北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長がスイスに留学していた当時に暮らしていた住宅が先日、発見された。住宅は首都ベルンにあり、北朝鮮の外交団が使用していた。近隣住民によれば、4人の少年が「いつもバスケットボールをしていた」という。
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「彼らは挨拶もしなかったし、他の人と目も合わせなかった」と語るのは、当時、住宅の向かい側に住んでいたヴィクトル・シュミート氏。スイスのフラヴィオ・コッティ元外相の助言役を務めた経験があり、現在はコミュニケーション・コンサルタントとして活躍する同氏によると、その住宅はベルン近郊リーベフェルトのキルヒ通り10番にあり、当時は近くに北朝鮮大使館があった。
住宅が見つかったきっかけは次の通り。まず、米紙ワシントン・ポストが先日、「金氏がスイスに行く際に同行していた叔母は、現在、米国に住んでいる」と報道。それを読んだスイスの世論調査機関gfsベルンのクロード・ロンシャン氏がツイッター上で、金氏がベルン滞在中に住んでいた場所を知っている人はいないかと呼びかけた。すると、シュミート氏が名乗り出て、ロンシャン氏に住居の場所を紹介。ロンシャン氏がそのことを自身のブログで書き、メディアに広まった。
下のグーグルマップから、キルヒ通りに立ち並ぶ集合住宅の現在の様子がうかがえる。
シュミート氏によれば、キルヒ通り10番にあった集合住宅や一軒家は当時、新しく建てられたばかりだった。
「北朝鮮大使館の人たちがそこにいるのは知っていた。見守り役の大人と一緒にいつも子ども4人がいた。彼らが外でバスケットボールをしているところを見かけた」(シュミート氏)
その中の子どもの1人は、他の子よりも幼いため目立っていたという。
「今から思えば、あれは金正恩氏だったのだろう」とシュミート氏。子どもたち4人は、3人の男性と1人の女性に監視されていたという。
外交官ナンバーと「奇妙な」行動
彼らが北朝鮮人なのは、自動車に外交官用のナンバープレートが使われていたことから明らかだったと、シュミート氏は語る。彼らが使用していた暗い色のフォルクスワーゲン「トランスポーター」は窓ガラスにスモークフィルムが貼られ、いつも地下駐車場にとめられていた。
「彼らは誰にも話しかけようとしなかった。私たちと毎日すれ違っていたが、彼らが私たちにコンタクトを取ろうとしたことは一度もなかった」とシュミート氏。「もし彼らがバスケットボールをしていなかったら、私たちが彼らを目撃することはなかっただろう」
シュミート氏によると、彼らは1994年から2000年に、キルヒ通りに暮らしていた。
スイスに暮らした金氏
金氏は12歳だった1996年にスイスに渡り、ベルン州のインターナショナルスクールに通っていたとされる。学校ではドイツ語、フランス語、英語を学び、スキーの腕を磨いたり、紛争解決の能力を鍛えたりしたと言われている。北朝鮮は、金氏がスイスに留学していたことを公式に認めてはいない。
金氏の叔母は5月、ワシントン・ポスト紙と独占インタビューを行い、ベルンに金氏と暮らしていたことを告白。「普通の住宅に暮らし、普通の家族のように振舞っていた」という。また、金氏は子ども時代に「バスケットボールに夢中」で、夜はボールと一緒に寝ていたこともあったと語っている。
ワシントン・ポストによると、金氏の叔母は1998年、ベルンの米国大使館経由で米国に亡命した。
金氏は父・正日が死去した後、2011年に北朝鮮の第1書記に就任。今年5月の朝鮮労働党大会では党委員長となり、6月には国家のトップに当たる「国務委員長」に就任している。
(英語からの翻訳・編集 鹿島田芙美)
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13日、マレーシアのクアラルンプール国際空港で、北朝鮮の金正恩氏の異母兄、金正男氏と見られる北朝鮮国籍の男性が急死したことを受け、韓国統一省は、殺害された人物が金正男氏だと判断して捜査している。韓国では、南北関係にも大きな影響を与える大統領選挙が近づき、政界では北朝鮮情勢への関心の高まりが強まる中で、金正恩政権の反人道的な事例として、この事件を大きく取り上げているようだ。また、米国政府は、金正男氏の詳しい死因を断定できていないものの、北朝鮮の工作員によって殺害されたとの見方を強めていると報じられている。
一方、北朝鮮は依然として事件について報じていない。また、北朝鮮と二国間関係を維持しているマレーシア政府は、現在捜査を進めているが、死亡したのが正男氏だとは特定していない。
スイス・メディアの報道
スイスのドイツ語圏の日刊紙NZZは14日、「金正恩の異母兄、マレーシアで毒殺」という見出しで、「かつては金正日(キムジョンイル)の後継者候補ともされていた金正男が、金正恩の怒りをかった。北朝鮮の独裁者の異母兄である金正男がマレーシアで毒殺された。かなり年齢の離れた異母兄は、金正恩に対して批判的な立場だった」と報じた。また、金正男は「金正恩について、国家元首としてはあまりにも経験が浅く、また、若いために長続きはしないと繰り返し過小評価しており、この批判が、金正男の命取りとなった可能性がある。2011年のインタビューで金正男は、マカオで暗殺されそうになったとして、自身の生命が危険にさらされているとほのめかしていた。13年には、北朝鮮のかつてナンバー2であった彼の叔父、張成沢が処刑された」とも報道した。
フランス語圏の日刊紙ルタンは、「金正恩の兄の奇妙な死」と題して、「10年以上にわたり亡命中であった金正男は、クアラルンプールで月曜日に急死した。韓国は暗殺だとしている」と伝えた上で、スイスでの教育に触れた。「金正男は、北朝鮮の元指導者・金正日の長男だった。異母弟の金正恩のように、一時はスイスで教育を受け、ジュネーブのインターナショナル・スクールに通った。一方で弟はベルン州で教育を受けた。北朝鮮へ帰国してからの数年間は、金正日の後継者と考えられていた」と解説する。続いて、偽造パスポートで日本への入国を試みたことに触れ、「2001年5月に成田空港で、同伴した女性2人と子供と共に逮捕されたことで運命が変わった」「このような事件の後、金正日は、長男を後継から外した」と述べている。
ジュネーブの国連欧州本部における北朝鮮
国連欧州本部で14日朝に行われた軍縮会議では、北朝鮮が12日に新型弾道ミサイルを試射したことを受け、「国際平和と安全への脅威であり、安全保障理事会の決議に反する」として金正恩政権に対する制裁を呼びかける発言が複数の加盟国からあった。
北朝鮮は、ミサイルの発射を「国家主権と人民の安全を守るための自己防衛策」とするのに対し、韓国は「このような挑発は、北朝鮮の不合理な性格とミサイルや核兵器に対する熱狂的な執着を実証しており、北朝鮮の非核化を望む国際社会の決意をさらに強くするものだ」と発言。また、米国は、新型ミサイル発射を「核の脅威」として北朝鮮を非難し、日本の高見澤大使は「挑発的な行動だ」として「強く非難」した。
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