中国がスイス主導のウクライナ和平サミットから距離を置く理由
スイス中部で15−16日に開かれるウクライナ平和サミットに中国が欠席することは注目に値する。スイスの招待を拒否したことで、中国とロシアが非欧米諸国の支持を得た独自の和平案を打ち出すのではないかという憶測が浮上している。
ウクライナの和平を模索する今週末のサミットに、主催国であるスイスとウクライナはロシアの重要な同盟国である中国の参加を強く期待していた。スイスのイグナツィオ・カシス外相は今週初め、記者団に対し、中国は4月中旬頃までに「最初の計画段階で役割を果たした」と述べた。
在スイス中国大使の王世廷氏は3月、同国はサミットへ出席を検討していると述べた。ウクライナの外務副大臣は先週、北京を訪れサミット参加を働きかけている。
>>平和サミットが開催されるルツェルン州ビュルゲンシュトックの地図:
しかし、中国は下僚すら派遣しない。中国外務省の報道官は、サミットの取り決めと中国の要求(ロシアが出席すること)との間に「明らかな食い違い」があることを理由に挙げた。
国営紙チャイナ・デイリーは、ロシア抜きではサミットは「無意味」と説明。「ロシア代表抜きで、どうやって双方が合意に達することができるのか」と批判した。
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中国が支持する代替和平案
スイスの平和サミットは、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の呼びかけで開催される。ロシアは当初から不参加を表明していた。できるだけ多くの国の支持を取り付けるため、サミットではゼレンスキー氏の10項目の和平案のうち、核の安全保障など他の和平案と一致する数点に絞って協議する。しかし、中国は今もなお、このサミットをゼレンスキー氏の和平案の単なる「プラットフォーム」に過ぎないと言い続けている。
シンクタンクの国際危機グループは、スイスはアフリカやアジアの国々をほとんど出席させることができなかったと指摘する。「BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)」のうち、スイスに高官代表を派遣しているのはインドだけだ。
中国のサミット不参加が明らかになった後、ゼレンスキー氏は、中国がロシアに協力して他の国に圧力をかけ、サミット参加を回避させたと非難したが、中国はこれを否定している。
ロイター通信によると、和平サミットを直前に控え、中国は自国の代替和平案を支持するよう各国に働きかけている。
中国とブラジルは5月、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が中国の習近平国家主席を北京に訪問した直後、ウクライナに対する6項目の共同和平案を発表した。その6項目の中には、「適切な時期に」両当事者を交渉テーブルに着かせる和平会議の開催が含まれている。習氏は、中国はそのようなイベントを開催する用意があると述べた。
この共同提案は、中国が昨年3月に発表したウクライナ戦争終結のための12項目の計画に続くもので、具体的な内容は乏しい。プーチン氏は先月、中国の平和原則を称賛。新華社通信に対し、北京は戦争の「根本的な原因とその世界的な地政学的意味」を「真に」理解していると語った。
ロイターの取材に応じた外交官によると、中国政府は外交官らに対し、多くの発展途上国がスイスの平和サミットに対する意見を共有していると伝えている。中国の王毅外相は先週、45カ国が中国とブラジルの提案を支持していると述べた。
最新の中国案は、ウクライナの「ロシアと中国が重要な非西洋諸国を説得して、ゼレンスキー氏の和平案への対抗案、すなわち、ロシアが占領した領土を保持する権利を多かれ少なかれ公然と肯定するような案への支持を取り付けるかもしれないという懸念」を強めるだけだ、と国際危機グループは言う。
これとは対照的に、和平プロセスにおけるウクライナの目的の1つは、「完全な領土保全の回復」だ。
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ロシアとの関係を強化する中国、そしてグローバルサウス
サミットに出席しないことで、中国はロシアと足並みをそろえているのかもしれない。しかし、戦争が始まって以来、中ロ関係は不穏だったと英王立国際問題研究所のシニアリサーチフェロー、ユー・ジエ氏は言う。ロシアのウクライナ侵攻を糾弾しないことは、「国家主権と領土保全を守るという(中国の)外交上の基本原則に反する」と説明する。
戦争が始まって以来、西側諸国がウクライナ侵攻を理由にロシア制裁を行うなか、中国はロシアの石油とガスの主要な消費国となっている。ロシアと中国の貿易額は2023年には2400億ドル(約35兆円)超に達した。中国は今やロシアにとって最も重要な貿易相手国であり、自動車から衣料品まで幅広い商品を供給している。
中国はロシアへの武器売却を否定しているが、米国は中国がロシアの軍事用機械の重要な部品を供給していると非難している。
この関係を強固なものにしておくことは、米国との対立を乗り切る上で有効だ、とユー氏は主張する。「近年の二国間協力の深化は、両国が世界の舞台で大国としての地位を示し、米国の優位に対抗することを可能にしている」。先月、習氏とプーチン氏は北京で、両国の戦略的関係を深めるための文書に署名した。
中国がウクライナ戦争に対する西側の見解に屈しないこと、そしてどのようにすれば平和を達成できるかは、非西側諸国にとっても魅力的だ、とユー氏は付け加える。
「ウクライナでの戦争は、この戦争を西側の白・黒の観点で見ていないグローバルサウス(新興・途上国)との関係を中国が改めて推進する機会を図らずも作り出してしまった。」
この新たな後押しが、中国の努力によって広く支持されたウクライナの和平プロセス実現につながっていくのかは、まだ分からない。
編集:Balz Rigendinger、英語からの翻訳:宇田薫、校正:上原亜紀子
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