ベンチは、スイスでは文化財として捉えられている。今、財政削減を迫られる自治体に代わり、市民らがベンチの設置や維持に奔走している。
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ハイキングはスイス人がこよなく愛する趣味だ。山を登る途中にあるベンチで一休みし、美しい眺望を楽しむ。これ以上の喜びはないだろう。ベルナーアルプスふもとのブリエンツ湖外部リンクに程近いギースバッハ滝外部リンクでは1818年、公共のベンチが設置された。
公共ベンチはもともと富裕層向けに自治体が設置したものだった。19世紀中ごろ、公共の公園にベンチが次々と設置された。ただ、ベンチを使ったのは富裕層ではなく、散歩を楽しむ一般市民たちだった。
自然の中にたたずむベンチもまた、スイスの伝統、文化財だ。欧州連合(EU)が欧州文化遺産年外部リンクと定めた今年は、6月17日に「ベンチデー外部リンク」と称したイベントがスイスで開かれる。
財政削減
公共のベンチを維持するにはコストがかかる。昨年、チューリヒ近郊のヴィンタートゥール市は、財政削減を理由に多くのベンチを撤去した。観光都市ルツェルンは3年前に撤去しようとしたが、地元の画家や家具職人らが約1300個のベンチをボランティアで手入れし撤去を免れた。
各地の「美化団体」が新しいベンチの設置や維持にボランティアで取り組む。ヴィンタートゥール外部リンクなどでは市民らの「パトロン」制度が出来た。市民が維持費を寄付する代わり外部リンクにベンチに自分の名前を刻んでもらえる。
スイスのベンチ文化を推進する団体「Bankkultur外部リンク(独語で『ベンチ文化』の意味)」は、さらに一歩踏み込んだ。各地に点在するベンチの所在地を網羅したオンラインマップ外部リンクをインターネットで公開、行き方や景観の見え方を紹介している。ユーザーが自分のお気に入りのベンチの写真や情報などをシェアすることも出来る。
都市部のベンチ
チューリヒ市では昨夏、市民らがあるユニークな取り組み外部リンクを行った。市民が自宅玄関前のベンチを活用し、音楽やデコレーション、ちょっとした食べ物などで近所の人や通行人をおもてなしするというもの。所在地を示した地図も作られた。自宅にベンチがない人向けに、ベンチを自作する講習会も開かれた。
ちなみにチューリヒでは夏になると毎年、市民から「ベンチの数が少なすぎる」という苦情が相次ぐ。その唯一の例外が2001年。この年は「BankArt(独語で『ベンチの芸術』の意味)」と題したイベントが開かれ、ユニークなベンチ1千個超が市内中心部に登場。このベンチは夏の終わりにオークションで売却された。
(独語からの翻訳・宇田薫)
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