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学童のセラピーブームを医師が批判

注意散漫だとセラピー行き?先生の話に熱心に耳を傾ける児童 Keystone

苦手な勉強を克服しようと、スイスでは学童の半数以上が何らかの形でセラピーを受けている。

これは行きすぎだと言うのは、ソロトゥルン州で小児科医を務めるトーマス・バウマン氏とツーク州の小児科医および児童精神科医のロメディウス・アルバー氏だ。親や教師、医師らは子どもにあまりにも期待しすぎていると忠告する。

 この両氏は最近、勉強が不得意な子供に関する本を出版。保健専門家に向けて285ページを執筆した。目的は、不必要なセラピーを受ける子どもの数を減らすことだ。

 バウマン氏はドイツ語圏の日曜新聞「NZZ・アム・ゾンターク(NZZ am Sonntag)」でのインタビューで、最近の親は子供が学校でつまづくとすぐに子供をセラピーにやってしまうと憂慮する。「『勉強ができない?それなら診断を受けて、何らかのセラピーをやらせよう』。こんな考え方は今すぐ正さなければならない」

 診療所を開設した30年前、勉強ができないためセラピーに通う子供などほとんどいなかったと、バウマン氏は当時を振り返る。だが、現在では子どもの半数以上が何らかのセラピーを受けている。「子どもは変わっていない。ただ、標準からずれたら異常だと診断することが増えている。何が普通で何がそうではないかという認識が、今では全く間違っている」

 こうしたことを背景に、多くの親が子どもに補修授業や心理療法を受けさせ、子供の勉強で気になった点を解決しようとしているという。

奮闘する親

 勉強がはかどらないため、セラピーを受ける子どもの数がこのところ増加していると感じているのは、保護者のための学校教育団体「学校と家庭(Schule und Elternhaus)」のバーゼル・ラント州支部長マティアス・フーゲンシュミット氏も同じだ。

 「学校と家庭」は学童のいる家族の声を代表する団体で、スイスドイツ語圏全体に支部が置かれている。

 フーゲンシュミット氏は、こうしたセラピーが一般的になった原因はいくつかあると話す。だが、主な理由は学校だけでなく、社会全体でも子どもにかける期待が大きくなっていることだという。

 「親はこうしたさまざまな期待から子どもを守るフィルターだ。しかし、明るい将来のためには何が子どもの成長に本当に必要なのか、どんなことをしなければならないのか。こうしたことを見極めるのに苦労している親が多いのだろう」

 フーゲンシュミット氏自身も4人の子どもを持つ父親だ。無理な期待が子どもに与える影響を危惧している。「教師からだろうが、親からだろうが、過度な要求は子どもに重い負担となるだろう。この三者間で一番弱い立場にいるのは子どもだ。プレッシャーに押しつぶされて、治療が必要になるかもしれない」

 こうした要求が子供の生活の質に悪影響を及ぼすのであれば、一般的には助けが必要だとフーゲンシュミット氏はみる。「例えば、パニック発作や睡眠障害、行動問題などが見られた場合、専門家の助けは不可欠だ」

誤診

 バウマン氏とアルバー氏によれば、注意欠陥・多動性障害(ADHD)と誤診される子どもも珍しくはないという。教師にアンケートを取れば、男子児童の3人に1人は落ち着きがないとか注意散漫だと判断されるかもしれない。だが、こうしたアンケートはいつも非常に主観的だとバウマン氏は言う。

 アルバー氏の経験では、実際ADHDの疑いがあるのは、その中のわずか3分の1の子どもだ。それ以外は全く違う理由によるという。「移民の子供を例に挙げれば、授業中に先生が話す言葉の意味があまり分からなくて退屈することもあるかもしれない。そのために落ち着きがなくなったとしても、それとADHDとは全く関係がない」

良いところを強調

 根本的な問題は、子どもたちが受けなければならない心理テストや適性テストが多すぎることだと、バウマン氏とアルバー氏は指摘する。このようなテストは子どもの欠点を探すことを重視し過ぎ、逆に子どもの長所にはほとんど注目していないという。

 アルバー氏は「NZZ・アム・ゾンターク」紙で次のように語っている。「昔は、人はもっとゆったりしていたものだ。ただ単純に、頭の良い子どももいれば、出来の悪い子どももいた。何か一つ出来なくても、いずれちゃんとした仕事につけるだろうと人々は考えていた」

 特別な助けがあれば確かに有益かもしれない。しかし、バウマン氏は次のことを忠告する。「セラピーは、それを受ける人にレッテルを張る。子どもが普通でありたいと思っていても、毎週水曜午後、サッカーをする代わりに上手に話すためのセラピーに通わなくてはいけないとしたら、その子は当然、普通にはなれない」

 バウマン氏とアルバー氏が保護者に勧めるのは、欠点を直すことより長所を伸ばすことに力を入れているセラピストの元に子どもを行かせることだ。「普通、子どもはこのようなセラピストには喜んで会いに行く。こうした人が子どもに与える影響はむしろ良いものだ」

各州が学校教育の責任を負っているため、スイスには26の教育制度が存在する。現在、各州で異なる教育制度を統一しようとする取り組みが行われている。

すべての子どもに9年間の義務教育が課される。義務教育修了後、一般的に職業訓練と大学進学への道に分かれる。

小学校は6歳から。小学校終了後、学童は中等教育に進むが、どの中学校(中等教育第1レベル)に進学するかは学校での成績や教師の推薦による。進学テストを課すところもある。進級の際には、テスト結果や行動、勉強に対する態度が決め手となる。

職業訓練や見習いを始めるのか、それとも高校に進学するのかはこの中等教育第1レベルで決める。

16歳になると、ほとんどすべての人が中等教育第2レベルへ進む。期間は基本的に3年から4年。現在、3分の2以上の若者が職業訓練に進んでいる。職業訓練生は見習い先での勤務に多くの時間を費やすが、週に1、2度は職業訓練学校にも通う。

スイスの10代の若者は読解、数学、科学で65カ国の平均をはるかに上回ったことが、2010年末に公表された国際学習到達度調査(PISA)で分かった。

この調査は経済協力開発機構(OECD)が2009年に行ったテスト結果に基づくもので、テストには34の加盟国と31の非加盟国・地域から約47万人の15歳の生徒が参加した。

スイスからは約1万人の生徒が参加。2009年の調査では、2000年の第1回調査同様、読解力に重点が置かれた。

スイスは第1回調査に比べ6ポイント上昇し、OECD平均よりもはるかに上位のグループに仲間入りした。

スイスよりも読解で得点が高かったのは、ヨーロッパではフィンランドだけだった。

調査では、生徒の社会経済的背景が恵まれているほど、読解力が高いことが分かった。このことはスイスに限らず、OECD加盟国全体に当てはまる。

(英語からの翻訳・編集、鹿島田芙美)

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