婚姻法に愛が負ける?
外国人との婚姻を違法にしようという婚姻法改正案が5月25日、連邦上・下院を通過した。これは益よりも害であると、ジュネーブの政治家が注意を呼びかける。
スイス国民党 ( SVP/UDC ) が提案した外国人法の改正案が連邦で承認されたことから、スイスにいる難民や不法滞在者の結婚の権利が取り上げるられることになる可能性が出てきた。改正の目的は、法の目をくぐってスイスに滞在しようとする人たちの偽装結婚を食い止めることにある。
婚姻法改正案は人権侵害
今年3月に婚姻法改正案が連邦国民議会で承認されたが、5月25日には全州議会 ( 上院 )も賛成27票、反対12票で承認した。
しかし、緑の党 ( Grüne/Les Verts ) のアントニオ・ホジャース氏は、この改正は人権侵害だという。
「わたしは結婚を法で裁けるとは思わない。誰にでも結婚の選択の自由はあり、偽装結婚を罰しようとすれば、結局、結婚の動機を処罰することになるため、これは非常にデリケートな問題だ」
とホジャース氏は考えを述べ、さらに
「恋愛結婚する人もいれば、お金や家族のために結婚する人もいる。わたしは国が結婚の動機を裁くべきではないと思う。ただ、1つだけ今回の改正案に賛成できることは、明らかにお金を受け取って結婚をしている人、その結婚によって、特に滞在許可証の取得といった、自分たちの利益になるような結婚をしている人たちの取り締まりだ」
と、「明確な偽装結婚」には反対の立場を示す。
当局の高まる意識
先日、チューリヒ州では、スイスのビザを得る目的で偽装結婚を行ったという容疑で8人に対する訴訟が起きた。州当局によれば、偽装結婚は増加傾向にあるという。チューリヒ州は滞在許可を得た合法的外国人居住者の数が最も多い州だ。2007年、同州で永住権取得目的の結婚と疑いのあったカップルは3500組あった。そのうち500組が偽装結婚と確定した。
「スイスに残りたい外国人がいて、偽装結婚が法の目を抜ける1つ方法だということを、われわれも心得ている。スイスに滞在できなくなると彼らは結婚をする」
とチューリヒ州移民局のベティーナ・ダンゲル氏は言い
「偽装結婚が増えていることを州も把握している。この増加の背景として、外国人の増加と、関係当局の意識の高まりが挙げられる。その結果、われわれのもとに調査依頼が増え、今まで以上にチェックを行うようになった」
と、偽装結婚の取締りの現状について説明する。
また、ダンゲル氏によると「実際の数字はもっと大きいだろう」が、2008年のチューリヒ州での偽装結婚の数は前年と変わらず、スイス国内では年間1000組だという。
警察に通知
今回のチューリヒ州移民局による訴訟は、2008年に新外国人法が導入されてから行われた最初の刑事訴訟の1つに数えられる。
これから全州議会で審議される改正案の下では、結婚にゴーサインを得る前に、外国人の婚約者はスイスの合法的な滞在者であることを証明し、滞在許可証やビザの提示を求められることになる。また、婚約者が不法滞在者の場合、戸籍課はその婚約者全員を警察に通知することが義務づけられる。さらに、改正案では、戸籍課と関係当局に対して移民にかんする情報の中央データベースへのアクセスを許可している。
こうした改革について、エヴェリン・ヴィトマー・シュルンプフ司法相は「州間の対応を調整しよう」ということだという。
スイス人へのインパクト
しかし、ホジャース氏は、この改正は外国人だけでなく外国人と結婚したいと思っているスイス人にも影響をもたらすだろうと注意を呼びかける。
「民法改正で、望んだ相手を好きになることすら慎重にさせようとしている。誰かを好きになる前に相手に書類を見せてもらい、いつかは結婚できるかどうかを確認しなければならなくなる。これは外国人に対する攻撃というだけでなく、スイス人に対する攻撃だ」
さらにホジャース氏は
「法律が施行された瞬間から、滞在許可証がないために結婚したいのにできない人がいるという不条理を少しでも伝えることがメディアや関係団体の役目になると思う」
と語った。
ジェシカ・ダシー、swissinfo.ch
( 英語からの翻訳 中村友紀 )
1980年代中ごろから、難民と外国人に関する法律は徐々に強化されている。
2008年1月、全州議会 ( 上院 ) は外国人法の改正を承認した。以下3点が主要項目:
1.入国:欧州連合 ( EU ) 非加盟国すべてに対して入国許可制限を適用。ただし、有資格労働者とその家族の入国は許可される。
2.同化:合法的な永住外国人の立場の改善とその家族の呼び寄せにかんする障害の撤廃。
3.違法行為:犯罪や法律の悪用に対する処罰の強化。
また、一時滞在外国人の家族に対する移住許可もより厳しくなった。
さらに、子どもや親戚に強制結婚を強いる外国人に対する実刑判決も考慮された。
州の移民局が偽装結婚の疑いを持った場合、警察に通知する。警察は該当カップルの自宅を訪れ、結婚式の日にち、招待客、場所などについて別々に質問をする。
偽装結婚と分かる例:
・難民の認定が下りなかったり、滞在期間延長の申請を拒否されるなど、スイス出国を言い渡された人物と結婚が関係している場合。
・知り合ってから結婚までの期間が短いカップル。
・かなりの年齢差があるカップル。
・スイス国籍を持った配偶者がアルコールまたは薬物中毒者の場合。
通常、状況証拠に基づいて判断される。結婚前に偽装結婚を見抜くことは難しく、多くの場合その後になって、夫婦が一緒に住んでいないなどの事実を当局が確認してから分かる。
偽装結婚と判明した場合、禁固刑または最高2万フラン ( 約175万円 ) の罰金が科せられる。
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