが望ましい。

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