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6月の花嫁~ヴォー州の結婚式

宗教婚の後、二人を乗せ結婚披露宴会場へ向かうために待機中のリムジン車 swissinfo.ch

ジューン・ブライドと呼ばれる6月の花嫁。欧米ではこの月に結婚すると生涯幸せな結婚生活ができるという言い伝えがあります。欧米の6月は日本とは異なり天候的にも安定しているので、この時期の婚礼を希望するカップルが多いのでしょう。今日は私の住んでいるヴォー州(Vaud)の結婚式について紹介します。

 スイスでは民事婚(役所を通しての婚姻)が法律上の婚姻であり、宗教婚だけでは婚姻は成立しません。また、日本では婚姻届を役所に提出することで婚姻は成立しますが、スイスはそうではありません。まず、結婚を決意したカップルは婚姻に必要な書類を夫となる人の現住地の役所に提出します。すると、役所は特定の期間、二人の婚姻について公告(両者の出生地と現住地で行われる)を行います。この間に二人が結婚することに異議申し立てがないと書類は州レベルで審査されます。その結果、問題がなければ婚姻を申請した役所からの連絡を待って、ようやく民事婚の日取りを役所で決めることができるのです。

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 スイス人の父と、カリブ海に浮かぶ島国トリ二ダード・トバゴ出身の母を両親に持つラファエル・二コレさん(Raphaël Nicolet)は8歳の時、父親がミルモン(Miremont)という医療施設の所長として就任するため一家でレザンに引っ越して来て以来、レザンッ子として育ちました。医者であった父親の関係で、幼い頃をアフリカ中央部にあるコンゴ民主共和国(旧ザイール)で過ごしています。フランス語、英語、ドイツ語を話すラファエルさんは、仕事の合間にヨーロッパのみならず、母親の祖国であるトリ二ダード・トバゴやインド、南アメリカ諸国など世界各国を訪問し、冬はプロ級の腕前のスノーボードを楽しむという多才でユニークな男性です。この彼が花婿で28歳、花嫁はヴォー州クララン(Clarens)出身のアレクサンドラ・ワイス(Alexandra Wyss)さんで27歳です。彼らは6年間の交際の後、結婚することを決めたのでした。

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 2009年のスイス連邦統計局の調べでは、スイスにおける平均初婚年齢は、男性の場合、1970年の26.5歳から31.5歳に、女性の場合は、24.1歳から29.2歳になっています。ラファエルさんとアレクサンドラさんは平均初婚年齢より若いカップルです。スイスでは若いカップルは結婚せずに一緒に暮らし、第1子が誕生する直前に婚姻手続きをするケースをよく耳にします。そんな中、このカップルはそうはせず、まず民事婚を成立させ、その1週間後に教会で結婚式を挙げることを選択しました。教会の結婚式は普通土曜日が慣例になっています。

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 ある日、私の住まいに届いた郵便物。開封するとラファエルさんとアレクサンドラさんの教会での結婚式と披露宴の招待状でした。招待状にはスイスアルプスを背景にして写した二人の写真を表紙に、結婚式及び披露宴の日時、場所の案内、そしてキリスト教を信仰する二人が選んだ旧約聖書の箴言(しんげん)第5章19節「その愛をもって常に喜べ」が記してありました。また、招待客がブライダルギフト選びで悩まずに済むように、二人がほしい商品を予め登録しているカタログサイトも紹介しています。

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 ラファエルさんとアレクサンドラさんの民事婚は、ヴヴェイ(Vevey)にあるオテル・ド・ヴィル(l’Hôtel de Ville、ホテルではありません)と呼ばれる市役所で2013年5月31日に行われました。1327年に建設されたこの建物は重要文化財として保護されています。私はこれまでスイスの民事婚に臨席したことがありませんでしたので大変嬉しいです。

 市役所内の一室が民事婚の結婚式場になっており、新郎新婦と証人2名が市役所の担当官の前に着席します。式は約20分程度で、担当官が愛をテーマとした詩を朗読して式が始まりました。婚姻に関するスイス連邦の法律が読み上げられ、二人の結婚の意思が確認されると婚姻が成立します。新郎新婦と証人2名そして担当官の計5名が婚姻証書に署名し、二人がスイス連邦の法律に基づいた夫婦であることが宣言されて式は終了しました。両家の親族、親しい友人に見守られて新二コレ夫妻が誕生しました。ちなみに、この日ヴヴェイの市役所でめでたく夫婦となったカップルは7組でした。

 民事婚が行われた1週間後の6月8日、ラファエルさんとアレクサンドラさんの宗教婚による挙式が、レザン・フェーデイ(Leysin-Feydey)にあるカトリック教会で行われました。お天気も夏の陽気となり、教会の傍では挙式後、披露宴へ向かう二人が乗り込むロールス・ロイスのリムジン車が待機しています。1910年築の教会内は親族や招待客でほぼ満席です。

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 純白のウェディングドレスに身を包んだ花嫁は父親と、そして母の祖国を意識して伝統的なインド風スーツ姿の花婿は母親と一緒に入堂し聖壇へ向かいます。この二人の挙式は愛と祈りに溢れた心温まるセレモニーでした。モスクワの大学で教鞭を執るラファエルさんの伯父さんの「夫婦とは身も心も一つとなること、そして神の愛に生きること」というメッセージが印象的でした。その後、牧師の導きにより、ラファエルさんとアレクサンドラさんは、自分たちが準備した「誓いの言葉」を述べ、指輪を交換しました。こうして、大勢の人に祝福され、新二コレ夫妻は宗教婚を終えたのでした。

 二人の結婚披露宴はレザンから600mほど下った村で開かれました。教会を出発した二人の乗ったリムジン車を、親族、友人たちの後続車30台ほどがクラクションを鳴らしながら追いました。この光景は大変感動的でした。披露宴会場に到着した新婚夫婦を皆が拍手で迎え、披露宴が始まりました。会場はビュッフェスタイルになっており、ワインや飲み物、チーズ、ハム、焼き菓子やデザートが準備されていて、式次第などはなく、招待客は新婚夫妻や両家の親族と挨拶を交わしたり、しばらくぶりで会った友人との会話を楽しんだり、ととても和やかな雰囲気の披露宴でした。

 民事婚と宗教婚という両方の婚姻を経た二人でしたが、やはりこの二人にはキリスト教の信仰上、神の御前で永遠の愛を誓うことが重要だったのだと感じました。ラファエルさんが結婚前に「これまで別々に持っていた銀行口座。これからは二人の名義で1つの口座にして、何事においても二人で分かち合い暮らしていくんだ」と教えてくれた言葉は教会での伯父さんの祝辞と重なりました。若い二人の末永い幸せを心から祈ります。

小西なづな

1996年よりイギリス人、アイリス・ブレザー(Iris Blaser)師のもとで絵付けを学ぶ。個展を目標に作品創りに励んでいる。レザンで偶然販売した肉まん・野菜まんが好評で、機会ある毎にマルシェに出店。収益の多くはネパールやインド、カシミア地方の恵まれない環境にある子供たちのために寄付している。家族は夫、1女1男。スイス滞在16年。

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