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ダボス会議 2025「インテリジェント時代に向けたコラボレーション」とは?

ダボス
世界経済フォーラムの年次総会、通称ダボス会議が今年もスイス東部ダボスで開かれる Keystone / Gian Ehrenzeller

スイス東部ダボスで20日〜25日に開かれる世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)は、「インテリジェント時代に向けたコラボレーション 」と題し、すべての人のための人工知能(AI)革命を推進し、保護主義を打破するための国際協調を世界のリーダーたちに訴える。

会議ではウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長、中国の丁薛祥(てい・せつしょう) 筆頭副首相、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領、南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領 、スペインのペドロ・サンチェス首相が特別講演を行う予定だ。

地政学的なホットトピックも目白押しだ。「ウクライナの前途」と題したパネルディスカッションには欧州議会議長とポーランド外相が、そして「2025年の世界におけるロシアとその位置」は、スウェーデンの財務大臣が参加する。中東地域の「温度低下」に関する高官レベルのセッションにはサウジアラビア、ヨルダン、イラクの外相が参加する。また、「ラテンアメリカの断層」は、ペルーとパナマの大統領が出席する。

WEFの創設者クラウス・シュワブ氏は、バングラデシュ暫定政権を率いるムハマド・ユヌス氏、マレーシアのアンワル・イブラヒム首相と恒例の1対1の対話をステージ上で行う予定だ。

出席するか否かが取り沙汰されていたドナルド・トランプ米次期大統領はオンラインで参加する。

AI・グリーン革命を推進

2025年のダボス会議は「インテリジェンス時代に向けたコラボレーション」に焦点を当てる。

トランプ氏は、輸入品の関税引き上げをちらつかせ、「アメリカ・ファースト(米国第一主義) 」政策を通じた経済ナショナリズムへの回帰による保護主義を唱えるが、WEFの主催者はその逆を望んでいるようだ。

WEFはウェブサイト上で、保護主義へのシフトと相まって社会の分裂が深化し、それが貿易と投資を妨げていると警告する。世界がデジタルで持続可能な経済へ移行するのを支えるという共通目的は、大国間の競争への解毒剤となりえるーーWEFはこの年次会議で、それを世界の指導者たちに呼びかける。

2024年10月に世界貿易機関(WTO)が公表した最新の貿易見通しは、「途上国と先進国の貿易主導による所得収束には、経済がデジタル貿易とグリーン技術貿易から利益を得る能力が不可欠となる」と述べている。また、「デジタルで持続可能な世界経済への転換を支える包括的な世界貿易システムを構築するには、多国間協力が引き続きカギとなる」としている。

ダボス会議で取り上げる「インテリジェント時代に向けたコラボレーション」の分野で、カギとなるポイントを紹介する。

WEFによると、世界のインフラ格差は2040年までに15兆ドル(2340兆円)に達する見込みだ。各国は、デジタルトランスフォーメーションを可能にし、大規模な公共サービスを提供するために、どのような物理的、デジタル、制度的投資を優先すべきかを決定しなければならない。

インフラには、AIデータセンターやスマート・エネルギー・グリッドのようなハードウェアだけでなく、デジタルIDや決済システムも含まれる。それを実現するには政府と民間が協力し、すべての市民に利益をもたらすデジタル・エコシステムを構築しなければならない。政府は政府のオープンデータを一元的に利用できるようにし、企業は普遍的なセーフガードと責任あるAIモデル開発に同意しなければならない。

官民協力の一例にはエストニアのX-Road外部リンクがある。X-Roadは、官民間でデータを送受信するための安全なデータ交換レイヤーだ。これはエストニア電子政府のバックボーンであり、国民の労働時間を毎年1345年分節約していると推定される。

包括的なデジタル革命が最大の効果を発揮するには、国境を越えたデータの共有も必要となる。創薬、自動運転車、金融における進歩が最良の結果を得るには、こうしたデータ共有が欠かせない。すべての人に最大限の利益をもたらすためにはどうすれば良いのか。

