山岳ガイドと登る スイスアルプス登頂記
「大切なのはリズムを保つことです」。山岳ガイドのカート・アーノルドさんはそう言って、後ろからついてくる私たちに話しかける。「自分のペースで規則正しくね」。
スイス登山スクール協会の招きで、スイス南西部サースフェー近くにあるヴァイスミース山(4,029メートル)の頂上を目指す。世界最高峰エベレストのおよそ半分の高さだ。アーノルドさんと私たちは1本のロープで繋がっている。
アーノルドさんのように、登山客を4,000メートル級の山頂まで連れて行く山岳ガイドは国内におよそ750人いる。だが、近年は登山客の数は減る一方だ。サースフェー観光局のサーモン・ブーマン所長は「かつて英国の登山家がアルプスを登った感動や喜びを、一般のひとにも味わってほしい」と話す。
いざ出発
ヴァイスミースは4,000メートル級の山でも比較的登りやすいと紹介された。3,000メートルまでケーブル・カーで行く。あとは自分の足だけが頼りだ。ピッケルをつけた登山靴が氷雪の上で音を鳴らす。ピッケルをわきに挟み、日焼け止めを顔に分厚く塗る。
出発してから1時間しか経っていない。だが、足を持ち上げるのも次第に難しくなってきた。それでも小幅で足を進める。しだいに賑やかな声が聞こえてきた。すでに登頂を果した登山客が狭い登山道に下りてくるのを、これから頂上を目指す登山客が待っているのだ。
「時々、こうした列で200人ほどの登山客がごった返すこともあるんですよ」とガイドのアーノルドさんは説明する。
さらに歩を進める。足が痛い。背負ったザックも肩に食い込んで痛む。ガイドのアーノルドさんはそれでも涼しい顔で前を進む。タフな人だ。振り返って、「あと45分で頂上ですよ。きついのは今だけですから。しばらくすると楽になりますよ」。そう話しかけてくる。
アーノルドさんの腰からは雪山に欠かせない救援道具がぶら下がる。登山用ロープと氷壁に打ち込む釘。この二つの道具を連結するための金属でDの形をしたカラビナがいくつもある。国に登録された山岳ガイドは皆、救援のためのトレーニングを受ける。万が一の事故のために保険に入ることも義務付けられている。
サースフェー観光局ブーマン所長は、「山岳ガイドはスイスの観光産業の大使のような役割を果たす。壮大な景色の案内人だからね」と話す。
さらに足を進める。酸素が薄いのか、息切れが激しくなる。一歩進むだけで辛い。まるで這い登るかのようだ。山頂は雲に隠れて見えない。
冷たい風が吹き荒れる中、光線が出てきた。しばらくすると、雲が散って、山頂にいる他の登山客が見えた。頂上まで、私は一歩ずつ数を数え始める。121を数えたとき、山頂に辿り着いた。
「比較的登りやすい」といわれる山の頂きに到着したのは、出発から3時間後のこと。初めて満身で達成感を味わった。
スイス国際放送 フィリップ・クロプ 安達聡子(あだちさとこ)意訳
スイスの観光は24万人の雇用を支える主要産業の一つ。年間収入総額は120億フラン(約1兆650億円)に上る。
個人のプランに合わせてガイドが付き添うアルプス登頂ツアーは、年間約2,000万フラン(約18億円)の市場規模。
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