サッカー日本代表 スイスアルプスのふもとへ
5月26日午後1時、ヴァレー/ヴァリス州サースフェーの村にアルプホルンが響き渡った。村の入り口に姿を現したサッカー日本代表チームを歓迎しているのだ。
岡田武史監督率いる日本代表チームの面々が大型バスから降り、用意された2両編成の電車仕立ての赤い電気自動車に厳しい表情で次々と乗り込んでいく。これから2週間、日本代表はここで南アフリカW杯に向け、最後の調整を行う。
暖かい歓迎に驚き
四方を高峰に囲まれたサースフェー ( Saas-Fee ) は「アルプスの真珠」と呼ばれる小さな保養地だ。夏の観光シーズンはまだ始まっておらず、村の中はひっそりとしている。車の乗り入れが禁止されているせいもあるだろう。ときおり、小雨がぱらつく曇り空の下、代表団が到着したバスターミナル前の広場だけがにぎわっていた。
日本代表メンバーは遊園地の電車のような電気自動車に座ったまま、サースフェー村長を始め、村人の温かい歓迎を受けた。ベルンから小松一郎在スイス日本大使も駆けつけ
「このサースフェーでの合宿で高地対策を万全として、気力とチームワークをより強化してワールドカップに臨まれることを期待しています」
と、励ましの言葉を贈った。
選手たちの引き締まった顔が思わずほころんだのは、サースフェーの子どもたちの「がんばれ日本」という日本語の応援や、スイスの歌を聞いたときだ。今回主将を務めることになった川口能活選手 ( GK ) は後のインタビューで
「そうですか?到着したとき、厳しい顔をしていましたか?」
と照れ笑いをする。
「眠かっただけだろう」と飛ぶ「身内のやじ」に
「移動がたいへんでしたからね。日本を朝4時に出発するという長旅にみんなかなり疲れていました」
と答えた。だが、この日の午後5時に開始した公開練習で
「汗も出てきて循環が良くなって、それでリフレッシュしてだいぶん体調も良くなりました」
と白い歯を覗かせた。
日本代表の力
日本をはじめスイス国内外から集まった80人を超える報道陣、それに一般見学者の前で行われた初日の公開練習は、相変わらず時折小雨がぱらつく中で約2時間続いた。冬用の上着を着ていても、じっと立っていると手足が冷たくなる寒さだ。
合宿の目的は高地に慣れること。サースフェーの海抜は1800メートル。W杯初戦のカメルーン戦が行われるブルームフォンテーン ( Bloemfontein ) の海抜は1400メートルだ。高地では空気が薄く、体の反応もボールの反応も平地とは異なる。疲労も残りやすい。練習後、中村憲剛選手 ( MF ) は
「普段より多少息苦しいところがあります。あまり力を入れなくてもボールが伸びたり走ったりすることがあるので、早く慣れないといけないと思います」
と感想を述べた。
日本国内最後の強化試合となったキリンチャレンジ杯韓国戦では0対2と完敗したが、岡田監督は
「このチームはこんなものではないと信じています。ケガ、コンディション、共通意識がないなどいろいろ ( 問題は ) ありますが、やり方を大きく変えるつもりはありません。彼らはまだまだできる選手です。今までやってきたことを繰り返して伸ばしていくことが一番大事だと思います」
と語った。5月30日には、オーストリアのグラーツ ( Graz ) でイングランドとの強化試合が予定されている。
「本当の強豪チームに対してどうやって戦うかをテストできるので、楽しみにしています」
と岡田監督。
雄大な自然の中で
標高以外にも、乾燥した空気、激しい温度差など、スイスの環境は日本とはずいぶん異なる。体調を整えるために注意が必要ではないかと川口主将に尋ねたところ、
「空気もいいし、景色もいいし、人もいいし、和やかな気持ちになります。選手たちがリフレッシュするには絶好の環境だと思います」
という答えが返ってきた。
到着翌日の朝のトレーニングも雨混じりだった。天気はまだしばらく安定しそうにない。ピッチのすぐ上の斜面にはまだ残雪が覗き、日本代表チームのために人工芝から自然芝に変えられたフィールドを氷河が見下ろす。これから2週間、この雄大な風景の中に日本代表メンバーの掛け声がこだまする。
小山千早、サースフェーにて swissinfo.ch
5月30日午後2時15分 強化試合イングランド戦 グラーツ ( オーストリア )
6月4日午後12時20分 強化試合コートジボワール戦 シオン ( スイス )
6月6日 南ア入り
6月14日 W杯第1次リーグ カメルーン戦 ブルームフォンテーン
6月19日 W杯第1次リーグ オランダ戦 ダーバン
6月24日 W杯第1次リーグ デンマーク戦 ルステンブルク
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