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学校犬、集中力を高めて成績を上げる「お手伝い」

生徒の足元でくつろぐ学校犬キアラ swissinfo.ch

生徒のストレスを減らし、集中力を高めるという学校犬の存在がスイスで広まりつつある。

ゾーロトゥルン州シュノットヴィル(Schnottwil)の中学校で教師を務めるドイツ人のバーバラ・ルーファーさん(38)は、動物介在教育士として学校犬の普及に取り組んでいる。授業には、犬のキアラがいつも一緒だ。

 課題を解く生徒たちの足元をキアラはゆっくりと巡回し、体を触れられると嬉しそうに顔を上げる。「犬に触れることで、生徒の(コチゾールなどの)ストレスホルモンの値がぐっと下がる」とルーファーさんは言う。

学校犬は生徒の気分を和ませる

 ルーファーさんは日本で中学3年生にあたる9年生のクラス担任。生徒はわずか12人。基本的にすべての教科を1人で受け持ち、体育の授業以外、キアラはいつもルーファーさんと一緒。「キアラがいるとすごく落ち着くし、リラックスできる。授業の邪魔になんてならない」と、クラスの生徒からもキアラの評判はすこぶる良い。

 教室に犬がいるだけで、クラスの雰囲気が明るくなり、生徒のストレスや不安が軽減されることは、すでにウィーン大学の研究などで証明されている(右欄参照)。

 ストレスが減ると、生徒の集中力も高まり、結果的に成績も上がりやすくなるとルーファーさんは話す。特に試験が怖いと感じる生徒には効果的だ。学校犬に触れることで生徒は気持ちが落ち着き、冷静に試験に臨むことができると強調する。

 「動物介在教育士の中でも、ご褒美として試験後に犬を授業に連れてくる人もいるが、それでは意味がない。試験前に生徒のストレスを緩和することが大事だ」

 学校犬は小学校で導入されることが多いが、ルーファーさんは悩み多き思春期の若者にこそ意義があるという。

 「顔がニキビだらけだろうが、太っていようが、そんなことは犬にとってどうでもいいことだ。ところが生徒同士ではそういかないことが多々ある。お互いに寛容だとも限らない。その点、犬は相手が何を考えているのか気にしないし、そういう点が犬の素晴らしい資質だと思う」

 授業中、生徒の足の下をくぐり抜けたり、机の下におとなしく伏せていたりするキアラだが、学校犬として授業に参加することは大変な仕事だ。生徒のちょっとした動作や、教室に漂ういろいろな匂いのせいで、一見リラックスしている様子だが、実はあまりくつろげていない。そのため、朝の授業が終わるとキアラはヘトヘトになる。

きっかけはアルパカ

 ドイツの農家で生まれ育ったルーファーさんは、幼い頃から動物が好きだった。教師として子供と接していく中、動物には子供の興味を引き付ける力があると気づき、動物を使ったセラピーに関心を持つようになった。それについて調べていくうちに、アルパカにイルカと似たセラピー効果があることを知った。

 「イルカは飼えないけれど、アルパカなら自分で飼える。どうせやるなら本格的にやりたい」

 動物介在教育が学べるところを探し、たどり着いたのがドイツのフライブルク動物介在療法協会(Freiburger Institut für tiergestützte Therapie)だった。そこで初めて、学校犬の存在を知った。

 「学校犬はいいアイデアだと思った。しかも、その時飼っていた犬のほかに、もう一匹飼いたいと思っていたところだった。この際学んだことを生かして、犬と一緒に学校で働いてみたかった」

みんな初めは疑心暗鬼

 学校犬として将来活躍する犬を見極める子犬選びは、盲導犬候補の選び方と同じ方法で慎重に行った。選んだ犬種は、ラブラドールとプードルをルーツに持つラブラドゥードルだ。

 「キアラを学校犬として授業に参加させる際、アレルギー問題などについて生徒の両親や学校側と一緒にきちんと話し合わなくてはならなかった。ラブラドゥードルは毛が抜けにくく、アレルギーを引き起こしにくいため、キアラのせいで誰かがアレルギー反応を起こす可能性は低かった」とルーファーさんは当時を振り返る。

 同僚の教師たちも、学校に犬を同伴することに初めは半信半疑だった。

 「校長やほかの教師は、学校に犬を参加させるなんて大丈夫なのかと最初は不安に思っていた。だがこの犬はきちんと訓練を受け、試験に合格した犬だとわかると、安心し、受け入れてくれた」

 ドイツでは学校犬が比較的普及しているのに対し、スイスではまだあまり普及しておらず、実際スイスにどれくらい学校犬がいるのか正確な数字は不明だ。さらに、学校犬という地位も確立されていない。しかし学校犬をスイスでも広めようと、ルーファーさんは今年7月からフライブルク動物介在療法協会スイス支部の中で学校犬のための訓練コースを開く。募集人員はほぼ定員に達している。

 「やっとスイスでも学校犬の訓練が受けられると喜ぶ教師の声がたくさん届いた。問い合わせも多く、嬉しく思う」

 スイスでの学校犬の試みは始まったばかり。こうした学校犬がさらに普及すればと、ルーファーさんの熱心な取り組みは続く。

スイスでは現在、フライブルク動物介在療法協会スイス支部または国際動物介在療法協会(ISAAT)がそれぞれ独自に学校犬の訓練および資格試験を行っている。学校犬の訓練には犬はもちろん、飼い主も講習を受けなければならない。交通事故など何かショックになることが起こると性格が変わってしまったり、それがトラウマになってしまう犬が多いため、犬は毎年試験を受けなければならない。

ウィーン大学のアンドレアス・ヘルゴヴィッチ教授らは2002年に発表した論文で、犬が子供の成長にどのような影響を与えるのかを検証した。小学校1年生の2クラスを比較し、一方のクラスでは犬と一緒の授業が、他方のクラスでは犬不在の授業が3カ月間行われた。検証期間の終わりに心理テストをしたところ、犬のいたクラスでは、子供たちの動物への思いやりがはるかに強くなり、さらに問題解決能力もぐんと高まったことが明らかになった。

また、同大学のクルト・コトルシャル教授らが2003年発表の論文で、移民の子供が半数を占めるクラスに犬はどんな影響を及ぼすのかを調べたところ、授業中に犬がいると子供たちの社会性が高まり、クラスがまとまりやすくなったことが分かった。さらに、それまで攻撃的だったり落ち着きのなかった子供や引っ込み思案の子供もクラスにうまく溶け込めるようになり、また子供たちは教師により注意を向けるようになった。

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