アメリカからの医療ツアーはストップ
「スイスの医療の、高い技術と環境の良さを求めて外国から訪れる医療ツアーの中でも、アメリカからの患者は受け入れない」とチューリヒ大学病院が発表した。
理由は、手術の結果に対する不満などから訴訟を起こされ、巨額の慰謝料の請求が懸念されるからだという。また、フランス語圏ヴァレー州の病院もアメリカ、カナダ、イギリスからの医療ツアーにストップをかけた。
天文学的な額の慰謝料
「アメリカ、カナダからの医療ツアーのうち、急を要しない症例の場合は治療を行わないという方針を決めた。主な理由は、患者が料金を支払わないというのではなく、法制度がこれらの国と異なるためだ」
とチューリヒ大学医学病院の広報担当、ペトラ・ジーブルガー氏は説明する。
つまり、2国間の法制度の違いによって、手術結果に対する不満などから天文学的な額の慰謝料が要求された場合、それに対応できないためだという。ただし、「スイスに住んでいるアメリカ人には適用されない」とジーブルガー 氏は強調した。
チューリヒ大学病院は、年間17万人の患者を扱い、うち3000人が外国人で、アメリカからは30人。ほとんどが緊急を要する患者だ。また、外国人患者のほとんどがスイスの周辺諸国と、中東ないしはロシアからだ。
州によってさまざま
一方、アメリカ、カナダ、イギリスからの医療ツアーは受け入れないと決めたヴァレー州だが、ほかの国からの医療ツーリストでも、スイスの民法に基づいて病院側の責任範囲を厳格に定めた「特別同意書」にサインするよう求められる。
また、ジュネーブ大学医学病院では、外国人のみならずスイス人もこうした同意書にサインすることが要求されるという。
しかし、ほかの州ではそれほど厳格ではない。例えばバーゼルとベルンの大学病院は、
「患者が十分な健康保険料をかけている場合と、補償金を前払いしている場合は問題なく外国人患者の治療を行う」
と話す。バーゼルでは昨年アメリカから100人の入院患者を扱ったという。
スイスへの医療ツアーの歴史は古い
スイスへの医療ツアーの歴史は古く、19世紀にまでさかのぼる。アルプスの澄んだ空気と豊富なミネラルウオーターは、多くの病人を回復させ、特に結核治療には優れた効果を生んだ。
今日、スイスのクリニックは航空会社の機内誌に宣伝を載せ、さまざまなエージェントがかかわりビザ申請から通訳付きの世話など、至れり尽くせりの医療ツアー豪華版を提案している。
実際多くの観光客が、整形手術を含む医療ツアーでスイスにやって来る。著名な医療ツーリストの1人は、イタリアの首相シルビオ・ベルルスコーニ氏で、2年前に目の手術をスイスで行った。亡くなったサウジアラビアのファハド国王もスイスに治療に訪れていた。
目立たず秘密厳守のお国柄
優れた治療を行うという高い評判で、スイスの医療ツアーによる収益は、年間9億フラン ( 約800億円 ) に上ると見られている。しかし、専門家は世界の富裕層を対象に、トップクラスの治療はさらに展開可能だと言う。
チューリヒのシンクタンク「ゴットリーブ・ドゥットヴァイラー研究所 ( Gottlieb Duttweiler Institute ) 」の調査は、複雑で専門的な治療でスイスは今後さらに発展でき、また、スイスの目立たず秘密厳守のお国柄がVIP ( 重要人物 ) のプライバシーを守ってくれるだろうと指摘する。
ところで、2008年の「デロイト・コンサルティング ( Deloitte Consulting ) 」の調査によれば、アメリカ人が海外で行う医療ツアーは今後10年間にさらに伸びると見られており、2007年の調査では75万人のアメリカ人が外国で治療を受けている。しかし、このツーリズムは健康保険会社には、巨額な負担になるという。
トマス・ステファンス、
( 英語からの翻訳、里信邦子 )
スイスへの医療ツアーは、二つの分野に大きく分かれる。一つは高度な医療治療ツアーで、もう一つは、美容整形などを含むウェルネスのツアー。
年間およそ3万人の外国人がスイスで医療治療を受け、15万人が健康維持 のためのスパ休暇を行っている。
スイスに治療や療養の目的で来る人がスイスを選ぶ理由は、しばしば医療以外の目的も含まれる。
スイスの医療機関の評判は高い。また、スイスへの医療ツアーは多くが口コミによって行われる。
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