これを実現する取り組みの1つが「GAIA-X外部リンク」だ。安全なデータ共有とAI開発強化を目指し欧州の複数の国、業界、組織が参加する分散型クラウドで、欧州全域のスタートアップ企業や公的機関が、一般データ保護規則(GDPR)に準拠した大規模な公共データセットにアクセスできる。例えば、手術のビデオ録画をAIに学習させ、手術中のリスクを検出することも可能だ。

テクノロジーを人と地球のために

国境を越えたコラボレーションは、デジタル革命の恩恵を最も必要とする人々を救う。世界では45億人以上の人々が、必要不可欠な医療サービスを受けることができない状況にある。AIとデータのエコシステムのアクセシビリティと効率性を向上させれば、こうした世界格差に対処できる。

例えば、がんの場合は、AI、遠隔医療、デジタルヘルスプラットフォームといったテクノロジーが、がんの診断、治療へのアクセス改善、医薬品のコスト削減に貢献できる。

ワクチン配布も同様だ。約10人に1人が定期的な予防接種を受けることができていない。産業用サプライチェーンで使用されるテクノロジーは、タイムリーな配達を保証するために最適な輸送ルートを計画できる。ワクチンの有効性を維持するためのコールドチェーン管理の改善にも役立つ。

環境もまた、グローバルなデジタルトランスフォーメーションから恩恵を受ける。WEFによると、経済成長には資源使用の増加が必要であり、2060年までにそれが60%増加すると予想される。そのため今年のダボス会議は、収益性の高い資源効率を実現し、循環型経済を推進するためのテクノロジーとイノベーションの活用を主要テーマに据えている。例えば、AIは生産に必要な原材料の正確な量を予測したり、製造の効率化を図ったりする場面で活用できる。

循環型経済における新興分野の1つが、2030年までに30兆ドル規模になると予測されるバイオエコノミーだ。バイオエコノミーは、農作物や林産物、海洋資源などの再生可能な生物学的資源を利用し食料、材料、エネルギーを生産する。バイオエコノミーから生まれる製品には、バイオ燃料、バイオプラスチック、バイオベースの化学薬品、医薬品などがある。

保護主義と経済ナショナリズムを打破

デジタル技術とサービスの恩恵を最大限に得るにはデータの共有が必須だが、互いに競合する、あるいは疑心暗鬼に陥っている経済圏の間ではそれが浸透しにくい。

「多くの国々は、データがどこに存在し、誰がそれにアクセスできるかをますます気にするようになっている。データを重要な国家資産とみなし、国境を越えたデータの流れを規制・管理しようとする動きが出てくるかもしれない」。チューリヒ大デジタル・ソサエティ・イニシアチブに所属する倫理学者で政治学者のニン・ワン外部リンク氏はそう分析する。

同氏によれば、健康記録や自律走行車のセンシングデータのような機密データを共有する場合、データ保護法や規制の枠組みを調和させることは難しい。その結果、国境を越えたデータ共有は、データのセキュリティとプライバシーに関する重要な倫理的・ガバナンス的懸念を引き起こす。

しかし、データ共有に関する国際的な基準や協定を策定できれば、主権に関する懸念に対処しつつ、各国が協力するための枠組みを提供できる。ワン氏は、国連や世界貿易機関のような国際機関や電気電子技術者協会などの専門家団体が、基準作りに重要な役割を果たせると期待する。  

「このプロセスで留意すべきなのは、データ共有の相互利益を強調することが、経済ナショナリズムの打破に役立つのだということだ。複数の国のデータをプールすることで、AIアプリケーションのデータセットの包括性が増し、すべての関係者が利益を得られる」(ワン氏)

国境を越えた共有と保護を両立させる暗号化技術などのテクノロジーの進歩も、データの安全性や主権に関する懸念を軽減するのに役立つ。

政府としても、国益を守りつつ、責任あるデータ共有を奨励する政策を通じてイノベーションを促すことができる。 ワン氏は「例えば、機密性のないデータを共有するインセンティブを企業に与えたり、より大きな利益のために国際機関が管理するデータ・トラストを設立したりすることが考えられる」と話す。

編集:Balz Rigendinger/gw、英語からの翻訳:宇田薫、校正:大野瑠衣子 

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