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偽の有名人広告で投資詐欺 その背後にある秘密のネットワーク 

詐欺サイトのコラージュ
詐欺被害が報告されている様々なオンライン投資プラットフォームの出元をたどると、すべてキプロスにつながっていたことがスイス公共放送(SRF)の取材で分かった SRF

手っ取り早く儲かるとうたうオンライン投資プラットフォームの中には詐欺サイトが潜む。スイス公共放送テレビ(SRF)の調査報道チームが、これらの詐欺ネットワークをたどり、全てがキプロスにつながっていることを突き止めた。

オンラインレビューサイト「Trustpilot」の検索バーに「InvesaCapital」と入力すると、否定的なレビューが続々と表示される。そこでは、日本、インド、チリ、コロンビア、スイスに住むユーザーが詐欺被害に遭ったと訴えていた。 

スイスのバイク整備士ステファン・ボスさんもその一人だ。SRF Investigativ(調査報道チーム)に「このプラットフォーム上では全てが本物らしく見えた」と語る。ボスさんはInvesaCapitalに2万1000フラン(約380万円)を支払ったが、そのお金が戻ることはなかった。後になって、詐欺に引っかかったことに気づいたという。 

バイクを背後に話す2人の男性
「一生懸命働いて貯めたお金だった。どうして自分はこんなに愚かだったのかと思うことがある。でも、電話のオペレーターたちはとても信頼でき、自信に満ちていた。すべてが本物に思えた」と語るステファン・ボスさん(左) SRF

SRF Investigativは、似たような複数のプラットフォームの全容を突き止めた。顧客に投資を増やすよう強要するこれらのネットワークの糸をたどると、全てがキプロスに行き着いた。 

罠は偽のセレブリティ広告から始まる。ボスさんのケースでは、スイスのコメディアンでテレビ司会者のシュテファン・ビュッサーさんが登場する偽広告だった。それをクリックすると、InvesaCapitalに行き着いた。刑務所らしき場所にいる元男子プロテニスのロジャー・フェデラーさん、目の周りがあざになったスイス人モデルのクリスタ・リゴッツィさんの広告もある。 

これらのセレブリティたちは詐欺プラットフォームとは無関係だ。画像は不正使用され、彼らのインタビューも捏造されている。しかし、スイスの有名人が有利な投資機会を宣伝するこうした広告は、数カ月前からソーシャルメディア上で広く出回っている。

詐欺バナーのコラージュ
ユーロビジョン・ソング・コンテストで優勝したスイス人アーティスト、ネモ(Nemo、写真左)も偽広告に不正利用されている。広告は、写真に写っている人物が安易に金儲けの秘密を公開したためにトラブルになったという内容が多い(SRF編集) Facebook (SRF編集)

Trustpilotのウェブサイトでは、多くのユーザーがInvesaCapitalで詐欺やぼったくり被害にあったと訴えている。同様の疑惑は、いずれも投資プラットフォームとされるOBRInvest、ForexTB、Inefex、InvestMarketsのほか、既に稼働を停止したInvestousと24Optionにも向けられている。 

詐欺サイトのコラージュ
SRF Investigativが取材で突き止めた(現在も稼働中の)投資プラットフォームのネットワーク SRF

SRF Investigativは、これらのプラットフォームの元従業員3人に取材。3人は、電話で顧客をだまし、より多くの資金を引き出すよう指示されていたことを認めた。「ここでお金を投資するほど愚かなら、ぼったくられて当然。それが上司の決まり文句だった」。従業員の1人は当時の職場の雰囲気をこう振り返る。 

有名人を起用した偽の広告は、あたかも本物かと思わせるスイスメディアの記事にリンクされているが、記事ももちろん偽物だ。これらの偽のニュース記事を通じて、読者は簡単に大儲けできるとうたう投資プラットフォームとされるサイトに登録できるようになる。通常、登録後すぐ電話があり、250フランの入金を求められる。 

被害者の多くが、最初は大きな利益を得たものの、利益分を引き出せなかったと報告している。投資は往々にして全損に終わる。被害者は、自分の資金が株式市場ではなく、極めて投機的な金融商品に流れていることに気づいていないことが多い。偽広告で約束されたような利益も、投資した資金を取り戻す可能性も、実際には存在しない。このプラットフォームの「ブローカー」は顧客に頻繁に電話をかけ、さらなる投資を巧みに持ち掛ける。

スイスのドイツ語圏だけでも、キプロス・ネットワーク上のこれらの投資プラットフォームに関連し、数十件の刑事告発があったことを検察当局が認めている。報告されている損失額は、数万フランから10万フランを超えるケースもある。しかし、容疑者は海外に拠点を置き当局が特定できず、刑事手続きが停止されることも少なくない。 

このような手法を使っているのはキプロスのネットワークだけではない。サイバー犯罪と小児性愛犯罪の撲滅を目的とするスイス警察ネットワークによると、国内のユーザーがだまし取られた被害額は2023年に1億4260万フランに上った。検察当局は、被害者が恥ずかしさから申告できないケースもあり、実際の数はさらに多いと見積もる。 

