血痕がDNAより多くを語るとき
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北アメリカで開発された犯罪捜査技術が、ヨーロッパの警察官の間で高く評価されている。
7月初旬、チューリヒ市で開かれた血痕パターン分析のヨーロッパ会議には、およそ140人の刑事が集まった。
北アメリカの技術
チューリヒ検察庁で暴力犯罪の捜査チームを率いるウルリヒ・ヴェバー検察官は、この会議で
「DNA分析は確かに犯罪科学に著しい進歩をもたらしましたが、少々過大評価されています。たとえばDNAは、事件の展開についてあまり多くを語ってくれません」
と述べた。
DNAだけでなく、犯行現場に残された血痕パターンの分析も行うと、犯罪のいきさつについてより多くの情報を得ることができる。このような血痕を利用する技術はヨーロッパではまだほとんど知られていない。だが、それもまもなく変わるはずだ。
北アメリカの水準に追いつこうと、ヨーロッパの警察官は国際血痕パターン分析協会 ( IABPA ) 支部を創設。現在は800人の会員を持ち、年次総会を開催するまでになった。
チューリヒ市警科学捜査生物学部のアンドレアス・シュヴァイツァー捜査官は、今年初めに起こったある事件について話した。
「警察は、刺し傷のある男の変死体がベッドの上に横たわっているのを発見しました。ナイフは死体の横に置かれていました。血痕、刺し傷の形や位置などから、その男は自殺を図っており、第三者はまったくかかわっていないことがわかりました」
血のついたバスタブ
死体なき殺人では犯人の割り出しが難しい。
「裸眼では気がつきませんが、化学発光を起こすルミノール試薬で浴槽についた血が検出されたこともあります」
と再びヴェバー氏。
これまでこの試薬は使われてこなかった。それはいったいなぜだろう。第1回ヨーロッパ会議を企画実行したオランダのアンドレ・ヘントリックス捜査官が言う。
「単に忘れていただけです。拭き取られた血痕の形跡を露出するルミノール試薬は20世紀初頭から存在していますが、数十年間開発されないままだったのです。その間ほかの化学薬品を使用していましたが、DNAが破壊されてしまうので、今では別の痕跡に対してもそれほど強くない薬品を使っています。科学捜査は現場の起動力です」
爆弾の爆発
チューリヒ市で行われた会議では、イタリア語圏の連邦警察の専門家も講演を行った。爆弾が爆発したときの捜査方法について説明し、化学薬品による捜査方法の発展状況や血痕の付着方向の分析などを紹介した。
跳ね飛んだ血の「模様」についてワークショップを開催したカナダのブライアン・アレン氏は、
「硬い表面であれば、血が飛び散った角度も突き止められるようになりました」
と言う。
実例やアレン氏の経験を通じて、参加者は表面に落ちた血の解釈の仕方を学ぶ。ベルン州警のプリシレ・メルキアーニ氏は
「スイスでこの分野に精通している人はまだあまりいません。このような実践を行うチャンスがあるのはいいこと」
と顔をほころばせた。
swissinfo、アリアーヌ・ギゴン 小山千早 ( こやま ちはや ) 訳
血痕分析は、ヨーロッパの基礎的な刑事トレーニングにはまだ取り入れられていない。血痕分析を専門としたい捜査官は、ヨーロッパで定期的に開催されているコースを受講しなければならない。
チューリヒ市警科学捜査課長によると、スイスで基礎トレーニングを受講したのは5人。うち3人がチューリヒ州、2人がティチーノ州の捜査官。
スイスにはこの分野のトレーニングをすべて終えた捜査官はまだ1人しかいない。しかし関心は高く、専門家の数はこの先大幅に増加すると期待されている。
ルミノールは光を発する化学製品で、酸化すると独特の青い光を放つ。黄色がかった白の固体で、水だけでなくほとんどの有機溶媒にも溶けない。
犯罪学では、現場に残されたわずかな血痕を検出するために使用されている。生物学者は皮や鉄、シアン化物の検出に使う。
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