スイスでドライブ – 車の運転とパーキング事情
観光でスイスを訪れる場合、車がなくても特に問題はない。快適で時刻に正確な鉄道とポストバスでどんなに小さな村にでも連れて行ってくれる。けれど、暮らすとなると話は違う。特に田舎暮らしの場合、車がないと困ることが多い。今日は、スイスでの運転事情について書いてみたいと思う。
スイスの田舎に移住してくるまで、私はずっと東京に住んでいた。駅まで徒歩十分で、生活必需品を購入する店もすべて徒歩圏にあったので、車を切実に必要としたことは一度もなかった。チューリヒやジュネーブなどの都市圏に住めばスイスでも車がなくても問題はないと思う。けれど、田舎暮らしでは車なしの生活はかなり制限が多い。バスや電車の本数が少なく、家から街との距離も離れている。冬の間は自転車にも乗れなくなる。
それで、日本ではペーパードライバーだったが一念発起して車を運転することにしたのだ。幸い日本の普通運転免許証をスイスのものに書き換えることが可能だったので、試験を受けずに済んだ。
日本で自動車教習を受けたので、スイスで安全に走るためにしばらく友人の教えを受けた。もちろん一番の違いは、右側通行だ。普段、左側走行に慣れている人が、ついうっかりやってしまいがちな間違いは、左折や右折をした時に左側に入ってしまうことだ。かなりの交通量があるときには、前方に他の車がいるのでまず間違いを起こさないが、全く車がいない時にやってしまってひやっとした事がある。今ではスイスでしか運転していないので、日本で運転するとしたら右側を走らないように気をつけないといけないだろう。
標識は日本とほとんど同じで、「赤信号では止まらなくてはならない」「禁止されている場所に駐車してはいけない」「曲がるときや車線を変更する時にはウィンカーを出す」といった基本的なルールも同じだ。ラウンドアバウトは左から来る車優先、三叉路では右側優先という基本事項を押さえておけば、運転はさほど難しくない。その一方、「線路の前で必ず一旦停止をし、窓を開けて音を聞く」というようなルールはない。目視をして電車が来ていなければ停まらずに線路を渡る。
一般にスイスのドライバーは、交通規則を守る。例えば最高速度が表示されているときっちりその速度で走る人をよく見る。速度超過を取り締まるレーダーが多いからでもあるのだが、そもそも規則も理にかなっているように思う。高速道路では最高時速120Kmで、一般道は市町村の中が最高時速50Km、郊外で最高時速80Kmが普通である。連休前でもないかぎりほとんど渋滞もなく、違法駐車で道路が埋まっていることもほとんどないスイスの田舎での運転はとても快適だ。
スイス国内で高速道路を通る時にはヴィニエット(Vignette)というシールを購入してフロントガラスに貼る。これは年間通行券で、次の年の二月まで幾度でも高速道路を走ることができる。そのため高速道路にはゲートはなく、料金所もない。
グラウビュンデン州では冬には冬用タイヤを装着しなくてはならない。雪や凍結の多い地域なのでスリップ事故を防ぐための義務だ。車検もとても厳しいが、その分、隣国で見かけるような状態のひどい車はほとんど見ない。安全な交通のためには必要なことだと思う。
雪道、山道での走り方など自動車学校では習えないテクニックは、すべて現地の友人たちに習った。この十三年間のスイスでの生活では、慎重に運転していても、雪の状態や狭い山道を走る時にひやっとすることが何度かあった。慣れてきたからと慢心せずに、車は凶器になることを肝に銘じなくてはならないと思っている。
もう一つ、スイスでありがたいと思うのが、パーキング事情だ。東京でどこかに車で出かける時に必ず頭を悩ませるのが、どこに停められるのか、いったいいくらかかるのかという問題だった。スイスでも都市の方が郊外よりも駐車料金が高いのは同じだが、東京ほどではなく、一時間で2フランを超える料金設定にはまだ出会ったことがない。(チューリヒなどの大都市はまだ車で行ったことがないので未確認)。また、青い線で囲まれたブルー・ゾーン(Blaue Zone)には、公式の青い時間表示板(Parkscheibe)を窓に掲示することで平日最高一時間まで無料で駐車することができる。
比較的運転が容易な田舎で、コンスタントに運転を続けてきたおかげで、日本では誰も隣に乗りたがらなかったほど稚拙だった私の運転もかなりまともになってきた。便利なだけではなく、四季折々に美しい風景の中を走る楽しみを満喫できるドライブ。これからも安全運転を心がけたいと思っている。
ソリーヴァ江口葵
東京都出身。2001年よりグラウビュンデン州ドムレシュク谷のシルス村に在住。夫と二人暮らしで、職業はプログラマー。趣味は旅行と音楽鑑賞。自然が好きで、静かな田舎の村暮らしを楽しんでいます。
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