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「津波は飛行機より速い」

仙台の沿岸地域。津波が押し寄せて辺り一帯が水没し、家屋が炎上するという惨状に Keystone

3月11日、東日本の太平洋側は地震に続いて津波にも襲われ、数多くの犠牲者を出すととともに各地が壊滅状態に陥った。

津波専門家のヴィリ・ハーガー氏は、このような巨大な津波に対する手立てとしては、高台への避難と機能的な警告システムしかないと言う。

ハーガー氏は連邦工科大学チューリヒ校 ( ETHZ/EPFZ ) 水利工事・水文学・氷河学実験所 ( VAW ) の教授を務め、衝撃波を専門とする。沿岸の住民が1人でも多く助かるかどうかの決め手となるのは、津波の速度と震源地から沿岸までの距離だとハーガー氏は言う。その距離が短く津波の速度が速いと、どんなに優れた早期警戒システムが整えられていても安全な場所に避難する時間はほとんど残されていない。

swissinfo.ch : 日本当局の発表では観測史上最大の地震だということですが、震源地が海底の場合、地震の強さと津波の大きさには相関関係があるのですか。

ヴィリ・ハーガー : 明らかにある。地震が強いほど津波も高くなる。これには地殻の裂け目が大きく関係している。

swissinfo.ch : 震源地は福島県の沖合い130キロメートル付近です。この距離と被害の大きさには関係がありますか。例えば沿岸の地形により、サハリンやカムチャッカぐらい離れていたほうが被害が大きいということもあるのでしょうか。

ハーガー : 地形は津波が押し寄せるときの状況に大きな影響を与える。沿岸部が急な崖になっていれば波は比較的早く砕けるが、傾斜が少ないとそのまま滑り寄せる。震源地から海岸までの距離は重要だが、海底の地形に強く左右されるのも確かだ。

swissinfo.ch : これほどの巨大な地震の場合、津波はどのくらいの速さで押し寄せるのですか。

ハーガー : 津波の速度はその地域の水深によって異なる。計算は比較的簡単で、「重力加速度 ( 秒速10メートル ) x水深の平方根」で求められる。

例えば水深が100メートルの場合、津波の速度は秒速33メートルで、時速にすると100キロ。日本海溝のような1万メートル近い水深では、津波の速度は秒速330メートル、つまり時速1100キロという音速に達する。水深いかんで、津波は民間航空機より速い速度で移動するわけだ。

swissinfo.ch : 仙台一帯の救援活動は高さ10メートルにも達する大津波に対処し切れなかったようですが、これほどの大津波から身を守ることはそもそも可能なのでしょうか。

ハーガー : 津波は海上を移動しているときの方が高さがないことが多い。海岸に達したときに災害を誘発する。ここで波が盛り上がるからだ。津波は通常何百メートルもの長さに及ぶため、海上では数メートルの高さがあっても目に見えない。

しかし、それが海岸に達すると波が押し立てられ、高く盛り上がって通り道にあるものをすべて飲み込み崩壊してしまう。身を守るための唯一の策は警報を発令し、人々を丘などの高い場所に避難させることだ。建物でもいいが、十分安定したものでなければならない。つまり、身を守る方法はあるということだ。

2004年のスマトラ沖地震後の津波災害時にあったことだが、水の中へは絶対に入らないこと。そうして生き延びた人はまったくいない。

当時はガラスの破片、あるいは自動車や樹木など津波が押し流した物による影響が明らかになった。内陸部の人々ですら、水中に居たためにこれらの漂流物にぶつかって命を落としている。

swissinfo.ch : 日本の人口密集地域は非常に密度が高く、人々は工業インフラと交じり合って暮らしています。原発や精油所にも地震の被害が出ていますが、これらの重要インフラは津波から十分守られているのでしょうか。

ハーガー : 沿岸にあるインフラを守るには二つの方法しかない。施設を高台に建てるか、堤防で守るかだ。

swissinfo.ch : 津波の早期警戒システムは2004年冬の災害以来、当該地域で近代化されてきましたが、どこでも最新化されているのですか。

ハーガー : 津波に特化した研究はスイスでは行われていないので、それについてはなんとも言えない。だが、早期警戒システムは非常に簡単なものだ。津波が発生すると海面から海底まで1本の柱となって海水が動くことから海底に圧力計が設置され、圧力が上がるとセンサーがそれを知らせるという仕組みになっている。大きさいかんでは津波となりうる波が動いているわけだ。

swissinfo.ch : ということは、大地震の震源地が海岸に近い場合はどんなに優れた早期警戒システムもあまり役に立たないわけですね。

ハーガー : その通り。避難する時間がほとんどないのだから。避難するためには、少なくとも数分前には警戒警報が出ていなければ。

また、警報が出た場合にどのように行動するべきかを知っておく必要もある。チューリヒでは年に2回水害警報のサイレンをテストしているが、サイレンが鳴ったらシール川に問題が発生したのだということはおそらく住民全員が知っているはずだ。河川を押し寄せる波は津波よりはるかに小さいが、高さがわずか2メートルしかなくてもチューリヒ中央駅には甚大な被害が出る。また、溺死しないためには、少なくとも建物の3階に避難する必要がある。 

swissinfo.ch : 3月11日の日本の被災から得られるのはどのような教訓でしょう。

ハーガー : 日本の人々は地震の脅威にさらされていることをよく自覚しており、建物もインフラもスイスよりずいぶん強靭に造られている。だが、海岸を守るために法外な壁を造るわけにもいかない。残る手立ては、住民に情報を流してよく理解してもらい、避難所を確保し、スイスで以前行っていた民間救護活動のような救援訓練を徹底することしかない。訓練をしておかなければ、警報発令時に大きなパニックに陥るだろう。

スイス連邦外務省 ( EDA/DFAE ) は3月12日、日本の被災地への捜索・究明チーム派遣を決定した。25人の専門家と9匹の捜索犬が日本に発つ。

日本到着は3月13日朝の予定。2グループに分かれて活動する。

第1グループは捜索隊。捜索犬と位置測定器で瓦礫に埋もれた人を捜索する。津波に襲われた地域を中心に活動する予定。

第2グループは重要課題の究明を急ぐ。特に環境保護分野で、緊急援助が必要な場合に当局との調整を確保するなどの任務を受け持つ。

北京で活動しているスイス人道援助団 ( SKH/CSA ) から2人がすでに12日夜に現地入りした。

( 独語からの翻訳、小山千早 )

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