SRF Investigativチームは、ほぼ同一の構造を持つ7つのプラットフォーム(Inefex、InvesaCapital、InvestMarkets、ForexTB、OBRInvest、Investous、24Option)を特定した。キプロスの商業登記簿には、その背後にある企業間の明確なつながりもある。これらのプラットフォームの至るところに、ある2人の人物が異なる役割で登場するのだ。 

詐欺サイトのナビゲーションバー
現在稼働しているプラットフォームのナビゲーションバーはほぼ同じ。ウェブサイトの字体も同じだ SRF

ネットワーク内のすべてのプラットフォームでは、これらは高リスクの金融投資商品であり、金融商品の購入を推奨するものではないという警告を表示している。しかし実際は有名人を使った偽の広告でもうけがあるとうたい、電話でより多くの投資を迫られたという被害者の声があるなど、実態は異なることが分かる。SRF Investigativも偽名でプラットフォームに登録したところ、より高額の投資を行うよう迫られた。しかし、いったん覆面調査が終わると、プラットフォームからは利益とともに初期投資額を返金された。 

調査チームは、全てのプラットフォームに対し、その事業行為とキプロス・ネットワークとの関係について取材を試みた。しかし再三の要求にも関わらず、どのプラットフォームからも返答はなかった。また、キプロスの商業登記簿に記載されている人物からも回答はなかった。 

新しいプラットフォーム 

プラットフォームに対して否定的な報告や訴訟が起こるたびにネットワークはほぼ同一のビジネスモデルを持つ新しいウェブサイトを立ち上げ、別の名前で運営を続けているとみられる。既に稼働を停止した24Optionがその良い例で、元従業員2人がドイツで昨年、詐欺罪で有罪判決を受けた。 

24Optionは欧州全土で稼働し、評判が良いプラットフォームだという印象を与えていた。イタリアのサッカークラブ、ユベントスFCの公式パートナーだったことさえある。 

だがドイツの公共放送ARDが24Optionの手口を暴くと、警察が捜査に乗り出した。同サイトの従業員2人が詐欺罪に問われ、ケルンの地方裁判所で実刑判決を受けた。判決は、被告らは金銭的損失リスクについて顧客を欺き、取引はもっぱら顧客を搾取することを目的としていたと結論づけた。SRF Investigativは判決文のコピーを入手した。 

ケルンの検察庁は、24Optionに関連し数十人の容疑者を捜査中だと認めた。推定無罪は被告人全員に適用される。 

ネットワークを管理する企業 

商業登記簿によると、24Optionのマネージングディレクターはキプロスに住む実業家だ。SRF Investigativが特定したプラットフォームネットワークの中心人物でもある。 

詐欺ネットワーク所有者の顔写真
投資プラットフォームの全てのネットワークにつながる実業家(左下の顔写真) SRF

この実業家は、キプロス拠点の会社K.C. Firiakis Servicesのオーナーでもある。同社の元従業員はビジネス向けソーシャルメディアLinkedInに詳細な仕事内容を投稿しており、この会社が詐欺ネットワークで重要な役割を果たしていることを示している。

この投稿によれば、K.C. Firiakisは新しい詐欺プラットフォームの立ち上げ、売上目標の設定、ネットワークに関わる企業や個人の調整にも関与している。 

K.C. Firiakis ServicesはSRF Investigativの取材に対し「証明されていない虚偽の申し立て」だと回答。同社はネットワークに関与しておらず、全てのプラットフォームに精通しているわけではないと述べた。さらに、プラットフォームの内部プロセスについては全く把握しておらず、不正行為を容認していないと述べた。また、K.C. Firiakisは独立した会社であり、24Optionとは無関係だという。キプロスは小さな国であり、両社に共通の従業員がいることは何の証明にもならないとした。K.C. Firiakis Servicesの所有者は、SRF Investigativの問い合わせには回答しなかった。 

詐欺で得た金がどこに行き、誰が最も得をしたのかについては、まだ不明だ。 

バイク工場の男性
「預金残高を確認するたび後悔する。食べるのに困るわけではない。だがこのお金は老後の資金だった」とボスさんは言う SRF

被害者のボスさんは、投資したお金をなかったことにした。「裁判を起こすにしても、誰を相手どればいいのか?Invesa Capital?果たして本当に存在するのか?」 

ボスさんの言うことにも一理ある。SRF Investigativの取材によると、詐欺は個々のプラットフォームを超え、ネットワーク全体を巻き込んでいる。「これは古典的な手法だ」とある内部関係者は言う。「あるプラットフォームがつぶれると、それを閉鎖して新しいプラットフォームを立ち上げる。こうすることで、金儲けマシーンは別の名前で運営を続けることができる」 

情報提供:Christodoulos Mavroudis 英語からの翻訳:宇田薫、校正:大野瑠衣子

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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